06 パートナーとモチベーション
「アイシアは何かと引きが強いよね」
「確かに……」
アイシアは不思議そうに首を傾げる。
結局、今日はパラディオン・デュオの説明、パートナーの発表、今後の授業内容についてと補足で授業は終了。
夕食を取りながら、午後の授業内容について雑談していた。
「結局、インフェルも呼び出しはできないみたいだし……」
「まあ仕方ないよ」
「仕方なくないよ〜、アルビオは精霊オッケーなのに……」
文句を垂れるが、そこには補足もついていた。
アルビオは精霊の使用は可能だが、あくまでサポートメインで行うことが条件とのこと。
アルビオは生徒としては騎士科だ、攻撃魔法を入れつつの戦闘となると、もはやパートナーとなる魔法科の生徒が完全に置き去りになるという訳だ。
だが、俺のインフェルは魔物ということもあって、サポートメインは難しく、挙句、魔力での威圧面でも優秀で、リリア自身すら必要ない状態まで考えられる。
まあ詰まるところ、前衛と後衛の戦い方をしろという話だ。
「で? みんなはパートナーとは仲良くできそう?」
「そりゃあバッチリ!」
アイシア以外を聞いたつもりだが、アイシアが即答。
リュッカは特に問題なさそうな表情。
フェルサとテテュラはいつも通りの表情で黙々と食事を取るあたり、そこら辺の関心が薄いように見える。
「えっと……リュッカは誰と?」
「確か名前は……ロバックって人かな?」
俺が初めて合同実技授業の際、一緒に組んだ魔法科の男子だ。
とりあえず知っている人だったので、ほっとする。
何かとリュッカは不運なところがあるからね。
「へえ。ロバックは確か水属性だから、色々融通が効くかもね」
「あっ、そっか。リリアちゃん、知ってる人だったね」
聞いた話だと、あれから精進しているそう。
ちょっとカッコつけてアドバイスっぽい事を言って、軽く悶絶したが、糧にしてもらえているようで何より。
「二人はどうなの?」
えっ、聞くの? みたいな、まるで他人事のような表情で、アイシアを見ると話題の種には乗っておこうと口を開く。
「……私は貴女にちょっかいを出していた貴族様よ」
テテュラは俺を見て、そう答えた。
ちょっかい、
「あっ! マルファロイ!!」
テテュラはこくっと頷いた。
他のみんなも残念そうな苦笑いを浮かべるが、テテュラは気にも止めないようで、
「私はこの大会、特に興味もないし、彼自身も特にやる気もないようだから、成績に響かない程度に頑張りましょうと、話はつけてきているわ」
「そうなんだ。マルファロイさんもやる気がないの?」
「そうみたいよ。彼、努力するタイプに見える?」
あの贅沢の限りを尽くして貪り、手に入れたであろう豚体型を思い出す。
「ないな」
「でしょ?」
「はは……」
あの豚に言い寄られた経験のある俺はさらりと答えると、リュッカは何とも言えない苦笑いを浮かべた。
「じゃあフェルサちゃんは?」
「忘れた」
もはやパートナーを覚えようともしない始末。
「大会を頑張ろうとかは?」
「私一人で十分」
もはやパートナーは記憶と一緒に置き去りにする気らしい。
ここまでいくと、名も知らぬフェルサのパートナーに同情したくなる。
「リリアちゃんのパートナーはシドニエ君だっけ?」
「ああ、うん。知ってるの?」
リュッカは俺のパートナーの事を知っているような口ぶり。
「うん、まあね。うちのクラスの最下位君だからね」
「ああ……そうなんだ」
やっぱりそういう役回りを当てられる訳ね。
「彼はどんな感じかな?」
その彼の情報を聞けるだけ聞くことにした。シドニエのことを第三者からの意見を聞くというのは、必要だろう。
「真面目な人ですよ。優しくて頑張り屋さんな感じかな?」
リュッカの印象は悪くないようだ。
かく言う俺も第一印象は悪くない。ちょっとドジな天然ぽさがある男の子という印象。
野郎に天然はちょっとと思うが。
「だけど彼、精神型よ」
「えっ!?」
テテュラはさらっと重大なことを口にする。
それに対し、リュッカも驚いた様子を見せる。
「そうだったんですか? 私、気がつきませんでしたが……」
「感知魔法が使えればわかることよ」
「感知魔法でわかるものなの?」
「ちょっとコツはいるけど、体内の魔力の流れを見られればわかることよ」
俺は感知魔法については、ザーディアスとテテュラに教わっている。
精神型ではなく、肉体型の二人に教えてもらうというのは中々複雑であるが、ここでふと疑問が浮かぶ。
「テテュラって肉体型だよね?」
「まあ、そうね」
「それなのに、正確にわかるほどの感知魔法を使えるのは凄いね」
何気なく言ったつもりだったが、テテュラは本当に一瞬だけ固まったような反応をした。
「……コツがあると言ったでしょ?」
いつもと変わらない声で言ったようだが、俺にはどこか違和感がある言い方に聞こえた。
何だかんだ俺達はテテュラのことを詳しくは知らない。
自分のことをあんまり話してはくれないからな。だが、こうして一緒に食事を取ってくれるあたりは、前より壁は感じなくなった。
「でもさ、精神型って貴族のお嬢様方じゃあ、あるまいし。何で?」
確かにそれは思った。
ハイドラスやアルビオ目当ての貴族達じゃなさそうなのに。それともあの魔の抜けた顔の裏には黒い欲望でも…………ないな。
ちなみに騎士科に行った貴族嬢達は、どうしようかと困惑中とのこと。完全な自業自得だ。
その貴族嬢達と組まされる魔法科男子には、同情を覚える。
「別に珍しい話でもないでしょう。男の子なのだから。憧れの対象はこの国の象徴にもなってるし……」
勇者のことを言っているのだろう、テテュラはくだらなさそうに言い放つ。
バークもそうだったが、この国では勇者に憧れるのはどうも珍しい話ではないらしい。
向こうでいうところのスポーツ選手がそうだろうか、正直、俺には解らん感性だ。
そんなニュースを見ても、他人事のようにあまり関心を持って見たことがなかった。
すげぇ奴がいるんだなぁとか、よくここまで頑張れるなぁとか、情熱っていうのが自分にはなかったように思う。
好きなものには熱中はしてたが、そこから先を見ようとはしなかった。
こんなゲームを作ってみたいとか、こんな物語を書いてみたいとかだろうか。
それが普通だと思っているから、今もそうだ。
異世界へ来て変わるものもあったが――容姿的な意味で変わるとは思わなかったが――そう簡単に自分の価値観は変わらない。
でも、変わったこともちゃんとある。力のあるリリアだからこそ、アルビオのように背中を少し押してやるくらいはしてあげたい。
そんなくすぐったい気持ちくらいはある。
「まあいいんじゃないかな? そういう気持ちって大事だよ」
「……そうね」
「その為にもシドニエ君のこと、もっと知らないとね」
これからパラディオン・デュオまで時間もあるんだ。
俺自身、異世界での大きなイベントととあって、気持ちは昂ってはいるものの、正直なところ本選出場や優勝なんて大仰なことは考えていない。
周りからの期待もあるだろうが、自分なりには頑張ろうと思うのだった。




