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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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101 希望の光

 

 ――懐かしい夢から覚めたリュッカに改めて現実という刃が突き刺さる。


 目を覚ましたら友人達がいつも通りの笑顔で迎えいれてくれるのではないかと。


 だが現実はそう応えてはくれなかった。


 全身にはまだ疲労が残っており、空腹が集中力を阻害し、仮眠を取る体勢が悪かったことも追い討ちに、足腰の痛みもある。


 足に鉄球の枷でもついているように、足を引きずりながら、壁に手をついてゆっくりと歩みを進める。


「はぁ……はぁ……」


 吐く息も早く、弱々しい。眉も重力に潰されているかのように沈んでいる。そのせいか表情も沈んだように暗い。今にも倒れてしまいそうだ。


 しかしその瞳は決して諦めてはいない。懸命に生きようとする光がちゃんと宿っている。


 するとリュッカの歩く道の先に何やら光が溢れている場所があるようだ。


 求めていた出口かもと期待に胸が膨らんだ。


 苦しそうな表情ながらも笑みが溢れる。心なしか鉛のように重かった足も軽くなる。


 リュッカは足取りを早めて、その光がある場所へと向かった。


 着いた先はまるで学校のグラウンドくらいの空間が広がる。天井が今までの部屋の中では最も高く、そして広い。


 リュッカはその部屋の入り口で待機する。


 というのも、壁一面に白い突起が大量に突き出ている。そこには眩ゆいほどの魔石も埋め込まれている。


 この部屋が明るいのは魔石せいだろうが、この突起はなんだろうと疑問を持ち、この場で様子を見ているのだ。


 それに迷宮(ダンジョン)の出口らしきものも見当たらない。


 リュッカの経験則上、ここにも魔物が待ち構えているはずと予想している。


 なのでリュッカは、地面にある石を音がなるように山なりに投げ込む。


 ヒュッ、カツンっ……カッカッ……。


 石が音を立てて地面を転がる。反応がないが、もう一度投げるが、反応はない。


 だが油断はできないとリュッカは部屋の中を見渡す。


 まっ平な地面だけが広がるだけの殺風景な空間。だがその奥に降る階段が見える。


 どうやら出口ではなく、迷宮(ダンジョン)の深層へと向かう為の場所だったようだ。


 リュッカは落胆する。たどり着いた場所は出口とは真逆だったのだから、ショックは大きい。


「そんな……」


 もう動けないと壁に身を委ねるリュッカ。もう歩く気力すら削がれた。


 だがその時、微かに粒子状の光がその降る階段の近くに見えた。


 はっとなったリュッカは、目を少し細めて確認を取る。何せここからは遠い。


 見えるのは群青色の光の粒子。蛍の光のようにゆっくりと宙に舞い、一定時間舞っているとふっと消えた。


 おそらくは溢れた魔力だろう。そこから推測できるのは魔法陣。


「……あれって……もしかして……!」


 リュッカはここで気付いてしまった。


 ここは国が管理する迷宮(ダンジョン)。探索や魔石の採掘に来た騎士達がすぐに帰れるように転移の魔法陣を設置したのではないかと。


 実際、今来た道を回れ右するのは、肉体的にも精神的にもキツいだろう。


 だからそのような配慮がされていたのではないかと思ったのだ。


 つまり、リュッカが求めていた出口に直通する魔法陣が今、目の前にあるのだ。


 今までの苦労が報われたかのように表情が緩む。小鹿のように震える足を懸命に奮い立たせる。


「帰れる……帰れるんだ!」


 今までの慎重な行動は何処へやら。リュッカはその魔法陣目掛けて歩き始める。


 孤独に耐え切れなくなったように、少しずつ歩みを早めていく。その度に思い出す――この迷宮(ダンジョン)に放りだされた経緯、孤独を彷徨う恐怖、死すら想像できた絶望。


 この一日と半ほどの時間がリュッカにとって、どれほどの苦悩な時間だったか。走馬灯のようにこの迷宮(ダンジョン)での出来事が頭の中を巡る。


 そして、そんな中でやはり一番彼女を駆り立てるのは友人達。


 心配させているのではないか、テテュラは責任を感じてはいないだろうか、そんなことばかり考える。


 だがやはり一番の望みは、あの優しい時間へと戻ること。


 みんなが笑って過ごすあの日常へ。そこに自分も居たい。


「はあ、はあ、はあ……」


 いつの間にか走っていた。


 地面に描かれた群青色の魔法陣が見えてきた。もう手を伸ばせば届きそうな希望の光。


(もう少し! もう少しで……)


 もうリュッカの頭の中では帰ることだけだった。彼女の心境を考えれば当然だろう。


 だが、現実は彼女に喝采を送る。


 絶望への道を歩むことに。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ……。


 大きく地鳴りが鳴り響く。その地鳴りは彼女を迎える拍手のように止まない。


「な、何……?」


 リュッカは地震のような揺れに思わず足を止め、辺りを見渡す。


 すると、突起からにゅっと白い蛆虫が出てきた。


「キュイーッ、キュイーッ」


 次々と出てくる蛆虫。その小さくも不気味な鳴き声は彼女を歓迎するよう。


 リュッカはその異常な光景に背筋が凍りつく。


 そして酷い後悔にさえなまれる。


「あ……ああっ……!!」


 この迷宮(ダンジョン)がどんな迷宮(ダンジョン)なのかわかっていた筈なのにと、悔やんでも悔やみ切れない。


 もう少し冷静ならわかった筈だ。あの突き出た突起は巣だ、あの蛆虫達の。


 ならこの空間が何なのかもわかる。ここはある奴の住処だ。


 この――蟲の迷宮(ワームのダンジョン)の主の。


 激しく地面が揺れる。リュッカは耐え切れず、尻餅をついた。


 そして――、


「キィヤアアアアーーッ!!!!」


 甲高い叫び声のような声と共に、地面から勢いよく出てきたのは――。


「ダンジョン……ワーム……」


 現実は彼女に語りかける――ようこそ、絶望の世界へ。

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