72 不穏な予感
「――お待たせしました!」
普段、午後の授業で魔物の生息域に行く際の装備でリュッカは勇者展望広場に到着。
だが、そこにいたのはソフィスの姿だけではなかった。
「えっと……」
「あら、ご機嫌よう……リュッカさん」
アーミュと取り巻きと思しき二人の姿もあった。
あの時の不機嫌そうな顔とは一転、明るく振る舞うアーミュに違和感しか感じなかった。
「あの……ソフィスさん。どうしてこの方々が?」
「えっと、町で偶然会いまして、事情を話したら協力してくださると……」
おそらく深刻そうな表情をして、ここへ向かった際に声をかけられたのではないかと考えたが、リュッカはあの実戦授業や普段の態度から、とてもじゃないが親切心があるようには感じなかった。
「聞けば大切なペンダントを失くされたとか、是非と思いましてね……」
聞いたのはソフィスに対してだったが、聞こえていたのか、アーミュが答えた。
だが、その言葉に違和感しか感じないリュッカは、少し後ずさる。
「なら、貴族の方々が一緒に探して下さるなら大丈夫ですよね? 私はこれで……」
リュッカの頭によぎるのは、あの時の忠告の際に聞いた彼女の様子。
警戒するのは当然のことだ。
その様子を見て残念そうな表情でため息をつくと、アーミュは謝罪を始めた。
「……まあ、その反応も当然ですわね。あの時は随分と辛く当たりましたもの……ごめんなさいね」
その懺悔にリュッカは耳を傾けた。
「わたくし、反省しましたの。あの後先生に呼び出されていたでしょ?」
「……ええ」
「最初こそ理不尽に怒りもしましたけど、よく考えれば、なんて愚かな行いだったのだろうと改心致しましたの。その罪滅ぼし……いえ、その証明ですかね? になればということでのペンダント探しなんですの」
リュッカは自分の疑念に反省する。
彼女はしっかりと反省している。自分を見直そうとしている。それを疑うなんてと自分を責めた。
とはいえ、急なことで戸惑うリュッカはやはり、ある程度は警戒しつつも信じることにした。
「……わかりました。私も失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません」
「良いのですよ。是非、ご一緒にペンダントを探しましょう」
「はい」
こうしてアーミュと取り巻き二人が加わり、ペンダント探しをすることに。
だが人数が増えて見つかる確率が上がったというのに、ソフィスは顔色が悪く、真っ青だ。
「大丈夫ですよ。ペンダントはすぐ見つかりますよ」
「そうですわ。リュッカさんの言う通り、そんなに心配なさらなくてもいいんですのよ」
アーミュはゆっくりとソフィスの肩に手を回す。
ソフィスの酷く怯えた様子を不信に思うも、大切なペンダントがないことへの不安と割り切った。
「ではザラメキアの森へと向かいましょう」
「ああ……お待ちになって」
アーミュは下げバックの中から袋を取り出した。
「これを使って行きましょう」
「それは……?」
「匂い袋ですわ」
リュッカも旅の時にお世話になった魔物よけの匂い袋。あの時見たものとは違い、少々小さめだ。
「なるほど、それで魔物が来ない間に探すのですわね」
「さすがアーミュ! いい考えね」
取り巻き二人が褒める。だが、それならやっぱり必要ないのではと考えるリュッカだったが。
「そうですが、これは特注品。匂い袋の効果が切れても違和感を残さない優れものとはいえ、持続時間が短いのがネック。そこでリュッカさんには護衛をお願いしたいのですけど……いいかしら?」
リュッカは匂い袋の効果が切れると違和感のある状態に陥るのは身を持って体験している。タイオニア大森林での激走がその証拠。リュッカはソフィスを除く貴族嬢達が戦闘に不向きなのは承知している。
「わかりました。任せてください」
「それでは参りましょうか」
彼女らは勇者展望広場を後にした。




