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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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98 VSゴブリンクラウン

 

(あの時の違和感はコイツか!?)


 俺は感知魔法で感じた違和感の正体をあのゴブリンから感じた。


 同じくらいの凶々しい魔力の中に、二つの違和感。


 一つは半裸状態のソフィス。魔物の魔力の中に明らかに違う魔力をしていた。


 そしてもう一つが、俺達女性陣を舐め回すように下劣な視線を送るこのゴブリン。


 周りのゴブリンと見た目も感じる魔力も、雰囲気がまるで違う。


 一見、通常のゴブリンのような軽装だが、三角帽子に耳と鼻には金色のピアス、何より両手と腰にぶら下げている短剣の量が尋常じゃない。


 どう考えても普通のゴブリンではない。


「ゴブリンアサシンか?」


 語呂が悪いと感じながらも、そのリーダー格の風貌を見せるゴブリンの特徴を見る。


 アサシンにしては派手な格好だと思うが、


「多分、ゴブリンクラウンだ……」


「あれがか? ……初めて見るぞ」


 噂に聞いたことくらいはあるのか、威嚇するように四つん這いになり、地面に爪を立てながらゴブリンの正体を推測する。


 カルバスも初めて見るのか、警戒しながらも驚きを隠せない様子。


「ゴブリンクラウンって?」


「ゴブリンの最上位種の一角。キングやクイーン、ジェネラル、グランドマスターに並ぶゴブリンの一種」


 統率に長けたゴブリン、剣技を極めたゴブリン、魔法を極めたゴブリン――何かゲームのクラスアップでも聞いているかのよう。


 さながら道化師(クラウン)は芸のような戦いを極めたゴブリンだろうか。アサシンとかアーチャーとか。


「キングとかなら、私もリュッカから聞いたことくらいあるけど、クラウンって……」


「私も聞いただけだからよくわからないけど、アサシン系のゴブリンが進化したんだって聞いてる。成長速度や生存率を考えると限りなく低いから、目撃例も少ないって話」


 あまり長々と喋ることのないフェルサの発言に驚きつつも、正に予想通りのゴブリンに納得がいく。


「ガアァッ!!」


 そのゴブリンクラウンは部下であろう急な戦闘に動揺するゴブリン達を叱咤するように叫ぶ。


 その声に応えてピタリと止まり、ゴブリンクラウンの方は向く。


「ガウ、ガアァ、ウウゥ……ガアッ!!」


 何を喋っているのかはさっぱりだが、部下ゴブリン達の聞き入る様子から、指示を出しているような雰囲気に見える。


 すると、ゴブリンも戦闘陣形を取る。前衛にゴブリンソルジャーとゴブリンクラウン、後衛にゴブリンウィザード、その護衛にゴブリンナイトがつく。


 あのゴブリンクラウン、統率が取れる優秀なゴブリンのようだ。正直、手強そうだ。


「ガアァッ!!」


 ゴブリンクラウンが雄叫びを上げるとゴブリンソルジャー二匹が突貫。


「くっ……来るぞっ!! ウィルクはソフィスの元へ迎え! アルビオは後衛の守りだ! 後衛は援護!」


「わかりましたっ!」


 みんなほぼ同時に返事をして、指示通りに動く。


 カルバスと負傷しなかった騎士が向かってくるゴブリンを迎え撃つ。フェルサはゴブリンクラウンへと駆けていく。


「私がアイツの相手をする。リリア、援護!」


「う、うん」


 迎え撃つように、ゴブリンクラウンはナイフ投げで牽制。


 アニメとかでよく見るような両手に大量のナイフを指との間に仕込み、シュバッと投げる。


 フェルサは俊敏に躱すと、ゴブリンクラウンの前へ。


「取った……っ!」


 拳を打ち込もうとした時、ゴブリンウィザードのファイアボールだろうか、魔法が飛んでくる。その隙にゴブリンクラウンは宙返りをして、一旦距離を置くと素早く腰の短剣を抜くとフェルサに素早く接近し、二刀流で激しく攻め立てる。


 その攻め方はやはり曲芸のよう。型のない剣舞に時折ナイフ投げを挟み、翻弄するように動き、宙を舞い、ひらりひらりとしたも身のこなしをしてみせる。


 その休みない攻めに、さすがのフェルサも苦戦を強いる。


 フェルサも獣人としての素早さを生かした戦いをするも、向こうも似たスタイルな影響か、接戦を繰り広げるが、向こうは手数のある短剣で遠距離攻撃を挟んでくる為、接近戦重視のフェルサには若干不利だ。


 そこに俺は援護しろというのだ。押され気味なフェルサをしっかりサポートしてやりたいのは山々だが、素早く移動しながら戦闘を繰り広げるところに効率的な援護は厳しいと考えるが、


(うだうだ考えてもしょうがない!!)


 フェルサが上手く躱してくれるだろうと広域に広がるよう魔力を強めに込めて、無詠唱で術を放つ。


「――シャドーダンスッ!!」


 フェルサ達の戦闘区域を黒い影が広がり、槍のように地面から大量に突き出す。


 この術の発動と同時にフェルサは距離を取る。上手く躱してくれたが、


「ガウッ!」


 向こうもひらりと躱した。


「アイツも躱すのかよっ!! ――逃がすかっ!!」


 興奮して思わず、男言葉になる。俺はシャドーダンスの影の範囲をゴブリンクラウンを追うように攻めるが、バク転をしながら素早く移動して躱す。


「……アイツ、手強いぞ」


「うん。伊達にゴブリン最上位種じゃないね――」


 ヒュンッ!


「――リリアっ!? ……ぐうぅっ!?」


「えっ!? フェルサ!!」


 バッとフェルサの方へ向くとゴブリンクラウンが腰にぶら下げていた短剣が刺さっている。


 ゴブリンクラウンは、にたりとしたり顔。


 それを見た時、瞬時に直感した。バク転をしていた時に投げ込んだのではないかと。


「大丈夫? フェルサ」


「傷は浅いけど……痺れが……」


 毒でも仕込まれていたのだろうか、身体が痺れて動けないという。


 フェルサは賢明に体勢を戻そうとするも、小刻みに身体を震えさせるだけで、動けないようだ。


「くっ……解毒薬を――っ!」


 だが、この隙を勿論、見逃さないゴブリンクラウン。素早く短剣を俺に向かって投げつける。


「――リリアさんっ!!」


 アルビオの叫び声と共に、俺の前に風の障壁のようなものが展開。短剣を弾いた。


「大丈夫ですか?」


 アイシアの守りを離れて駆けつけたようだ。


「うん。でも、フェルサが……」


 アルビオは手早くフェルサの様子を見た。


「フィン、悪いんだけど……」


「――アルっ! ボサッとすんな!! 来るぞっ!!」


 何かフィンに言うつもりだったのだろうが、そんな隙も与えてはくれなかった。


 ゴブリンクラウンは短剣で牽制しながら突っ込んでくる。その短剣はフィンが風の障壁で守る。


「アルっ! 今その獣人を回復させてなんて、悠長なこと言おうとしてんじゃねぇ!!」


 フィンはアルビオが何を言い出すのか、理解していたようだ。


「今、あのクソゴブリンを迎え撃てるのはてめぇだろっ!? アルっ!」


「……っ!!」


「行けっ!! 援護は任せろっ!!」


 アルビオの頭を小さな身体で蹴り上げて喝を入れる。


 アルビオは、ゴブリンクラウンが接近する中、考えた。


 そうだ、今回の事は僕の優柔不断さがもたらした結果だ。今こんな時にまた他人に頼るなんて、虫が良すぎる。


(これは、僕のケジメだっ!!)


 構えていた剣を武器に走り出し、迎え撃つ。


「フィンっ! 援護頼んだよ!」


「おうとも! とりあえず飛んでくる短剣は任せろ!」


 そう言うと、アルビオに飛んでくる短剣は風の障壁で受け流されていく。


 ゴブリンクラウンも賢明に投げつけるも届かない。意味がないことを理解すると、近接戦闘に切り替えてきた。


「ガアァーー!!」


 興奮気味に剣舞でアルビオを追い詰める。


 アルビオも応戦するがブランクがあってか、攻撃を躱しながら剣を振るのがやっと。


 だが、ちゃんと動きは読んでいるようで、アルビオは城でのハイドラスとの稽古を思い出す。


 相手の動きをよく見るんだ。目の動き、手足の向き、相手の獲物。


 そこから割り出される隙という答えを見つけるんだ。


 だが素早くトリッキーな動きで翻弄するゴブリンクラウンの動きに、突破口を切り出せないでいた。


 その様子を見て、アルビオの援護する。ちょっとしたトラウマから使うのを躊躇(ためら)っていた、あの術を使う。


 こいつ相手ならいいだろうし、フィンの奴が上手くやってくれるだろう。


「――ブラッド・ランスっ!!」


 血のような赤黒い槍状の物体が現出、ゴブリンクラウン目掛けて飛んでいく。


 その側にいたアルビオは驚いた表情をしてバランスを崩しながらも躱す。


「――わあぁっ!?」


 だが、避けきれないと考えたフィンはアルビオを風の障壁で守る。


「おいっ! 危ねぇだろっ!!」


 ちょっと考え無しとも思った攻撃だったが、だからこその不意をつけるかとも思ったが、ゴブリンクラウンも躱していた。


「野郎……」


 苦戦する戦闘にどんどん(おとこ)が出てきた俺に、


「――ガアアッ!!」


 耳についている金色の悪趣味なピアスについている紅い石がキラッと光った。


「――きゃあっ!?」


 俺の足元の影から刃が突き出る。


 その突き出る瞬間を見ていたお陰か、後ろに下がって躱す。


 初級魔法のシャドー・エッジだろうか、見覚えのある初動だからこそ躱せた。


「くっ……アイツも魔法を使うのか……」


 ゴブリンクラウンは再びアルビオと交戦する。


 俺はさっきの初級魔法である魔法を思い出す。


 ……これなら隙を一瞬だが作れる。


「――おいっ! フィン!」


「あんっ!」


 気安く名を呼んだのか不機嫌そうに返事をする。口が悪いな、この精霊。


「お前、眼はいいんだろうな!」


「ああっ!?」


 何を言っているんだという返事だが、俺を少しジッと見ると、ある事を察したようで、


「おうっ! 任せろっ!」


 早くしろと言わんばかりに不機嫌に返事をした。その返事を確認すると、バッと杖をゴブリンクラウンに向けた。


「よし、――ダーク・スナッチっ!!」


 アルビオとゴブリンクラウンの前を黒い霧がボンっという音と共に出現。


「――わあっ!?」

「――ガアッ!?」


 同時に驚くが、その黒い霧の中でフィンが叫ぶ。


「――アルビオっ! そのまま切りつけろっ!!」


 フィンは俺が闇属性持ちであることと、目眩しの魔法を使おうという作戦を察してくれたようだ、指示が飛ぶ。


 アルビオは瞬間的に思考が巡る。


 この黒い霧、フィンの指示。今、この目の前にいるであろうゴブリンクラウンは怯んで、そこにいるはずだ。


 フィンには見えているんだ。なら僕はそれを信じて斬り込むだけだっ!


「やああああっーー!!」


 交戦していたゴブリンクラウンがいたであろう場所目掛けて、渾身の一撃を打ち込む。


「――グッギャアアーー!?」


 その横切りに打ち込んだ渾身の一撃は何かを切り裂いた感触があった。


 この苦しむような叫び声からゴブリンクラウンと思われる。


 少しずつ晴れていく霧の中から、首元を苦しそうに押さえるゴブリンクラウンの姿があった。どうやら首元を裂いたらしい。


「……やったか?」


「――まだだっ!! そのままとどめを刺せっ!!」


 まだ震えながらも立って睨んできているのだ、油断するなと俺は叫び、とどめを促す。


 ゴブリンクラウンは震えながら抵抗を試みる為か、腰の短剣に手を伸ばすが……。


「ギャガァ……?」


 ガシャンという金属が落ちる音が響いた。


「もう終わりにしようぜ、ゴブ公」


 腰の短剣をぶら下げていたベルトだろうか、フィンが風魔法で裂いたようだ。短剣が無造作にゴブリンクラウンの足元にばらつく。


 ゴブリンクラウンは先程から援護が来ない後衛側をゆっくりと見ると、


「ここまでだな、道化師さん?」


 ゴブリンウィザード達が力無く倒れている。その側にいたウィルク達が無効化していた。


 ゴブリンクラウンは再び前を見ると、もう既に斬りかかっているアルビオの姿があった。


「やああああっーー!!」


「――ガギャアアーー!?」


 ザシュっと首を勢いよく切り落とす。そのゴブリンの首は空中で縦回転をしながら地面に――、


 ドシャっ……。


 生々しく転がった。

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