05 学校行事での異性とのペアはドキドキでした
日付変わってとある午後の授業。
以前会話にあったパラディオン・デュオの話があるらしく、騎士科と魔法科の一年生が一同に演習場へ集められる。
集められる前に、事前情報の通知を手渡されているせいか、周りはそわついている。
理由はわからんでもない。
以前ユーカと話していた通り、男女二人ペアで行われるものだ。思春期真っ只中のみんなに意識するなということが難しい。
俺も本来の性別なら、ドギマギしていたことだろう。だが男がある程度どのような生き物であるか、把握している側からすれば、何とも言い難い行事である。
だが何処かやる気に満ちた表情をしている者達も見受けられる。
「みんないるな。――ではこれより先に通知していたパラディオン・デュオについての詳しい説明を行う」
カルバスが授業の一環として、説明を始める。
パラディオン・デュオは、五ヶ月後に行われる建国祭での一つの行事として行われる。
本来なら学園祭のメインとして行われるが、建国祭がある際には、学園祭自体が行われず、パラディオン・デュオのみ行われる。
学生としては中々複雑な心境だろうが、建国祭で行われるというのは、割と生徒の将来としては貴重な場である。
何せ、学園祭で行われる場合は他生徒か先生、親御さんがメインだが、建国祭ではプラス、この国の王宮に仕える者達は勿論、国王陛下も訪れる。
そこに自分の実力をアピールできるのは、大きなアドバンテージを得るものだろう。
その肝心のパラディオン・デュオの内容だが、簡潔に言ってしまえば、男女ペアで行われる剣と魔法の闘技大会である。
騎士科と魔法科一名ずつ、男女ペア、現段階で実力を調整する形で、他校の先生も交えての相談の上、ペアを組まされる。
そして貴族校、勇者校、技術校、平民校の代表ペア、学年ごとに二組、各校から六組ずつ選出。
その代表がパラディオン・デュオの本戦、建国祭にて王都ハーメルトにある闘技場にて激戦を繰り広げる。
その予選は夏季休暇明けに学年別に行われる。
その為、この六月頃に自分のパートナーを言い渡されるのだ。
「――ということだ」
要するに、向こうの世界でいうと運動会みたいなものか。
ここは剣と魔法の異世界だ、これぐらいのことなら日常茶飯事なのだろう。
いい加減、こっち方面にも慣れてきた……はは。
「――先生っ! パートナーはどうして勝手に先生が決めるんですか?」
当然の疑問が投げかけられる。デジャヴを感じるなぁ。
「それは合同授業のパーティー決めと似たような理由と、もう一つ……みんなにもチャンスを与える為だ」
「チャンス、ですか?」
「そうだ。例えば、タナカとオルヴェールがペアを組んだとしよう。お前達はどう思う?」
名前を呼ばれて思わず、ピクンと反応する。
他の生徒は先生の質問に対して、率直に答える。
「まあ、勝てないかなぁって……」
そう思われるのも当然だ。
リュッカの件からアルビオと俺の活躍は知れ渡っているし、そもそも俺に至っては最上級魔法が使えて、悪魔を従える魔術師だ、勝ち目を考える方が無駄である。
しかもアルビオも最近はメキメキと実力を発揮している。
以前あっさり負けたカルディナにも引けを取らない実力を授業の中で披露している。
そのお陰か、貴族のみならず平民出身の女子からも、少なからずアプローチを受けているとのこと。
双属性持ちの魔術師と精霊を従え、六属性を持つ勇者の末裔が組まれれば、下手すればあっさりと優勝まで狙えるんじゃないかと思うだろう。
「そうだろう? 彼らの実力に関してはこちらも把握している。直に見る機会がある君達は特に感じるだろう……」
「だから敢えて実力を分けるんですね?」
「その通りだ。まあ私達からすれば、今言った二人に組んでほしいが……」
ちょっと苛立った表情を浮かべ、そう語るカルバス。
何か訳ありなようなので、
「先生、何で組ませないんですか? 他校の先生から何か言われました?」
直接聞こう。
あの表情は聞いても大丈夫な内容だと判断、その予感は的中する。
「ああっ! そうだよ! あんな二人を組ませるのは、優勝させることと同じだとか、貴族校の先公共は言いやがる! 優勝連覇記録を潰したくないからと……ええいっ!!」
悔しそうに怒り混じりで、口調悪く文句を垂れる。
こんなカルバス先生は初めて見たかもと、他の生徒も呆気にとられる。
聞けば貴族校はカルバスの言う通り、パラディオン・デュオにおいて優勝連覇記録を樹立しているとのこと。
貴族は殆どの家が、所謂英才教育を行う。学問は勿論だが、剣や魔法も例外ではない。
そりゃあ基礎の基盤がそもそも違うのだ、他校の生徒が優勝するのは難しい。
とはいえ勇者校も優勝候補にはなっている。
勇者に憧れたり、王族も贔屓にしているせいか、実力のある貴族も通う学校だ。
実際、今年は殿下の護衛である二人を筆頭に、粒揃いではあるが、実力ある貴族家が通っているし、リリアやアルビオといった平民出身での実力者もいる。
このように毎年、粒揃いで実力者がちらほらとはいるものの、このルール上、中々優勝が難しいのが現状だ。
生徒達が同情するように苦笑いを浮かべるのを見たカルバスは咳き込む。
「とにかくだ。そのように他の者達を贔屓しない為に、実力が分けられる訳だ。それにお互いに刺激しあい切磋琢磨することで、得られるものも多いだろう」
話を戻したカルバスだったが、先生同士の意地の張り合いみたいな苛立ちが見え見えだった。
運動会に他のクラスに負けるなっと張り切る先生、居ませんでしたか?
「というわけで、極端な例を挙げればタナカは魔法科の実技の最下位の女子と組むと言う話になる」
わざわざ言わなくてもいいと思うが、まあ例は必要だろう。
「……先生、わざわざそんな公開処刑をしなくても……」
「モチベーションは必要だろう? そう見られたくなければ、努力する他にない」
一部の生徒はその言葉で察した。
パートナーの選定上、騎士科と魔法科と違いはあれど、周りからは実力がはっきりと映る。
実力のある者は、共に協力できるよう努めるのか、見限るのか。
実力のない者は、努力して肩を並べられるのか、諦めたり、堕落などをして足を引っ張るのか。
それによって、これからの学校での評価もそうだが、人間的な成長も間接的に鍛えるものとも言えよう。
だからこの段階でのパートナーの発表なのだ。
「いいか? 我々とて君達を優勝させてあげたい気持ちがある」
意地的なものもあるだろうが。
「だから我々も出来る限りのサポートも行おう」
この物言いから、どうやら先生方が忙しいという先輩達の情報は本当のようだ。
「今年の一年生は勢いがあると私達は思っている。是非頑張ってくれ!」
性格に合わない激励を送るが、あんな悔しそうな表情をされると、期待に応えたくもなる。
「他に質問はあるか?」
何か気合いの入った激励もあったせいか、てっきりパートナー発表かと思ったが、質問だったと思い出す。
カルバスの呼びかけにすっと手が上がった。
「わたくしから質問宜しいでしょうか?」
少しおどおどとした声で手を上げたのは、アーミュだった。
「何だ?」
「辞退はできますの?」
コイツみたいに媚び売り貴族達はパラディオン・デュオのことは考えてなかっただろうし、建国祭で行われるイベントだけに、お偉いさんも観に来るだろう。
恥はかきたくないはずだ。特にコイツに至っては呪印の件もあるし。
「いや、予選には出てもらう。学校の評価にも繋がることだ」
中々厳しいご意見。世間はそう甘くはないということだろうか。
わかりましたと遠慮がちに返事をすると、コソコソと縮こまる。
あの事件以来、すっかり大人しくなってくれました。
カルバスは他に質問がないことを確認する。
「では、これよりパラディオン・デュオでのパートナーを発表する」
カルバスは持っている書類をめくり、パートナーの発表を始めた。
――次々とペアが決まっていく。そのペア達の表情も様々である。
気恥ずかしそうにしたり、落胆したり、喜んだりと思うところも様々だろう。
男女関係や建国祭でのアピールの為の予選突破狙いなどから考えられる。
決まらない者達の中には、こういう声も聞こえている。
「ボク、実績悪いからもしかしたら、オルヴェールさんと組めるかも……」
「いや、俺だね」
騎士科の実戦能力の低い者同士の醜い言い争いが聞こえる。
組まされる身にもなってほしいものだ。
例によって、おそらくインフェルの召喚も禁止だろうし、前衛がしっかりしてないと、魔術師としては、いくら無詠唱魔法が使えるとはいえ、どうしようもない。
その会話が耳に入ったのか、フェルサが同情の言葉をかける。
「大変だね、リリア」
「はは……聞こえてた?」
「まね。委員長も呆れるわけだよ」
「ああ……あの時ね」
そういえば不謹慎だと拗ねていたな、正に仰る通りだわ。
「リリアは例にも挙げられてたし、やっぱ弱い騎士科と組まされるんだろうね」
「フェルサもそうなんじゃない? 冒険者の経験上、実力はあるわけだし……」
実際、推薦枠に捻じ込んだ訳だしね。
「そうだね。それを考えれば、アイシア達は羨ましいかも。アイシアに至っては殿下とだし……」
既に発表されたアイシア、リュッカ、テテュラは各々のパートナーと顔を合わせている。
その中でアイシアのみ、知り合いと組んでいる。
ハイドラスは、じとりと先生を見たが、おそらくハイドラスの身の安全を考えたものだろう。
ハイドラスはアイシアと面識がある上、アイシア自身、邪な気持ちなど一切ない。
見ているところは見ている訳だと、思わず皆、納得していた。
「でもフェルサ、仲良くできるの? 同室の娘ですら仲良くできないんでしょ?」
慣れてくるであろう時期を迎えても、フェルサは俺達以外と話しているのを見たことがない。
人のことはあまり言えないが、フェルサほどではない。
「……仲良くする必要、ある?」
組む男子など当てにしていないとばかりの発言。
まあフェルサの実力を考えれば、魔法科の弱い男子は置き去りだろうと、想像もつく。
そんな雑談に夢中になっていると、
「――オルヴェール!!」
大きな声で呼び出されて、ビックリする。
「は、はいっ!! 何ですか?」
「何ですかではない。さっきから呼んでいるだろうが、まったく……」
何回も呼んでいたようで申し訳ないと、態度を取りつつ、呼ばれた方へと向かう。
パートナーが決まったようなので、男子達の嫉妬や悔しそうな声も聞こえる。
「アイツが組むのかよ……」
「ああ……オルヴェールちゃんっ!?」
はは……聞こえてますよ。さてと俺のパートナーはっと。
リリアの実力上、落ちこぼれと組まされることは明白。
相手を悪くいう気はないが、人によってはこちらの対応も考えようと内心思っている。
正直、無理に予選突破、優勝したい訳ではない。ただでさえ、目立って注目を浴びている立場だ、もっと落ち着いて腰を据えて、そこそこに異世界でのイベントを楽しもうと考えている。
そんな事を軽く考えながら、自分のパートナーを見た。
そこにはウィルクのような、輝くような金髪ではなく、どこか霞んだような色合いの金髪、翠玉のような透き通った色の瞳、顔は小さく童顔……女よりの顔立ちの男だ。
身体は良くも悪くもない感じで、身長はリリアより若干高め……おそらくは百六十ちょっとくらいだろうか、この中の男子としては小さい。
その容姿に少し自分の面影を感じつつも、ニコリと優しく微笑む彼は挨拶をしてくる。
「えっと、シドニエ・ファルニと言いますっ! よろちく――」
あ……噛んだ。
シドニエも噛んだことに気付いたようで、耳まで真っ赤にして赤面した。




