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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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08 結構な努力家だったようです

 

「あっ! ウィルク」


「ん? リリアちゃん、どうしたんだい?」


 俺達はパラディオン・デュオで決められたペアと話をしているであろうウィルクを探したのだが、何故か殿下達と一緒だったところを発見。


「もしかして取り込み中だった?」


「いや、リリアちゃんの為なら俺、気にしないから」


「――気にして下さい!」


「あだっ!?」


 俺の両手を握っているウィルクにハーディスは、げしっと足を踏む。


 やはり取り込み中だったらしい。


「じゃあいいや。じゃ……」


「いやいや待て待て、そんなに軽い用件だったのか?」


 あっさりと引き下がる俺を見て、殿下が止めた。


「いやだって、殿下の用事に比べれば全然……」


「聞き分けがいいにもほどがある。少しくらいなら時間はあるし、この学園では身分の差はないものと見てほしいぞ」


「これでも見てない方ですよ、私。それでも例の大会のパートナー放っといて一緒にいるのはそういうことでしょ?」


「……まあ、マルキスにはすまないと思っているよ」


 例の事件やこの学園の方針もよくわかっている。


 実際、あの事件以来、貴族風を吹かせるような奴は見かけなくなった。


 とはいえ、学校行事に青春を捧げたそうな殿下が護衛二人と一緒にいるというのは、そういうことだろう。


「なに、ちょっと不穏な噂が立っていてな」


「噂ですか?」


「お前達は気にしなくていい、それより――」


 ちらっと俺の後ろにいるシドニエを見る。


「何故、ファルニがいるのだ?」


「殿下、彼女のパートナーは彼です」


「ああ、なるほど」


 ハイドラスは納得したような表情と返事をする。


 色々と考えを巡らせる人だ、用件もこれで理解したのではないだろうか。


「殿下っ! ご、ご機嫌うるまちゅ……」


 この男は噛み癖でもあるのだろうか、また噛んだぞ。


「まだ私と話すのに緊張しているのか?」


 緊張して喋ると噛み癖があるのをわかっているような口ぶり。


「す、すみません」


「謝る必要はないが、用件とは彼のことか?」


 同じ騎士科なのだ、彼にどんな問題があるのかも把握しているだろう。


「あ、はい、そうなんです。ウィルクは何でも精神型だとかで……」


「やはりか……」


 やっぱり把握していたよう、話が早くて助かる。


 ウィルクはリリアの頼みだからと、二つ返事でオッケーが飛んでくるものと思っていたのだが、何かと葛藤しているかのように、眉間にシワを寄せ、目を強く瞑り、悩んでいる。


 そんなに悩むことなのかと思っていると、残念そうな表情で返事をする。


「ごめんね、リリアちゃん。君の力になってはあげたいが、中々難しいことでね……」


「やっぱり精神型が肉体型みたいな戦い方は難しいと?」


「というか、俺自身がまだまだだからね」


 自分の自己評価が意外と謙遜(けんそん)的なことに少し驚く。


 確かにウィルクは、女の子の前ではカッコつけたりはするが、実力をひけらかすようなことはしていなかった。


 とはいえ王族の護衛という名誉ある立場なのだ、多少ならとも感じていた。


「まあ並々ならぬ修行を積まなければ難しいですから……」


「そうだな、予選会に合わせることを考え、約三ヶ月くらいでウィルクほどの前衛技術を身につけるのは無理だ。それこそ、天才と呼ばれるような部類の人間でなくてはな」


 二人はウィルクが、どれだけ過酷な修行を積んだのか理解しているように話す。


「そんな言い方されると気になるんだけど……?」


「うーん……あんまり話したくはないんだが――」


 ウィルクは渋るように自分の話をしつつ、断る理由を語る。


 ウィルクはアーマイン家の人間として生まれた。


 彼の家はハーディスの家同様、王族に側近する立場の騎士家系の上級貴族。


 この二人の家以外にも、そのような家がちらほらとあったのだが、周りからはウィルクは側近騎士にはなれないと、口々に言われていたらしい。


 それは騎士としての魔力種類が精神型であることだ。


 精神型、水属性。


正直な話、才能には恵まれてはいたが、家族が望む形での才能ではなかった。


 あくまで魔法使いとしての才能としてだったのだ。


 勿論、精神型でも天才とされる人間は、騎士科同等、それ以上の戦いをする者もいるが、ウィルクはそんな才能に目覚めてはいなかった。


 家族から期待もされず、周りからは言われもない侮辱を浴びせ続けられたウィルクは、まるで見返すかのように特訓に打ち込んだという。


 結果として今現在の立場にいる。努力という実をならした証明だろう。


 しかし、一朝一夕の話ではすまないし、代償もそれなりにある。


 ウィルクは治癒魔法以外の魔法が、精神型なのに使うのが難しいという。


 しかも、騎士に側近護衛に選ばれたとはいえ、ハーディスと実力を比べれば、実はハーディスの方が格上なのである。


 ハーディスは彼とは逆で、肉体型の風属性、しかも側近としての英才教育まで根強く叩き込まれた影響もあってか、割と簡単に今の立場を確立している。


 結局な話、特訓しても肉体型の、特に風、光、闇持ちには遠く及ばないという話らしい。


 しかもウィルクまでの実力を身につけるのでも年単位の時間を労するという。


「――ということなんだ」


「苦労したんだね……」


 何かちょっと聞いてはいけない話を聞いた気がするそんなに苦労してたとは思わなかった。


 俺自身もリリアの才能を何の苦労もなく、使っているのだ、ちょっと良心が痛む。


「そうですよね。話しづらいことまで話してもらっちゃってすみません」


「いいって、俺はそんなの気にしないさ」


 ウィルクは何気なく話すあたり、ちゃんと乗り越えたんだ。ただの女好きの爽やかイケメン野郎と思っていてごめんなさい。


「それに断る理由はもう一つ……」


「えっ、まだ何か?」


「先程、殿下が仰っていたでしょう? 不穏な噂の調査をしなくては……」


「その際に殿下の護衛をね」


 あくまで噂の段階だから、下手に騎士を動かせないらしく、独自に調査するとのこと。


「じゃあしょうがないね、別の方法を考えよう」


「お手数をおかけしました」


「相変わらず真面目だな。君やアルビオみたいな者こそ、報われてほしいものだ」


「ごめんね、リリアちゃん! この埋め合わせは必ず!」


「そこは大丈夫です」


 ウィルクの言う埋め合わせは、下心があるような気がしてならないので、丁重にお断り。


「ん? アルビオ?」


「どうかしました?」


 俺の引っかかったような表情を見て、ハイドラスは推薦する。


「そうだな、アルビオに相談してみるのはどうだ? 正確には精霊にだが……」


 精霊なら魔力操作が得意なはずだから、何か意見を貰えればいいが、フィンの態度を考えると難しい気もするが、色んな方法という意味では選択肢の一つだろう。


「わかりました、ありがとうございます」


 ハイドラスの言う、不穏な噂が気にかかりながらも、その場を後にした。

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