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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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92 彷徨うリュッカ

 

 リュッカは慎重な足取りで迷宮(ダンジョン)を進んでいく。煌びやかに光る魔石を横目に重い足取りだ。


 無理もない、あれだけの恐怖を突きつけられて、常人の精神でいられる方が異常だろう。


 ランクAの魔物が徘徊する迷宮(ダンジョン)を一人、彷徨うことがどれだけ恐ろしいことか。


 授業で魔物の生息域を探索し、戦闘を行なって経験を積んでいることとは訳が違う。


 死を強調する存在がいることは虚像として心の中を侵食する。


 その存在はリュッカの身体をも(むしば)む。まだ、少ししか歩いていないのに疲れが見え始める。


 神経を張り詰めていると、気疲れすることはわかるだろうか。彼女はその状態で、あるかもわからない曖昧な希望を求めて彷徨うのだ。


 リュッカにかかる心身の疲れは尋常なものではない。


 だがリュッカも死ぬ訳にはいかない。この先に出口があると、助けが来ると、微かな希望に(すが)る為にも生きなければならない。


 何より、自分のことを心配しているであろう友人達の為にも諦める訳にはいかない。


 その気持ちが彼女を生きる道へと駆り立てる。彼女達と一緒に未来へと歩く為に。


 ――リュッカは休憩を挟みながら、道なりに進んでいく。


 今のところ魔物の気配はない。気を張っているせいか、その辺は敏感だ。


 ただリュッカは彷徨うだけではいけないと、ちゃんと物事も考えているようで、彼女は解体用のナイフを片手に。


 ――ガリッ! ガリガリッ。


 壁に自分はこっちへ向かったよとの印に、ナイフで矢印を刻む。


 ゴブリンは賢いがいちいちこんな細かい印を確認する訳がないし、他の魔物なんて論外だ。


 自分を捜索に来た人達なら手掛かりが欲しくなるはずだと、印をつけることにしたのだ。


「……よし」


 印をつけ終わると壁に手をつきながら、奥へと進んでいく。


 すると天井を照らす魔石の輝きが薄暗くなっていくのを感じた。


 ちょっとの事でも敏感になってしまっているリュッカはそれに気付くと、ふと天井を見る。


「……えっ!?」


 その天井には大量の魔物が張り付いていた。その不気味な光景に思わず大きな声を上げにかかったが、口を塞ぐ。


 もう一度見上げる。その魔物は大量に天井に疎らに張り付いているだけで、襲ってくる気配がない。


 敵意を感じないと判断したのか、リュッカはその魔物の正体をその場で推測する。


 その魔物は虫型の魔物と思われる。赤い小さな目が二つ、口はぎざついた牙が並び、六本の足が生えている。蟻のような姿だ。


 だが、一番特徴的なのは背中に生えている球根のようなものだ。


 その特徴的な姿にリュッカはすぐにピンと来た。


(アレはファナシアンシードかな?)


 ファナシアンシード。虫型の魔物で、魔物としては珍しく、人を襲うことをあまりしない魔物。


 人を襲わない代わりに魔力と光を喰らう。その珍しい特性もあってか、あまり討伐歴が少ない魔物。


 だが背中の球根が花を咲かせるとファナシアンへと進化する。すると一気に凶暴性を見せるのだ。


 ただファナシアンへ進化するには相当な養分が必要になるようで花を咲かせるのは少数である。


 リュッカは思った。ファナシアンシードがどうしてこんなに沢山天井に張り付いているのかを。


 これだけ大量にいる理由については、ある程度の想定はついている。この迷宮(ダンジョン)がある場所は虫型の魔物が多い。


 そしてこの魔物の討伐歴はあまり記録されていないし、この魔物は魔力を好んで食べる為、濃厚な魔力が充満する迷宮(ダンジョン)は格好の餌場なのだろうと予想がつく。


 では天井に張り付いている理由は何かと言えば、特性上、おそらく魔石から溢れる魔力や光りを吸っているものと予想がついた。


 でも、疑問が新たに湧く。では何でわざわざ天井の魔石に留まるように食らいついているのか。


 張り付き続ける理由としては食事をしているとか、自分の縄張りだとか、そんな理由だろう。


 しかし、魔石は天井だけではない。リュッカがついてきた壁や地面にもちらほらとある。


 ならばとあらゆる情報を考えて理由を推測。


 ただ闇雲に動いても体力を消耗するだけ。この違和感は出口へのヒントと考えたのだ。


 迷宮(ダンジョン)、ファナシアンシード、魔石、光、魔力、魔物――考えて繋ぎ合わせた結果、ある結論を出す。


 このファナシアンシード達は出口を示しているのではないかと。


 その結論を出した理由は、ここが魔物によって縦穴に掘られた迷宮(ダンジョン)だからである。


 迷宮(ダンジョン)は外とは別の次元と扱われるが、別に全く別物になる訳ではない。ここを掘った際に、途中で魔物と地脈を流れる魔力の歪みが干渉した為にできたものだと予想がつく。


 蟲の迷宮(ワームのダンジョン)と聞いていた訳だし。


 つまりは出入り口から地脈の魔力が濃く出ていると予想もつく。


 それでいてファナシアンシードだ。魔力を好むこの魔物は濃い魔力を好んで食している。


 つまり辿れば出口にたどり着くのではないかと考えたのだ。


 魔物の知識があればこそ出た答えだったが、迷宮(ダンジョン)については、曖昧な部分がある為、自信は持てなかったが、何の手掛かりも無しに彷徨うよりはマシだと前向きに考えることにした。


 やっと見つけた出口へのヒント。これが前向きになる後押しとなった。


 少し身体も軽くなったような気がする。表情も少し柔らかくなってきた。


「よし、頑張ろう……」


 自己暗示のように自分に都合の良いように、自分の知識からこの魔物の状況を解釈したが、今はそれでもいい。


 これが希望となるのならばと、不安な自分を励ます。


 上を見上げ、ファナシアンシードを辿る。それを希望の道と信じて。

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