79 安楽椅子に座って聞いただけって人いたよね?
「戻りました。リュッカは見つかりましたか?」
俺達は拠点としている女子寮の食堂へと戻ってきたが、リュッカが帰ってきたという吉報はない様子だ。
「いえ、見つかってはいませんわ」
魔物の生息域を探し続けたマーディを中心とした先生達も疲労感が見える。
「こっちも。情報すらないよ。リリィ達のところは?」
アイシア達の情報がないのはわかっていた。俺達は聞いた情報を開示する。
「こっちには手掛かりになる情報があったよ」
「――っ!! それは本当ですか!?」
思わずみんな驚愕する。
「うん。こっちでは気になる情報が結構出たよ。先ずは目撃情報だけど、西門付近で昨日の丁度、放課後の時間辺りに見かけたという目撃情報があったよ」
「ホント!?」
「なので、彼女はおそらくザルメキアの森へ向かった可能性が非常に高い」
西門付近に目撃情報があるなら、そう考えるのが自然だろう。
「だが、ザルメキアの森は彼女が行きそうな範囲は探したが、見つからなかったよ」
時刻は夕方、丁度テテュラがリュッカを見送った時間辺り。その時間まで休憩を交えながらとはいえ、先生達が探して見つからないのはおかしい。
リュッカが居なくなってもう一日経つ。みんなから焦りの表情も見られる中、俺はさらに気になる情報を話そうとした時――、
コンコンッ。
軽く扉をノックする音が聞こえた。みんな一斉に音のする方を向くと、軽装だが貴族らしい清潔感溢れる白を基調にした私服でご登場したのは、
「――殿下っ!?」
「すまないね、先生方はこちらにおられるというものだから、お邪魔させてもらったよ」
「ど、どうも……」
爽やかに登場したハイドラスの後ろからアルビオもひょっこり。だが、この場の様子をふと見て、ハイドラスは瞬時に判断したのか、
「何かあったのか?」
真剣な表情で尋ねてきたので、事情とこれまで得た情報を説明した――。
「――なるほど、ナチュタルが行方不明か。確かに彼女の性格を考えれば、連絡も無しにここまで心配をかけるのは、彼女らしくはないな」
「リュッカさんが……そんな……」
真剣な表情で考えを巡らせているよう。口に手を当てて考える。アルビオはショックを隠しきれない様子で表情が沈んだ。
「殿下は見かけませんでしたか?」
「すまない、私は見てないよ。ただナチュタルをどこかへやった犯人はわかったがね」
一同は驚く。俺達は事の全てを説明したとはいえ、聞いただけでわかるものだろうか。
だが、犯人らしき目星は確かに俺にもある。
「犯人はラサフル達だろうな……」
「あの殿下。殿下の言葉を疑う訳ではありませんが、何か根拠でもあるのですか?」
俺も犯人はアーミュ・ラサフルだと思った。動機はフェルサが話していた通りの出来事からの嫉妬と思われるが、色々とわからないことがある為、断定はできなかった。
「そうだな、一つずつ説明していこう」
俺達はハイドラスの推理を聞いた――。
「……なるほど、説明はつくね」
俺達はハイドラスの推理に納得するも、
「でも、証拠がないよね?」
「そうだな。おそらくは隠滅しているだろうね。だがこちらには――」
ハイドラスが何か言いかけた時、また扉が開く。入ってきたのはハーディスとウィルクだ。
「殿下っ! 失礼します」
ハーディスが耳打ちすると、真剣な表情で聞き入る。
「……わかった。それとハーディス戻ってきたところ悪いが、頼まれごとをされてくれないか?」
「大丈夫ですよ、殿下。ご用件は?」
すると、ハイドラスは紙とペンを求めた。テルサは直ぐに部屋へと駆け込むように戻り、渡した。
ハイドラスは何の迷いもなく、すらすらと用件を書き込む。
「時間がない。手早く頼むぞ」
メモを見るなりハーディスは、にやっと口元を動かすと、かしこまりましたと言ってお辞儀し、さっと行ってしまった。
あの人、護衛というより使用人だよ、完全に。
「あとフェルサ」
不意に声をかけられて耳をピンと立てた。
「何?」
「君にも頼みたいことがある」
何やら俺達が知らぬ間に準備が進んでいく。目の前で指示していることなのに、ついていけてない。
「殿下、さっきから何を?」
「ラサフルを問い詰める準備だよ。ナチュタルの身が案じられる、早急な方がいいだろう」
「は、はい!!」
アイシアは嬉しそうに返事をした。その目は涙が残ってはいたが、希望に溢れた目だ。悲しい涙で溢れるよりはいい。
「でも、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。それに最終手段もあるしね」
そういうと俺にウインクして合図を送った。
何のこっちゃっと首を傾げる。
「さて、とりあえず向かおうか……」
俺達はハイドラスの馬車に乗り、アーミュの屋敷へと向かった。




