66 偶然の出会い?
「まあこの程度の場所よね。もっといい場所はなかったの?」
アーミュはブロンドの縦ロールの髪を弄りながら、文句を垂れ流す。
基本、この手の人間は人を褒めない。必ず悪いところを掘り出し文句を言う理由を探すのだ。
その場所は彼女よりも位の高いカルディナやハーディスがいい場所と褒めていた、この森のオアシス的な場所。
リュッカは素敵な場所と思ったが、アーミュのせいで台無しだと影を落とす。
(シア達とくればきっと楽しかっただろうな……)
つくづくついていないと落ち込む。
「はあ……少し休みますわ。肩を揉んで頂戴」
もはや完全に小間使い扱い。リュッカは疲れた表情で仕方なさそうに彼女の元へ向かおうとするが、彼らが止める。
「おい、ナチュタルさん! 止めろ! 見ちゃいられないよ!」
「そうだよ。ナチュタルさん、一人で頑張ってくれてるんだ……僕が行くよ」
そう言うと大人しめの彼がアーミュの元へと向かった。少し話し込むと彼は肩揉みを始めた。
「なあ、あんたにはプライドってもんがないのか?」
さっきの態度に不満があると言葉をぶつけるように尋ねる。
「……私だってこんなことしたくないよ」
「だったら――」
「でも、誰も何もしなかったらあの人、何するかわからないから、怪我でもされたら大変だし。それに……」
「……」
「……何でもない」
リュッカは自分の中にある志を口にしたくはなかった。
父の志、嫌な事を率先してやって誰かの役に立つ。だが、これをここで口にすれば、自分から誇りをズタズタにしてしまうような気がした。
そんな暗い気分で身体だけ休めていると、こちらに近づいてくる話し声が聞こえる。
どこか明るく、しかし媚びを売るような黄色い声が聞こえる。
「さあ! こちらです! アルビオ様……!!」
アルビオを含めたパーティーがこの川辺にやってきた。
さっきまで辛辣な表情をしていたアーミュは激変。先程まで一切見せたことのない笑顔でアルビオの元へと一目散。
「あら♩アルビオ様。ごきんげよう」
アルビオに素早く近づくとさっと空いている腕を掴み、胸を押し付ける。
その行動に遠慮がちな苦笑いで答える。
「貴女もご一緒でしたの」
「え、ええ……まあ、同じパーティーになったので……」
アルビオに黄色い声を浴びせていた彼女はアーミュの取り巻き。彼女は眉をひくつかせながらも機嫌を損ねぬように振る舞う。
(くそっ……アーミュがいたんじゃマズイ)
「ささ、あちらでお休みになりましょう?」
強引に引っ張るとこの場所では一番座り心地の良さそうな岩場に腰をかける。
アルビオは何か言いたげではあるが、こちらも言い出す勇気がないようで、アーミュに流されるがままだ。
そんな時だった。今度はアルビオ達とは反対方向から声が聞こえる。リュッカは聞き覚えのある声に安心したように表情が明るくなる。
「ほらあった」
「さすが獣人さんだね! 川の匂いを嗅ぎ分けられるなんて……」
「フェルサちゃん!」
「あれ? リュッカ?」
無表情な顔をそのままにフェルサは首を傾げる。そしてフェルサは周りを見渡しながらリュッカの元へ。
「リュッカ達も休憩?」
「うん。そっちもみたいだね」
「そ。この女がへばってね」
そこには服の汚れを払う貴族嬢の姿があった。
「何でわたくしがあんな獣道なんて……」
「ずっと休憩したいって言って煩かったのはお前だよね」
ギロっと睨みを効かすとしゅんと黙り込む貴族嬢。リュッカはその様子を見てどこか哀愁漂う表情を浮かべる。
その表情を見たフェルサはもう一度周囲を見る。
リュッカを含めた表情の暗いパーティーとアルビオの両隣にいる貴族嬢。
ふうと一息つく。
「アルビオ、少し休もうか」
フェルサはアルビオの疲れ果てた表情を見て提案するも、これには反対意見のアーミュと取り巻き。
「今わたくしとお休みになられているから結構ですの。獣は獣らしく森の中でお休みになられては?」
「そ、そうよ」
「別に私はそれでもいいけど、あんた達がいるとアルビオは休めないらしいよ」
「そんな訳ありませんわ!!」
「アルビオの顔、見てわからない?」
アーミュ達はアルビオの顔色の悪い様子を見た。
「い、今から休まれるのです!! だから――」
「お前達に言い寄られ続けて休めるとでも?」
「このっ……!! ケダモノの分際でっ!!」
何かにつけるとケダモノとしか言わない彼女達を侮蔑の視線を送る。
「……何ですの……何ですの!! その目は!!」
フェルサは彼女を無視し、アルビオに近づくが、アーミュ達は噛みつく。
「近寄らないでっ!! ケダモノ!!」
「そうですわっ!! 汚らわしい!!」
そんな悪態にも一切怯むことがないフェルサの姿を見て、リュッカは自分との差を痛感せざるを得なかった。
「アルビオはどうしたいの?」
「えっと……」
「アルビオ様っ!!」
「こんなケダモノのことなどお気になさらず……」
アルビオは両隣の貴族嬢に圧をかけられ、自分の言い分を言えない状況に陥る。
はあと呆れたため息を漏らすとしょうがないとばかりに切り札を切る。
「殿下に彼のこと、お願いされてるんだけど……」
「――なっ!?」
殿下と出されて驚愕する。
「そんなデタラメを――」
「貴女達もマルファロイの話は聞いてるでしょ?」
あの出来事は学校中の噂になっている。彼女らが聞いていないということはないだろう。
「ぐう……」
ぐうの音は出たらしい。
「あの時に頼まれたの。何ならそのお隣にいる本人様に聞いてみたら?」
アルビオはその意見に同意する。
「うん、彼女の言う通りだよ。だから……その、彼女達と休ませてほしい」
「い、いけませんわ!! こんなケダモノとなんて――」
「で・ん・か」
フェルサはわざとらしい言い方をすると、アーミュ達はギッと睨みつける。
貴族嬢達は逆らえないということがわかっているのだ。殿下を出されては抗えない。
何せこの貴族嬢達は殿下のご機嫌とりをやっているのだ。当然だろう。
「アルビオ、いこ」
フェルサが呼びかけるとアルビオはアーミュ達から離れてフェルサの元へ。
アーミュ達は悔しそうに歯ぎしりを立てながら見ているしかない。
「リュッカも……」
「えっ!? 私も!?」
「うん、リュッカも頼まれてたでしょ?」
確かにリュッカにも頼まれていたことだ。リュッカ自身もちゃんと覚えている。
だが、明らかに反感を買いそうな状況にフェルサに応えられずに固まる。
すると、フェルサがリュッカの手を引く。
「ちょっ!? フェルサちゃん!?」
振り払うこともできるだろうが、どこかリュッカにもこの場から離れたい気持ちがあったのだろう、抵抗しない。
「じゃ、みんなも休んでて。私達は向こうで休むから……」
そう言うとこの川辺から森の中へと入っていった。
 




