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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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99 現場検証

 

「ありがと」


 むくりと立ち上がるフェルサ。ウィルクに解毒魔法をかけてもらい、痺れが取れたよう。


「しかし、ゴブリンクラウンが統率していただけあってか、手強かったですね」


「ええ、おそらく魔物達が少なかった理由もこのパーティーが原因でしょう」


 カルバスと騎士達が倒したゴブリンパーティーを見ながら話している。


 魔物の世界は弱肉強食。向こうでも動物達がそうではないだろうか。


 共存、支配、殺戮など様々な事情があるだろうが、魔物は基本、本能的に害を成す存在である。


 いくら魔石を持ち、世界の為に魔力を巡回する立場とはいえ、そこの脅威は変わらない。


 このゴブリンパーティー達も強さを求めたり、他の魔物を蹂躙(じゅうりん)して奪ったり、何だったら根城にするつもりだったのかもしれない。


 その為、魔物達を倒して肥やしにしていたのだろう。魔物とはそういうものではないだろうか。


「……君も無事で良かった」


「先生……」


 安全確認と怪我人の治療を続ける最中、カルバスはソフィスに優しく声をかける。


「もう大丈夫だからな。どこか怪我などしていないか?」


「大丈夫です……ありがとう……ございます」


 ソフィスはぐすっと鼻をすすりながら、ウィルクから貰ったであろうローブで上半身を隠すような仕草でお礼を言う。


「あの……リュッカは知りませんか?」


「あ……」


 寂しげな表情で質問するアイシアに申し訳ないような表情をして俯き……。


「ごめんなさい……ごめんなさいっ!! 私が……私がこんな事しなきゃ……こんな事には……っ!」


「わ、私こそごめん! 別に責めた訳じゃないの……」


 顔を両手で押さえながら泣き出すソフィスに、アイシアはたじたじ。


「大丈夫だよ、ソフィスちゃん。大丈夫だから……」


 ウィルクはそっと大粒の涙を流す彼女の肩を取り、優しく寄り添う。


 自然にこんなことが出来るなんてと、男としては嫉妬を、人としては状況から不謹慎だと思ったので、


「はいはい、離れた離れた」


 ウィルクを思いっきり突っぱねる。


「なんだい、リリアちゃん? 嫉妬?」


 男としてね。俺が男だった時なんて、そんなキザなことしたいとは考えなかったとはいえ、憧れはあったからな。


 女の子に寄り添うなんて。それをすんなり目の前でやられると腹立つ。


「大丈夫だよ、ウィルク。貴方が考えてるような嫉妬はしてないから。そんな事より怪我人、治療しなよ」


 バッと指差す方向には先程、ゴブリンクラウンに刺された騎士の姿があった。


「彼女は私達が見てるから大丈夫だよ」


 ニコッと威圧感ある笑顔。


「あっ……はーい」


 真面目にやれよという意図を読んでくれたのか、騎士達のところへ、そそくさと渋々向かった。


「事情はわかってるよ。だから、そんなに自分を責めないで……」


 それに反省している様子があるし、こんなに怖い目にもあったのに責められないしね。


「とはいえ、リュッカの情報が欲しいのも事実。なんかない?」


 空気を読まず、ずいっと痺れから解放されたフェルサが情報を求める。


「怪我、大丈夫なの?」


「平気。獣人舐めんな」


 そう言うとフェルサは刺された箇所を見せる。確かに傷が塞がっている。


 ウィルクの治癒魔法も優秀だが、この再生力は獣人故のものだろう。見た目は完全に人肌なのに。


「お願い! 何か知らない?」


「……」


 さっきほど泣いて発散したせいか、落ち着きを取り戻したソフィスだが、リュッカのことについての情報は持っていないようで、首をふるふると振った。


「……となるとやはり手掛かりは天井のコイツらか……」


 天井を親指でくいくいと指し示す。


「そうですね……」


 手掛かりのなさに落胆する一同だったが、


「あれ?」


 アイシアが何かに気付いた。


「どうかした?」


「うん。あれなんだけど……」


 その指差す方向には無造作に転がるゴブリンの死体。魔物とはいえ、あまり気分のいい光景ではないが、


「あのゴブリンだけ、何かおかしいよ」


 そう指摘するゴブリンは頭がぐちゃぐちゃにされているゴブリンだった。


「確かに……おかしいですね」


「そうだな。俺達はあんな風にゴブリンを殺しちゃいない」


「そもそも私達が倒したゴブリンの数と合わなくない?」


 そう言われて見ればと思ったので、ふと戦ったゴブリンについて頭に浮かべる。


 先ずフェルサが先行してきてたゴブリンナイトを倒して、一体。先生と騎士達が倒したゴブリンソルジャーが二体。ウィルクがソフィスを救う為に回り込み、不意打ちで倒したゴブリンナイト、ゴブリンウィザード、計三体。


 そしてアルビオが倒した頭目のゴブリン、ゴブリンクラウンが一体。死体を数えると、


「八体……あれ? 一体増えてる」


「そうだな。このゴブリンだけ血が乾いている」


 カルバスがそのゴブリンの元へ行き確認。赤黒い血が染み込んでおり、地面を汚している。


「そのゴブリンだけ、先に殺されていたと……?」


「先生。ソフィスさん……だっけ? ここにいた経緯を聞きませんか?」


 俺はソフィスがこの違和感のあるゴブリンについて知っているのではないかと思っての提案。


「そうだな……辛いところ悪いが、何があったか話してもらえるか?」


 ソフィスは涙ぐんでいた目をごしごしと拭うと、真剣な表情で返事をする。


「はい! 大丈夫です。リュッカさんの手掛かりなるなら……」


 ソフィスは自分の状況を説明した。


 ソフィスはあてもなく魔物に遭遇しないように彷徨っていたところ、この現場を見つけたという。


 その時既にゴブリンは頭部を残酷に破壊されて死んでおり、血も飛び交っていた。


 その光景を見たソフィスは恐怖し、身を震わせたそう。


 恐る恐る周りを見渡すと、身を隠せるほどの大岩が我が物顔で居座っているのを見た。


 ソフィスはその時、これだけの現場なら魔物だろうと、不用意に近づけないだろうと考えて、ここに隠れて助けを待つつもりだったのだが、ゴブリンに気付かれて現在に至るそう。


「つまり、君がここに来た時にはもう既に死んでいたと?」


「はい……」


 俺達が来て、このゴブリンの死体に気付かなかった理由としては、ソフィスが襲われていたこと、ソフィスに一部のゴブリンが群がっていたことがあげられる。


「このゴブリンの殺し方、魔物の仕業かな?」


「いや、多分違う」


 こんな残酷な殺し方なら魔物かと思ったが、フェルサは速攻否定。


「見て、このゴブリン……」


 頭部を指差す。


「よく見ないと分からないけど、目の部分を横に裂いたような切り口がある」


 言われてみて確認すると、二つの目を一本の切り筋が残っている。


「それに身体の外傷が斜めに一切りあるだけ……」


「なるほど、つまりはこういうことか?」


 フェルサの言い分からカルバスは推測を立てる。


「このゴブリンは目を先ず裂かれて、怯んだところを一閃。倒れ込んだゴブリンの頭部に向かって切り裂いたということか」


 こくっと頷くが、俺にはだから何って話。ゴブリンを倒すなら別に不自然な行動ではないと思った。


 ゴブリンの視界を奪い、とどめの一撃を刺す。まあちょっと考えれば剣を使う人間ならできることだろう。


 最後に頭部を攻撃したのはやり過ぎとも考えたが、


「あっ……」


 俺はそう考えていると、気付いた。


「そうかっ! この切り口や行動から魔物ではなく……」


「そう、人がやったもの。魔物ならもっと乱暴だよ。そしてここは元々、国の管轄の迷宮(ダンジョン)、最近の人の出入りは……」


「リュッカとソフィスちゃんだけ! つまりこれをやったのは……リュッカ!」


 って答えになる訳か!


「だが、推測の域は出ないな……聞いていたな?」


「はい! 先生」


 治療を終えたウィルクと騎士達も寄ってきた。


「リュッカがここにいた手掛かりがあるかも知れん。探すぞっ!」


「――はいっ!」


 俺達は手掛かりを見つける為、その現場を漁り始めた。

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