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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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86 アルビオの決意

 

「アルビオまで何を言い出す」


「わかっています。確かに今の僕は頼りないのはわかります。でも、今回の事件は僕のせいだから……」


 アルビオが原因の嫉妬によるところがあるとは思う。


 だが責任を感じる必要はないとも思うが、本人は救出のメンバーに呼ばれなかったことに納得のいかない様子。


「……アルビオ、お前の気持ちもわかるが、今から行く場所は危険だ。さっきも言ったろう」


「――それでもですっ!!」


 何か強い意思表示を感じる叫び。緊張感が流れるこの場を震撼した。


「リュッカさんは僕に言いました。周りのしがらみを払う為には、自分のやりたいことを明確にするといいって。僕はその言葉を聞いた時、やりたいことをしていいんだと思った」


 アルビオはこのままではいけないと、ちゃんとどこかで考えていたんだと感じた。


 やりたいことをやる――簡単なことだと思う。


 実際、俺も向こうにいた時は両親から、特にあれこれしろとは言われず、だからといってやりたいことといえば友人とゲームをして遊ぶくらいだったが、俺自身はそれでも充実していたとは思う。


 だがアルビオのように周りから期待や不安、重圧という荷物で心を満たされてしまって、本来あるはずの自分の思い描く未来の荷物を下の方へと押しやっていたのだろう。


 この言葉からわかる、リュッカがアルビオの荷物の取り方を教えたのだと。


「でも、そのリュッカさんが今、きっと苦しんでいる。僕に大切なことを教えてくれた彼女を僕は放ってはおけない!!」


「ですから、リュッカさんは我々が――」


「僕が今やりたいことは彼女を助けに行くことですっ!! 僕は彼女に何も恩返しが出来てない。僕は彼女の言葉で変わったところを見せていない……」


 落ち着かせようとしたハーディスの言葉を遮り、自分の意思をしっかりと伝えようとする。


 今まで見てきたおどおどとした肩書きだけのアルビオの姿はない。


 あるのは勇敢に自分の意思を示し、迷いない眼差しで語る勇ましい姿だ。


 勇者の末裔という肩書きが輝いているかのよう。


「僕は彼女に返さなければならない。貰ったものの大きさを知ったから……」


 胸に手を当てて、目を閉じる。


 リュッカにとっては親切心からの一言程度のものだったのかもしれない。


 思いやりなんて挨拶のように当たり前にできるのが理想だろう。


 リュッカは優しい女の子だ。その当たり前でアルビオに手を差し伸べたものだったのだろう。


 だが、人っていうのは本当に単純だと感じた。


 その差し伸べられた手にどれだけの救いがあるかなんて、伸ばした本人は知ることは難しい。


 どれだけその人が感謝しているかなんて。


 アルビオは今、深く噛み締めているのだ、リュッカの言葉を。


「僕は彼女と、ここにいるみんなと笑顔で過ごしたい。その為にやりたいことなんです」


 その言葉を大切にするだけではなく、しっかりと答えを出せるようにと、自分の意思を明確にした。


「お願いしますっ!! 僕も救出に向かわせて下さい」


 綺麗にお辞儀をして頼み込む。


 彼を行かせたくない面々は苦難の表情を浮かべる。


 アルビオもこの国では重要人物。ハイドラスほどではないが、何かあっては困るのは変わらない。


 そんな煮え切らない面々に痺れを切らした俺はパンッと手を鳴らし、視線を集めた。


「ならメンバーはこうしよう。私とアイシア、フェルサ、ウィルク、アルビオ、カルバス先生、あとは騎士のお二人でどうかな?」


「――なっ!? 何故私まで?」


 ハーディスのその疑問は当然だ。俺のパーティーメンバーにはハーディスの名前がない。


「このパーティーが理想だよ。先ずさっきのパーティーだと、後衛の負担がデカい。私しかいないよ、アイシアは連れて行くべきだよ」


「リリィ……」


 それにダメって言っても親友の危機とあれば、黙ってでもついてきそうなので、だったら最初っから連れて行けばいいと考えた。


「し、しかし……」


「それにアルビオの精霊の力は頼りになるでしょ? それにアルビオがここまで言うなんて、珍しいことなんじゃない? 殿下」


「確かにそうだが……」


「男の子がさ、(おとこ)しようとしてるんだよ。背中くらい押したくなるよ」


 向こうの両親の影響で時代劇ものを結構見てたせいもあって、意思を貫こうとする彼の言い分には味方したくなる。


「リリアさん……」


「ハーディスが留守番なのは殿下の監視役。殿下が危険なところに行くのが賛成できないのは、ここにいる人達全員、一緒な考えでしょう?」


 ハイドラス以外、みんな揃って頷く。そこについては誰も反論がない。


 そのハイドラスは残念そうにショックを受けている。


「おいおい……」


「それに殿下のお陰でここまで来れたんです。充分ですよ」


 ハーディスは小さくため息を吐くと了承した。


「わかりました。では私は殿下と一緒に彼女達を聴取でもしていましょう」


 目撃情報から共犯者と思われる取り巻き達からも話を聞く必要があるだろう。


 取り巻き達はアーミュほどの嫉妬や嫌悪感があったかは定かではないので、その確認は必要だ。


 話がまとまったところでこのパーティー内で年長者であるカルバスが指示をする。


「――よしっ! ならばこのパーティーの者達は準備を早急に整えた(のち)、西門前へ集合だっ!」


「はいっ!!」


 みんな真剣に返事をして、準備に取り掛かった。

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