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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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07 とりあえずお互いのことを知ろう

 

「えっと、オルヴェールさん! 今日はよろちく……よろしくお願いします……」


「……えっと、よろしく」


 よろちくと言えば良かっただろうか、まさかまた噛むとは。


 その本人もまたやってしまったと目を見開き、赤面している。


 現在、放課後の空き教室にて、お見合い中。


 あ、冗談ですよ。お互いの情報交換や今後の方針とかの語り合いの場です。


 ――さて俺達は今日からの午後の授業、実戦授業だが、特別な呼び出しがない限りは、自由な時間を過ごすことができる。


 要するには学校自体が午前のみとなる。


 先日、説明されたパラディオン・デュオに向けての色々な準備をする時間として設けられる。


 お互いの戦闘能力の向上、装備、戦術、敵情視察などあらゆることをパートナーと行うということ。


 とはいえ、みんながみんな真面目に取り組む訳ではない。サボりたくなるのが、学生の(さが)とも言うべきだろうか。


 実際、テテュラ達のように成績に響かない程度に頑張るというペアも珍しくはないだろう。


 夏季休暇明けに行われる予選は、実戦授業の一環だ。ある程度、成績には響く。


 先生側からすれば、どれだけの成長ができたのかから判断が付けやすい。


 理にかなっているものと思う。サボれば一目瞭然だろう。


 とはいえ、別の意味でチャンスと見る生徒も多い。


 自身の成長は勿論だが、やはり男女関係の進展を求める者もいるだろう。


 学生としては色めいた学園生活は望むところだろう。


 しかも、今年に関しては学園祭ではなく、建国祭にて行われるというところも大きい。


 色んなお偉いさんに、自身の実力や能力を見せる場としては最高の舞台であるだろう。


 否応にでも気合の入る者達も多いだろう。


 そんな中で俺自身の心境はというと、異世界での大きなイベントということもあって、それなりに気分は高揚してはいるものの、正直、実感が湧かない。


 先日の説明の際に気合の入った表情をする者達を何人も見かけた。


 おそらくは、自分の地位を確立したい貴族達や成り上がりたい平民の者達だろう。


 彼らは、これがどれだけのものか理解している為、そのような表情をしていたのだろうが、どれだけの規模か見当もつかない俺としては――まあ派手にやるんだろうな程度の考え。


 だが、周りの期待もある程度はある為、頑張りつつも勝てたらいいなくらいの無理のない気持ちで望もうと考えている。


 力み過ぎるとかえって良くないと思うので。


 だからシドニエにも緊張せずに臨んでほしいのだが、どうにもそう上手くはいかないらしい。


「そんなに緊張しなくてもいいよ、シドニエ君」


 ちなみに最初は君付けで呼ぼうと思います。


 正直、女の子から急に名前呼びっていうのは、変な誤解を生みそうとも考えたが、パラディオン・デュオという闘技大会で、少なからず信頼し合った仲くらいにはならないといけないと思う。


 なので、こっちから最初に寄り添った方が変な誤解を生みにくくなるのではないかと考えた。


 その名前呼びにドキッとしたのか、さらに動揺する。


「あのっ、何で名前……」


「これから大会に向けて一緒に過ごす機会も増えるだろうから、少しでも仲良くなるきっかけにってことだよ」


「そ、そうだね、さすがだね」


 とりあえず女は褒めとけっていうのの、実行だろうか、俺にはそれは全く意味がないが。


「とりあえずお互いの今の能力について話し合おうか。ある程度はリュッカ達から聞いたけど、ちゃんと自分から聞いとかないとね」


「そ、そうだね……僕はえっと、シドニエ・ファルニ。年齢は十五歳、身長は……」


 えっと、本当にお見合いみたいになってるから。


「えっと、そこじゃなくて戦闘能力についてだよ。属性とか魔力の種類とか……」


「あっ!? えっと、ごめんなさい。ええっと……」


 緊張し過ぎて、頭が回らないらしい。


 無理もない。俺も逆の立場なら舞い上がって、緊張してこんな感じになる自信がある。


 見た目は美少女、中身は童貞チキン野郎ですから。


 なので気持ちがわかる分、対処もわかるということで、先ずは下手なことを言わず冷静になるまで、見守るような柔らかい感じの表情で待つ。


 こんな可愛い()に、同情を買われては男としては、顔向けが難しいのと、声をかければ余計に焦らせることになるからだ。


 すると読みどおり、一人わたわたしていたシドニエは、こちらに気付くと申し訳なさそうな表情をして静かになった。


 ここで手本となるように、こちらから情報を提示する。


「私は精神型の火属性と闇属性持ち。使い魔はインフェルノ・デーモンとはいえ、この大会では使用禁止みたいだから意味ないけどね」


 女の子の話だからだろう、しっかりと聞かねばと顔を逸らしつつも、静かに聞き入る。


「魔法については一部の最上級魔法まで使えるのと、あとは無詠唱もできるよ。そこは追々ね」


「は、はい! でも、お噂どおりですね。やっぱりすごいなぁ、僕なんかとは全然違う」


 やはりリリアの噂は広まっているよう。俺の情報を聞いて自分との差に落胆した様子を見せる。


 実際問題これ結構、残酷なことをしてもいる。


 現段階で実力を合わせたペアということは、実戦能力の高い者には低い者を当てられる。


 俺は立場上から弱い者を当てられ、どうしようと考えるが、シドニエからすれば、先ず浮かぶのはどう迷惑をかけないようにするかだろう。


 つまり、一緒に戦おうと肩を並べるいうより、あくまで後ろからついて行き、足手まといにならないようにすることを考えるだろう。


 この発言からそう捉えられる。


 だからこそ、こちらから寄り添うべきなのだろう、見捨てる気はないと。


 俺のこの基礎としての力は、あくまでリリアが鍛えあげたものだ。俺自身のものではない為、見捨てるような真似は全く考えていない。


 だから、そんなこと気にしないよとばかりに、優しく微笑む。


「次は貴方の番だよ」


 その表情を見たシドニエは、これ以上の恥はかけないと落ち着いた様子で話す。


「えっと、僕は……僕もその……精神型なんです。その、ごめんなさい……」


「謝らなくていいよ。珍しい話でもないんでしょう?」


 精神型でも勇者に憧れなくても、騎士になりたいと考える人も少なからずいる。


 そういう意味で捉えられるように話した。


「う、うん、でも……」


「大丈夫だから、属性は何?」


「えっと、地属性です。実績は最下位です……剣を振るのがやっとです」


 剣を振るのがやっとか。よくこの二ヶ月間の実戦授業の中、生き抜いてこれたな。


 フェルサはともかく、リュッカは結構疲れて帰ってくることも多いのに。


「そっか。どれだけ実戦能力が低いのかは、実戦で見るとして、どうして精神型なのに騎士科に?」


 ここ割と重要。


 シドニエとしては、男として頑張りたいと思うところ。精神型なのに騎士科に入る理由だって、相当特殊な理由でもない限り、殆どは憧れだろう。


 憧れは人を強く育てる原動力になることは、スポーツ選手のドキュメンタリーやインタビューとかで知っている話だ。


 その憧れを悪い言い方をすると、利用しない手は無い。


 すると気恥ずかしそうに頬をかいて、照れながら話す。


「勇者様に憧れているんです。僕も勇ましく、勇敢な男になりたいと……」


 勇者の日記を読む限りは、そんな印象は受けなかったが、世間では結構美化されているのだろう。


 脚色もまあ必要だと思う。


「そっか、勇者に……」


「ごめんなさい、子供みたいですよね?」


「ううん、いいんじゃないかな? 目標があることは良いことだよ」


 とはいえ、精神型と肉体型は魔力の流れの根本が違う以上、シドニエに前衛は難しい。


 とはいえ騎士科である以上、前衛はしてもらわねばならない。


「さて、どうしようか……」


「あ、あの厚かましいのですが……」


 悩んでいると考えがあるようで、おずおずと意見を言う。


「何?」


「えっと、オルヴェールさんってウィルクさんとはお知り合いで?」


「ああ……うん」


 首を傾げながら呆けたような返事をする。


 何故ウィルクの名前が出てきたのか。


「彼も確か、精神型のはずです」


「えっ!? ……ああー……」


 そう言われてみれば、リュッカを助けに行った時、治癒魔法を使っていたなぁと思い出す。


 普通に考えれば、治癒魔法が使えるのは精神型の水属性か光属性に限定される。


 確かに迷宮(ダンジョン)での戦闘でも、特別秀でてはいなかった。


 勿論、周りはプロばっかりだったからというのもあるが、殿下の護衛を任されるくらいだから正直、もっと強いものと思っていたが、そういうことかと今頃納得がいく。


「それで彼にコツとかを教えてもらえればとか?」


「……はい。ダメでしょうか」


 シドニエ自身はそう面識もないのだろう、頼みにくそうにお願いする。


 パートナーとなった以上、問題解決は必要だろう。


「そうだね、わかった。じゃあ一緒に聞きに行こう」


「は、はい、よろしくお願いします!!」


「いや、その返事はウィルクにしよ」


 ウィルクなら女の子の頼みなら聞いてくれるだろう。


 こういう時は女で良かったと思うのだった。

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