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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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76 匂いが消えた訳

 

 俺はふと昨日のことを思い出す。


 リュッカは昨日、アイシア達の帰りを待つ為に寮に帰ると言って、俺の誘いを断ったのだ。それなのにテテュラの話だと、リュッカは誰にも言わずに魔物と戦う準備をして出掛けたとは、さすがにおかしい。


「ねぇ? 本当にテテュラが最後なの?」


「ええ。他の寮生にも聞いたけど、昨日は放課後、姿を見た人がいないの……」


「何か気になることでも?」


「はい。リュッカはアイシア達の為に寮に戻ると言っていたのに、テテュラの話だとリュッカの行動がおかしいんですよ」


「……確かにそうだな。待っているつもりなら、わざわざ装備を整えて出掛けるのはどう考えたっておかしい。つまりリュッカは君と別れた後、誰かと会っていて、魔物に遭遇することを前提とした何かを頼まれていたと……?」


 こくりと頷いた。


「つまりその誰かを特定できれば、リュッカがどこにいるのかわかるってことだよね?」


「そうなるけど、目撃者がいないんでしょ?」


「だったらまず、リリアが別れた場所に案内して。そこに匂いが残っていればわかるかも……」


 俺達は少しでも情報を入手すべく、校門前へと向かう――。


 着くなりフェルサは立ったまま、目を閉じて辺りをくんくんと鼻を効かす。


 言い方は悪いが警察犬のような対応。だが今は嗅覚に優れた彼女が頼りなのは事実。何か手掛かりが見つかればいいが……。


 フェルサは匂い辿るようにゆっくりとその手掛かりがあると思われる方へと歩く。


 俺達は基本、放課後は校舎近くにある寮へ直接向かうのだ、校門には向かわない。


 なのでリリアの匂いは昨日のことなら、嗅ぎ分けることは彼女の嗅覚なら可能なのだろう。


 そこに混じっているリュッカの匂いをフェルサは辿っているのだろう。


するとピタッと動きを止めると調べるように鼻をくすぐる。


「……んー……」


 どこかで嗅ぎ覚えがあるのだろうか、難しい顔をして唸り始めた。


「どうなの?」


「ねぇ! フェルサちゃん!?」


 俺達は煮え切らない態度を取るフェルサを急かす。


「……嗅いだ覚えはあるけど、顔が浮かばない……」


「ということは魔法科の生徒と上級生の可能性は低いか……」


 フェルサは騎士科の生徒。嗅いですぐに覚えがあると判断できるのであれば、同級生の可能性が高いと判断できる。


「フェルサ、教室で匂いを判断出来れば――」


「いや、この学校は自由席だ。みんな疎らだよ……」


「それでも確認する価値はあると思う。先生達は生徒がどのあたりに座っていたとか思い出してフェルサと確認を!」


 結構な無茶振りを言うが、リュッカの安否がわからない以上は、どんな些細な手掛かりも見逃さないようにしたい。


 今のところ手掛かりは――昨日最後に確認されたのはテテュラが窓から見送ったこと。寮で待つと言っていたのに、不自然に出掛けたこと。魔物を討伐するような装備で出掛けたこと。


 これだけではリュッカにはたどり着けない。まだ情報がほしい。


「……わかった。すまないが昨日の彼女達のクラスに授業を行なっていた先生をすぐにっ!」


「――わかりました!」


 カルバスの指示で若い男先生がこの場を走り去り、カルバスはフェルサを連れて、一年教室へと向かう。


「アイシア達は街中を探しに?」


「うん。フェルサちゃんが匂いを辿って、消えたあたりに聞き込みしてたの……」


 だが、この様子だと何の手掛かりもなかったようだ。


「とりあえずもう一度、勇者展望広場に行こう!」


「うん!」


 手掛かりがないか今一度、勇者展望広場へ――。


 先程と時間帯が違うせいか、人が多い中、リュッカの行方を推理する。


「ここで匂いが途切れたんだって……」


 アイシアはその場所に立った。六つあるモニュメントの真ん中あたりだ。


「ねぇ、テテュラ。匂いが途切れる理由って思い浮かぶ?」


 この中で知識がありそうなテテュラへ意見を仰ぐ。


「……そうね、人混みによって消されるっていうのは時間が経っていないことと彼女の能力上ないとして……魔法や魔道具による隠ぺい、後は人工魔石かしら……」


 魔法や魔道具の隠ぺいはわからなくはない。世の中には色んな魔法が存在するのだ。実際、闇魔法でもいくつかそんな魔法が俺にも使える。


 だが、リュッカは魔法は苦手だし、そんな魔道具も持ってはいないだろう。そこで気になったのは人工魔石。


「人工魔石ってどんな効力のもの?」


「おそらく転移石と呼ばれるものじゃないかしら」


 クルシアから貰ったものとは違う物の名前が出た。だが、誤ってクルシアがその人工魔石を渡してしまった可能性があれば、手掛かりは無くなる。


「転移石って何? クルシアさんから貰ったのとは違うやつみたいだけど……」


「人工魔石を貰った?」


 驚く様子を見せる。まあクルシアの話では人工魔石は高額で取り引きされるようだから、当然の反応だろう。


「まあいいわ。転移石は名の通り、転移魔法と同じ効力を発揮する魔石よ。使い方は少し複雑で、まず魔石自体にその転移先の魔力を吸収……記憶させるの。そしてその魔石を砕くだけで、記憶させた場所に転移できるものよ」


 まるで使ったことがあるかのように詳しく話す。


「へえ〜、でもその話だと使い切りで、使用後はその辺に砕かれた魔石のかけらが落ちてるんじゃないの?」


「ええ……」


 だが、この広場にはそんな痕跡はない。風で飛ばされた可能性も考えられるが、そもそも使用方法が違うのだ、例え誤って使うにしても、クルシアから教わったやり方以外の使い方は考えられない。


「貰った魔石は記憶石ってことだから、その可能性はないね。あと魔道具だけど、そんな買い物もしてないはずだし、魔法はリュッカ自身苦手だよ」


「……だとすると、やはり貴女と別れた後と私の前に会った人物の特定ができないと探しようがない」


「リュッカは誘拐にでもあったってこと……!?」


 アイシアは心配がたってか、被害妄想が広がり始める。


「落ち着いてっ! 冷静に物事を見ないと見つかるものも見つからないよ。それに一番可能性のある魔物の生息域は今、先生達が探してくれてる。もしかしたら見つかってるかもしれないよ」


「そ、そうだよね……ありがとう」


「なら、一旦戻りましょうか」


 俺達は戻ってきたという報告を期待して戻ることとなった。


 ――だが、そこには愕然とした先生達の姿があった。


「ダメです。見つかりません……」


「……そうか」


 頭をぐしゃぐしゃとかくカルバスに険しい表情のマーディと先生達の姿があった。


「先生! 騎士に連絡は?」


「いえ、何やら魔物が活発で駆り出されているそうなの。そこの騎士達にはリュッカ・ナチュタルの特徴を伝えておきましたが、望みは薄いでしょう」


 俺はアライスが緊急的に呼び出しをくらって、飛び出していったのを思い出す。


 かなり深刻な事態なのだろうか。それとも人一人が行方不明だけでは調査されないのか。


 どちらにせよ騎士は動けない。


「ならギルドは?」


 それに対してはフェルサが首を振る。


「まずギルドは相手にされない。リュッカは貴族じゃないから依頼としては見る人は多いと思う」


 なんでも貴族が行方不明者リストとして、よく貼り出されるという。


 自由な生活がいいだとか、自分の望み通りにならないとか、英才教育が厳しすぎると逃げ出したりとか、いわゆる反抗期みたいな家出が多いとのこと。


「だけど、平民であるリュッカには報酬が少ないことから、気まぐれに探す冒険者ならいるだろうけど、それまでだよ」


 冒険者は金でなら大体は何でもする。逆に言えば金がなければ動かない。


 勿論、全員がそうではないが、そもそも行方不明者の捜索は難航されることが多いことから、見つけたら連れてきて報酬を受ける形にしているのだ、すぐに探すとはならないようだ。

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