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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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93 シャドーマンティス

 

 リュッカはファナシアンシードを辿り、ある開けた場所の前にいる。


 天井をちらほらと見上げながら歩いていたせいか、首が凝った為、少し慣らしながらその開けた場所を見る。かなり薄暗い。目が慣れるまで少し時間がかかるくらいだろうか。


 元々この迷宮(ダンジョン)は、国が所有権があるということで、道はそこまでデコボコしていないが、自然系を崩さない為か、先程リュッカが身を隠していた岩のような(たぐい)は極力撤去していないようだ。


 だからか魔石も結構豊富にあるせいか、そこそこ明るい道を進んできたが、


「よく見えない……」


 このフロアまでファナシアンシードが続いていた為、この先に出口があると思われる。その為にもこの薄暗い部屋の安全確認は必要だ。


 地面にもちらほらと魔石が光ってはいるものの、何やら細かい。まるで作為的に砕かれたかのようだ。


 その様子から何かいるのは間違いない。そのフロアの上を見ると、赤い無数の斑点が見える。ファナシアンシードだ。


 このフロアの暗闇を作っているのは、おそらくファナシアンシード達である。


 天井には(おびただ)しいほど、うぞうぞと動いているのも確認できる。おそらく魔石の群生地だったのだろう。


 リュッカは背筋に寒気がよぎる中、暗闇に潜むであろう魔物か何かを慣れ始めてきた目を細めて確認をする。


 するとやはり何かいるようだ。暗闇が動いたように見えた。


 だがはっきりしない。なので、魔石袋を漁り始める。黄色に光る魔石を手に取ると、握り締めて魔力を宿す。


 爆発しない程度に魔力を宿したら、その動いたものの近くに転がすように投げ込んだ。


 その魔石はその動いたものの足元を照らす。その脚は虫の尖った脚だったようだ。だが、真っ黒な脚に違和感を感じる。


 この暗闇の中で照らされた脚が黒いというのはおかしい。


 すると――。


「ギイィッ!!」


 その魔物の苦しむ悲痛な鳴き声がなると、その魔石をヒュッと裂くような勢いで砕いた。


 その砕かれた魔石から魔力が溢れるように閃光弾のように強く光って辺りを照らした。


「キィィッ!!」


 それに驚いた影の正体を見た。


(あれは、カマキリ?)


 真っ黒なカマキリが影の形をして、一瞬だが見えた。リュッカの身長の倍はあろうカマキリ型の魔物。


 キョロキョロと辺りを見渡しているようだ。暗闇の中、影が動く。リュッカは気付かれないように壁に身を寄せる。


 リュッカは再び自分の記憶を辿る。


 大型のカマキリの姿、暗闇に潜み、光を嫌う魔物……リュッカは困った表情を浮かべる。


「また希少種……」


 リュッカがその特徴からシャドーマンティスと判断した。


 シャドーマンティスは名の通り、影のカマキリ。かなり臆病な性格でほとんど姿を見せないことから希少種として分類されている。その為ランクもB。


 だが、能力自体は強力でカマキリ型の魔物同様、鋭い鎌での攻撃は勿論だが、何よりシャドーマンティスと呼ばれる所以の特性、影と同化する能力を持つ。


 だが、その特性上、光は苦手なのだ。


 それを踏まえた上でリュッカはどうすればここを突破できるかを考える。


 そのフロアのファナシアンシードの赤い目を辿ると向かうの道へと続いているのがわかる。


 つまり、リュッカの行きたい道はあのシャドーマンティスを越えて行かなければいけないということ。


 ここに留まることは選択肢にはない。今いる場所は隠れるところがない。他の魔物もそうだが、さっきのゴブリンパーティーが戻ってくる可能性は消えていない。


 リュッカは改めてシャドーマンティスの特徴を思い出す。


 臆病な性格だが、自分より弱い相手だと判断すると果敢に襲ってくる。


 実際、リュッカは一人。気付かれれば簡単に襲ってくるだろう。


 しかもおそらく影と同化して襲ってくるものと思われる。その際、音は無く、影を素早く移動してくると父が冒険者から聞いたと言っていたのを思い出す。


 だが、致命的な弱点もはっきりしている魔物だ。先程の魔石の件からしても、足元を照らす程度の光でも嫌がる魔物だ、対処のしようはある。


 拳ほどの大きさのファナシアンシードが所狭しと群がっている天井。濃度の高い魔石の群生地、さぞ魔力の光も濃いものだろう。


 ファナシアンシードを退かせば、光が差し込むのではないかと考えた。


 とはいえ、あれだけのファナシアンシードを大量に落とすのは危険なので、あくまで自分が向こうの道に行くのに必要なところだけ、退けることにする。


 リュッカは魔石袋から魔石を二、三個握り締めて、暗闇を動くシャドーマンティスの様子を探る。


 シャドーマンティスは先程の光を警戒しているのか、部屋内をうろちょろとして忙しない。


 シャドーマンティスが行きたい道の入り口から離れた瞬間、


(――今だっ!!)


 リュッカは走り出したと同時に魔石に魔力を込めて、シャドーマンティスの頭上に向かって投げた。


 その魔石は天井にいるファナシアンシードにぶつかった瞬間、破裂音がなり、その爆発の衝撃で複数体のファナシアンシードがシャドーマンティスの頭上に落下。


 それと同時にリュッカの予想通り、魔石から溢れる光も差し込んだ。


「――キィィッ!?」


 慌てた様子でがむしゃらに鎌を振り回す。かなり動揺したようだ。


 無理やり落とされたファナシアンシードはそそくさとシャドーマンティスから離れていく。


 その間にリュッカはスタート地点からゴールとしている入り口まで中間辺りを差し掛かるところ。


 リュッカはシャドーマンティスを横目に確認しながら、全力で走る。


 だが、その足音とリュッカと違い、暗闇からしっかりと目視できるシャドーマンティスはリュッカを捕らえる。


 音も無く、影と同化し、光に照らされていた姿は消えた。


 しかし、リュッカもシャドーマンティスをちゃんと確認している。すかさず魔力を込めた魔石を頭上に投げ込む。


 リュッカの作戦はこうだ。


 シャドーマンティスを怯ませながら、襲ってくることを想定して、ファナシアンシードを退かし、光を差し込むことで襲ってくる箇所を絞り込みながら進む作戦。


 ただこの作戦、降ってくるファナシアンシードを躱さなければならないという条件がつくが、そこは日頃の訓練を生かすべきとばかりに躱していく。


 そしてシャドーマンティスは照らされていない後ろから襲うも、攻撃するタイミングで躱されていた。


 シャドーマンティスも躍起になったのか、怒った様子で影に潜る。


「はあ、はあ……」


 だが、リュッカもやられる訳にはいかない。周りを集中しての対処と全力疾走は思ったよりキツいが、目的の場所をキッと狙いをさざめながら走る。


 シャドーマンティスの鎌の鋭さと切れ味を考えれば捕まったら最後である。その死の恐怖が迫るという状況。


 リュッカは自分の策を信じ、走り抜けるしか選択肢はない。


 リュッカはさらに魔石を投げつける。今度は前と左右に光を落とすようにファナシアンシードを落とす。


「――ギイイ……」


 悔しそうな声をあげるシャドーマンティス。リュッカに近づけないことを悔やんでいるかのよう。光にもまるで、初めて触るものかのように、そっと鎌を近づけるも、すぐに離す。


 リュッカはその臆病な性格に感謝しつつ、ゴールまであと少し。


 だが、シャドーマンティスも諦めてはいない。果敢にリュッカに襲い掛かろうとする。


 リュッカは魔石袋から魔石を取り出し、再び頭上へ。先程からぼとぼとと力なく落ちてくるファナシアンシードも躱す。


「よしっ! もう少し……」


 リュッカが目の前の道に入ろうとした瞬間だった。横から割り込むようにシャっと鎌が降り落ちる。


 だが神経を研ぎ澄ましていたリュッカ、咄嗟に右斜めに避けって転がるようにゴールした。


「はあ、はあ……」


 自分の瞬発力に驚きながらも息が荒れる。やれば出来るのだと。


 シャドーマンティスは縄張りから出ないのか、通路に向かって鎌を何振りかするが、諦めてそのフロアの暗闇に姿を消した。


 それを見たリュッカは安堵する。


「良かった。何とか……抜けられた……」


 続け様に希少種の対処をして疲れてはいるが、先を急ぐことにする。

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