69 嫉妬という悪意
カルバスらの説教を聞き終えて、学校裏の人目付かぬ場所。彼女らは理不尽な文句を垂れ流す。
「何なんですの!! わたくし達に向かってあの態度!!」
「全くだわ!! この学園がいくら平等にといっても最低限の計らいはあるべきだわ!!」
「私達は将来を担う存在だとわからないのよ、あの先公共……」
アーミュと取り巻きの二人である。まるで自分達が偉い存在でもあるかのような発言。家の力を自分の力だと勘違いしている下等な存在そのものであるが、彼女らがそんなことを微塵も感じるわけがない。
「それにしたって腹が立ちますわ!! あの女……」
思い出すだけで怒りがこみ上げているようだ。
「何かあったの?」
「それがあのリュッカって女いたでしょ?」
「ああ、言ったけか、そんな芋女」
「あの地味眼鏡、アルビオ様と親しげに話してたのよ」
やはり、遠視魔法で見ていたようで、その当時の様子を知らない取り巻きに話す。
「そうなんですのよ……! あの蛆虫……!」
アーミュは怒りが頂点に達したのか、地団駄を踏み始める。
「今までわたくし達がどれだけ言い寄っても、良い反応のなかったアルビオ様が、どうしてあんな蛆虫にぃっ!!!!」
げしっと近場の木を蹴り続ける。だがいくら怒りをぶつけても治まる様子を見せない。
むしろ強くなる一方。
「あんな蛆虫の何がいいんですの!! それもこれもあのケダモノっ!! ああああっ!! 苛つきますわ!! むかつきますわ!!」
怒りの矛先を向けられている木は皮がめくれてきている。
「貴女達っ!! あの目障りな蛆虫共を何とかなさい!!」
遂に怒りの矛先が取り巻き達に来た。
勿論、この二人も困る訳で……、
「そんなこと言われても無理ですわよ」
「そうそう。なんたってあの殿下が目にかけてるし……」
「その殿下に這いずる蛆虫を何とかするのが、我々のするべきことでしょうが!!」
取り巻き二人は顔を見合わせ、無理だと宣言する。
「やはりそれでも無理ですわよ。あの眼鏡にもケダモノにも、あのリリア・オルヴェールがついてますもの……」
「くうっ……! あの悪魔女か……」
「それにあの獣も元冒険者。それに実力はあのカルディナとほぼ同格……下手したら上、私達じゃ相手にならない」
「あの……! ケダモノっ!!」
彼女達が何とかしたいリュッカの周りには学校中の噂の種、リリアと彼女達の前でまざまざと実力を見せつけたフェルサというボディガードがいる。
アイシアはともかく、この二人を何とかしなくてはどうにもならないが、彼女達にはこの二人を何とかする術を持ってはいない。
「あいつら全員目障りなのよ!! 何とかならないの!!」
考えれば考えるほど、怒りは募るばかり。頭を抱えて叫び狂う。
すると、黒肌の取り巻きがリリアの情報を話す。
「あのリリアって女、最近アルビオ様の家に行く機会があるらしい……」
「はあっ!? あの女まで!?」
「いや、それはないみたい。何でも勇者の日記が読めるとかなんとか……」
「そんな情報何も役に立ちませんわ! 何か……何かあるはずですわっ!!」
ぶつぶつと呟き始める。
「蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫蛆虫――」
狂気にまで迫っているアーミュに恐る恐る話かける。
「とりあえず明日小テストがありますから、アルビオ様の力になって少しでも――」
「小テスト……」
取り巻きの発言を聞いて、蛆虫と唱えるのをやめた。
何か思い立った様子だ。さっきまでの怒りの表情も和らいでいる。
だが、その表情は決して穏やかな考えの元、生まれたものではない。
「……ありますわ」
「は?」
「あの蛆虫女を何とかする方法……」
「本当ですの!?」
「ええ」
怒りは消えた。まるで嵐の前の静けさと言わんばかりの表情。
「何で……何で気付かなかったのかしら!! ふふ、ふふふふふふ……あははははははっ!!」
アーミュは悪意を感じる高笑いをした。
「そうと決まれば作戦を教えるわ。貴女達は情報を頂戴。特にあの銀髪っ!!」
「わ、わかったけど……本当に消せるの? あの女……」
まるで口裂け女のような感じの不気味な笑みを浮かべる。
「ええ。消した暁にはアルビオ様の優先権はわたくしが頂きますわよ」
「……わかったわ。案を聞かせて……」
アーミュは取り巻きに思いついた案を耳打ち。
嫉妬という悪意が牙を剥き始める。
 




