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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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94 落ちゆく意識の中で

 

 ――入り組んだ迷宮(ダンジョン)をファナシアンシードを辿り進んでいく。


 リュッカは分かれ道等は群れが多い方を優先して進んでいる。幸いしたのは比較的魔物の数が少ないことだ。


 おそらくはやり過ごしたゴブリンパーティーがある程度、倒した影響によるものではないだろうか。


 迷宮(ダンジョン)内は魔物の巣窟と言えど、強者が生き残る環境には他ならない。


 だが、さすがにダンジョンマスターは倒せてはいないだろう。警戒は必要だ。


 リュッカはそれを頭の片隅に置き、自分が進んだ道を記すように壁に矢印を刻む。


「はあ……はあ……」


 かなり疲れが見えている。何せ、突き落とされたのが、夕食前で最早、空腹状態。気つけにポーションを飲んで、身体に鞭を打って無理して進んでいる状態。


 挙句、希少種との遭遇が二連発に、周囲の警戒を怠ることなく神経をすり減らしここまで歩いてきているのだ、やつれてしまっている。


 さすがにどこかで仮眠でもとらないとダメだと思うが、中々身を隠せるような場所も見当たらない。


「また、分かれ道……」


 この迷宮(ダンジョン)はアリの巣のように色んな道に繋がっている。リュッカはそれをファナシアンシード頼りに進んでいる訳で。


 右側の天井に赤い斑模様が続く。右の道へ行こうとするが、一応と左も確認。


「あれ……?」


 左側はどうやら道ではなく、横穴だったらしく、運がいいのか身を隠せるほどの岩がごろっと置いてある。


 リュッカはその横穴を確認する。どうやら何もいないようだ。岩の影も覗いてみるが、ここにも何もいない。


 ようやく少しは落ち着いて休める場所を見つけたリュッカ。先ずは右側の通路付近に身体を擦らせ、ゴブリンの血の匂いを極力消すと、その横穴に入り、穴と岩の間に身を隠し、暫しの休憩をとることにする。


「はあぁ……」


 落ち着いたように長いため息を漏らす。


 身体は歩き続けて足はパンパン、剣やナイフもすぐ取り出せるように構えていたせいか、肩や首も痛い。目も霞んでいるようにしょぼつく。先程から呼吸も早かった。


 このように身体は勿論だが、精神的にもきているものがある。


 命を脅やかす魔物達が徘徊する迷宮(ダンジョン)を歩き回るのは、かなり負担となる。それに加えて、周りへの警戒、帰れるかの不安、蓄積された空腹感と疲労感、そして孤独感が不安をさらに煽り立てる。


(みんな……どうしてるのかな?)


 三角座りをして顔を伏せる。


 緊迫していたせいか、時間感覚があまりないが、今頃寮に居ればアイシア達とお喋りでもしながら過ごしていた頃合いだろうか。


 そんな事を考えていると、寂しさが込み上げてくる。この静寂が否応にも孤独感を駆り立てる。


「ぐすっ……リリアちゃん……フェルサちゃん……シア……」


 リュッカはあまり弱音は吐かない女の子だった。だが、こんな状況だからか弱々しく吐き出た言葉だった。


 名前を呼んで駆けつけてくれるなら、どれだけ嬉しいだろう。


 今頃アイシア達はマーディ先生の補習授業で疲れ果てているのではないだろうか。リリアは勇者の日記の解読に忙しいのだろうか。テテュラに関しては送り出してくれた手前、責任を負わせてしまうのではないかと負い目を感じてしまう。


 アイシアと友人になる前は、こんな孤独感を感じることなんてなかった筈なのにと目をつぶる。


 余計なことを考えるといたたまれなくなる。疲労感に身を任せ、身体の力を抜く。


 すうーっと心地よい眠気が誘ってくる。


 危険な状況ではあるが、疲れを抜かなければ対応もできないからと、少しだけ……少しだけと意識を落としていく――。


 ***


 ――リュッカは学校が嫌いだった。決して勉強が嫌いだったのではない、人付き合いができなかったのだ。


「あの子よ……魔物をぐちゃぐちゃにしてるとこ……」


 後ろ指を刺されるような言葉が飛んでくる。


 そんな陰口を聞きながら過ごす学校が嫌だった。でも幼いながらも両親に迷惑をかけまいと頑張って通うこと一年。


 クラスが上がると共に多少、人も変わるが飛んでくる陰口は変わらない。


 リュッカは俯きがちに自分の机にちょこんと座る。


 当時七歳のリュッカは、父の仕事を理解し、尊敬していた。だが、リュッカの家は村から少し離れた場所なせいか、事情を曖昧にしか理解していない幼子達はその店構えに気味悪がるのだ。


 とはいえ、文句を言う度胸もなく、こうして一人でポツリと座っている。


「ねえねえ、何の話してるの?」


 リュッカに陰口を叩く女の子グループに一人の女の子が無邪気に声をかける。


「あ、アイシアちゃん。あの子がさぁ――」


 一人の女の子がリュッカに指を指す。


「怖い冒険者が出入りしたり、気持ち悪い魔物を切ったりするところの子なの」


 幼い子供から見れば、怖い場所に見えるだろう。親も危ないから近づかないようにと教育もしているだろう。


 まあ、親達は刃物とかを扱う店だからという意味で教育したのだろう。


 だがアイシアはキョトンとした表情で、今より長い髪を揺らし、首を傾げる。


「ああっ……ママがお肉を安くしてくれてるって言ってるところだよね?」


 この世界では魔物の肉も当然のように食べられる。リュッカのお店では魔物の肉を冒険者から買い取り、商人と取引されるのだが、売り物にならない物は自分の食い扶持にしたり、格安で販売したりしている。


 アイシアは俯くリュッカに駆け寄る。


「貴女のところのお陰で美味しいお肉が食べられるよっ! ありがとっ!」


 ニコッと無邪気な満面の笑みでお礼を言う。


「あの……えっと……」


 動揺するリュッカ。逃げる間も無く言い寄られ、ぎゅっと手を握られた。


 それを見た女の子グループも動揺する。


「えっ……? アイシアちゃん?」


 アイシアはいわゆる学園のアイドル的な存在だった。天然によるものだが、こんな田舎村であればその方が人を惹きつけるものだったのだろう。


「その子のお家、怖いってお母さんが……」


「あ〜……私も言われたけど、何でって聞いたら刃物を扱うところだから危ないって言われたよ」


 アイシアは好奇心の限りを尽くし、無邪気に母親に聞きまくって聞き出したのだ。


 アイシアの母親はちゃんとアイシアの性格を理解しているようで、嘘偽りなく話した方がいいと考えてのことだ。


「だって魔物さんも死んじゃってるし、大丈夫でしょ?」


「いや、そうだけど……」


「それにみんなだってお肉食べるでしょ?」


 その当然のことに言い返せない女の子グループ。リュッカも純粋に話すアイシアに思わず唖然とする。


「ねえ、今度貴女のお家に行ってもいいかな?」


「えっ!? いや、あの……」


「大丈夫だよっ! ママと一緒に行くからさ」


 あどけなく自然体に話をするアイシアに流されるように困りながらも頷いた。


「じゃあ、約束だよっ!」


 リュッカは素直に嬉しかった。父の仕事をちゃんと受け止めてくれている子がいることを。


 そして尊敬もした。自分とは違い、こんなにも気持ちを言える人に。


 ――この後、二人は友達となり、かけがえのない存在となる。


 リュッカは目覚めた後、こう思ったのだった。


 随分と懐かしい夢ばかり見ると――。

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