82 ハイドラスの推理ショー
ハイドラスは全ての情報を元に自分の考えを説明する。
「まず、お前はおそらくは脅しだろう。ロバティエをたぶらかし、ナチュタルを誘き出した。一人になるこの機会を狙って……」
ソフィスとアーミュの家の身分差上、そうだと説明を加えて。
「待って殿下。私達が一人になる機会を狙うってそれ事態無理があるんじゃ――」
俺達は基本四人でいることが多い。学科が別れても俺にはアイシアが、リュッカにはフェルサがいる。
機会を窺うのは難しいと俺は言うが、
「現にその状況ができたから、こうなっているのだ」
「……っ」
俺は悔しさを滲ませる。
「そんな顔をするな。一人になることなど、それこそ自然なことだ。だが、近々一人になることをラサフルは調べて、わかっていたことだ」
「どういうこと?」
「君とフェルサは勉強はできない方だろう? 小テストがあるとも言われていた」
合同実戦授業の前にも言われていたことだ。
「マーディ先生はとても教育熱心な方だ。赤点を取った者を小テストだろうと補習を受けさせると言っていたしな」
「そっか。アイシアとフェルサが赤点を取ることを見越したと?」
「その通りだ」
それを聞いたアイシアとフェルサはしゅんと落ち込む。もっと真面目に勉強していれば、こうはならなかったのではないかと。
「そして、一番厄介なオルヴェールもいつもと違う帰宅風景となると、別の行動を起こした……」
「まさか……私がアルビオの家に行くことも!?」
「彼女は貴族だ。多少の情報網はあるだろう」
アルビオの家は元々目立つし、貴族街とは距離があるとはいえ、同じ居住区。
それに俺自身もちょっとした有名人だ、噂を掴むことは容易だろう。
「ラサフルはオルヴェールが何度かアルビオの家に用事に行っていることを掴んでいた。だから人を減らせば、自分の用事を優先すると考えたのだろう」
「そ、そんな……」
俺はショックを隠しきれなかった。
確かにいつも賑やかなアイシア、それにフェルサもいない、いつもと違う放課後ならば、確かにそんな考えに至った。
人間、いつもの風景だろうと違うものがあれば、個人差はあれど気にはなるもの。まして今回は人だ。いつもはいる人間がいないでは、自分事を優先して考えるのはごく自然なことだ。
落ち込む表情をする俺達をハイドラスは気遣う。
「お前達は何も悪くない。気にするな」
ちょっと困ったように笑った。
「そしてロバティエにこう言うように指示したのではないか? アクセサリーを探してほしいと。誰にも連絡せずにと。ナチュタルの性格を考えれば、親切心から彼女の用件を呑むと思ったのだろう。正にそうなった」
「……校門前でリュッカとソフィスの匂いがしたのはそういうこと……」
フェルサは嗅いだ匂いから意見する。殿下の指示でフェルサはソフィスの家に向かい、彼女の匂いを確認しに行ったのだろう。
「その後、お前達はナチュタルと合流すると、ザラメキアの森へと向かい、アクセサリーを探すフリをして、彼女達を置き去りにしたといったあたりか……」
アーミュに確認を取るように視線を送る。
「でも殿下。勇者展望広場で匂いが消えたこと、リュッカ達の姿を見せずに西門を抜ける方法は?」
その疑問が消えない限り、いくら証人がいても憶測の域を出ない。
「彼女の父親は商人だ。西門の抜け道くらい知っているだろう」
「――なっ!? 何をおっしゃっているのですか!? 殿下!」
アーミュの父親が額から汗を滲ませながら否定すると扉が開き、ハーディスが帰ってきた。
「殿下、送ってまいりました」
「丁度いいタイミングだ、ハーディス」
不思議そうな顔でハイドラスを見ると、何事かと尋ねる。
「はぁ……何がでしょう」
「例の件はどうなった?」
ハイドラスはアーミュの父親を目線で示すと、気付いたハーディスは、
「ああ……ラサフル商会の事ですね。こちらに……」
腰に下げていたバックからにゅっと書類の束が出てきた。おそらくマジックボックスだろう。
受け取るといくつか書類をめくると、ふうと小さくため息を吐く。
「報告されている物資と個人的に調べさせてもらった物資の数字が合わないのだが?」
ハイドラスは二枚の書類をアーミュの父親に見せる。
「こちらが君達から報告があった物資調達表、そしてこちらが個人的に調べさせてもらった物資調査表だ。何やら記載漏れに加えて、調達の禁止されているものがいくつか見つかっているのだが……どういうことかな?」
その調査表を見るなり、額から汗が止まらない。綺麗だったシャツも汗で滲むほどに。
「いやぁ……これは、その……」
「つまり違法取引を行なっていたと?」
「そういうことだ。招くにしても行くにしても人目に付かず取引を行う為には必要な道があったのだろう。この王都は魔物の生息域が近いせいもあって城壁に囲まれている。出入りはどうしても門兵が警備している門からの出入りとなる」
そしてアーミュはそれを知って利用したということ。
「なら匂いについては?」
「それもここに……」
ハイドラスがその書類の一箇所を指刺す。そこにはカメレオンパウダーと書かれていた。
「カメレオンパウダー?」
「ああ。何でも特定の魔物の身体を乾燥させて粉末状にした代物で、魔力を込めると周りの気配、匂い、魔力痕を周りに合わせて同化できるという危険物だ」
要するには匂い袋の強化版みたいなやつとのこと。
「それ……危険なんです?」
「魔力の込め方次第では、完全な透明人間状態になれる代物だそうだ。ここまで言えばわかるだろう……」
匂い袋の性質は粉末量と魔力を込める量に関係してくる。
このカメレオンパウダーの場合、込める量を限界まで行うと、周りとのシンクロ率が上がって、誰にも気付かれない人間の出来上がりだ。
泥棒や覗き、諜報活動から暗殺まで幅広く悪どい使い方が想像できる。
「このパウダーは製造事態がそもそも禁止されている。どういうことかな?」
「あ……いやぁ……」
「つまり、彼女は父親のことを利用してリュッカを陥れた……」
「そうだろうな。このカメレオンパウダーの在庫を確認すれば明らかになるだろう」
親子揃って、青ざめて絶望する。
父親は違法取引、娘はそれを利用しての誘拐。とんでもない親子である。
貴族という地位を欲望のままに子供のように振り回した結果がこれだ。
「ついでに言えばアクセサリー探しにした理由は大事になり過ぎないことと魔道具対策だろう」
「……嘘を感知する魔道具ですね」
生徒の悪行に対し、カルバスが険しい表情で言い放つ。
「ああ、人探しや魔物退治だとそもそも魔道具を使わずとも違和感がある。だが、アクセサリー探しならその証拠品を門兵に見せておけば、対策になる」
嘘を感知する魔道具については知らないが、使わせない状況を作ればいいだけだろう。
「……さて、ラサフル嬢。証拠もある、何か間違いがあったら指摘してくれ」
――アーミュはソフィスを使ってリュッカを誘き出し、合流した後、カメレオンパウダーを利用してフェルサ対策をしつつ、誰にも見られないように裏ルートを使い、ザラメキアの森へと向かい、アクセサリー探しをするフリをして置き去りにしたという結論を突きつけた。
 




