18 先々の不安
一度、情報を整理する。胡座をかいたまま両手を両足の上に置き、天井を見上げながら前後ろにゆらゆらする。
「この世界での魔法使いは、使いこなせる魔法の属性が限定されている。呪文詠唱はほぼ必須。無詠唱は初期魔法か無属性の魔力消費が少ない魔法くらい……」
ゲームでいうところの後衛魔法使いポジション。
アニメとかでよくある魔法剣士とかは無理なのかな? こんな世界に来たんだ、出来るならやってみたい!
……魔物とかと積極的に戦いたいわけではないけどさ。
「ファンタジー……か」
赤い呪文研究記述と書かれた本を手に取り、哀愁漂う表情で見つめる。
正直、まだ実感がない。
そりゃそうだ。ここに来てまだ数時間しか経ってない。魔法だって向こうのゲーム知識があるくらいで、本物なんて当然だが初めてだ。
少し落ち着かなくなってきたのか夜風に当たろうと部屋の窓を開けた。キィと少し年季のある音をたてると外からスーっと心地よい風が部屋へ入ってきた。
ふわぁと銀の髪が靡く。
山特有の木々や草木の匂いがする。都会育ちではあるが、修学旅行等で嗅いだことくらいはある山の香り。
窓から顔を出し外を見ると、月明かりに照らされてぼんやりと山なりの黒い影が我が物顔で聳え立つ。
都会育ちの俺は、ハッと衝撃を受けた表情をする。
ここは明らかに都会ではなく田舎だ、山の麓の町と見るべき光景。このような自然に囲まれる環境など、まず味あわない。
「……異世界もそうだが、こんな自然が豊かな場所で生活するなんてなぁ」
だが、この大自然を楽しむ余裕も正直あまりないと少し表情を落とす。
今までの常識が通用するかしないか分からない世界へ急に飛ばされてきたのだ。しかも二日後には王都へ向かうらしい。期待もあるが不安の方がやはり強かった。
「……大丈夫かなぁ」
堪らず不安が口から溢れる。この先の不安は何も異世界へ飛ばされただけではない。
これから女として生きなければいけないことだ。
男が女の事について分かる事なんてたかが知れている。ましてそこまで女性と関わりを持たない俺なら尚更である。
アニメやゲームとかでは性別が変わるなんてよくあるシチュエーションだが、いざなってみると不安しかない。
だからと言って元の世界へ帰れる訳でもない。
救いなのが彼女の魔法知識をある程度読めば思い出すこと。
今までちらほらと読んだ、あれらの本を読むだけで魔法の使うイメージがある程度思い出せてきたのは大きい。
そのような見方をすれば彼女はある程度、優秀な魔法使いであったと判断も出来る。つまり、魔法はしっかり使えるという事。
二つ目は――。
「この娘が美少女だってことだな……」
そりゃ人間、誰だって見た目が良いことに越した事はないからね。
窓の縁に頬杖をつき、少し虚ろな目でふぅと小さくため息をついた。




