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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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62 オリジナル

 

「そういえばリリィ。アレは完成したの?」


 貴族の二人と話し込んでいると、川の辺りで休憩していたアイシアが尋ねる。


「んー……一応?」


「ん? 何の話?」


「いやね、リリィがターナ先輩と秘密の特訓をしててね……」


「別に秘密の特訓でもないけど、ターナ先輩がオリジナルを考えてるらしいから、私も挑戦してみようかなって」


「えっ!? オリジナル!?」


 オリジナルとは名の通り、この世界での流通している魔法ではなく、自分専用の魔法のことを指す。


「タールニアナ先輩は確か推薦を受けてましたからね」


「知ってたの?」


「そりゃあ殿下の護衛ですから、王宮の人事は多少耳にも入ります」


 実はタールニアナは治癒魔法に特化している為か、王宮魔術師としての推薦を受けている。


 その為の学校とは別課題でオリジナルの開発の課題を出されていたのだ。


「タールニアナ先輩の術開発は難航しているのですか?」


「うーん、どうでしょう。私と話をしてた時は術自体は完成してますけど、後の課題は治癒能力の向上かな?」


 そんな話をしているとミリアとロバックが尊敬の眼差しでこちらを見る。


「あの! その話詳しく!」


「ぼぼ、僕も興味あります!!」


「……オリジナルは魔法研究開発機関とはまた別なのかしら?」


 カルディナが素朴な様子で質問。それに対し、少し唸ってからハーディスが答える。


「はっきり別とは言い難いですかね。貴女も知ってはいるでしょう、オリジナルのことは……」


「ええ」


「そのオリジナルが他の人にも使えるのなら魔法の開発として登録することが可能です。ただし、登録してしまえばオリジナルではなくなりますが……」


「なるほど……」


 つまりは然るべきところへと術式登録するかしないかでオリジナルかどうかは扱いが変わるということ。


 この国にある魔法研究開発機関とはオリジナルや昔の偉人が残した魔術を研究、開発をして復元する機関のこと。


 そこへ術を登録すると利益を得られるが、オリジナルを登録するのは極めて困難である。


 登録する為の課題が、ある程度の人が発現できる魔術であること、オリジナル性があること、後は禁止事項に触れないこと。


 禁止事項はいわゆる犯罪行為の類を指す。


 禁止事項はともかく、後二つの課題が大きい。


 一つ目の課題は精神型の人のみの割合を指すが、それでもきつい。基本、オリジナルは多属性の術が多い。それを開発する人間はいわゆる天才ともされる多属性持ちとなる。


 そんな中でほとんどの人が一つしか持っていないのだ。どう考えても登録は困難である。


 とはいえ一つの属性持ちがオリジナルを開発できない訳ではない。


 そこでさらに課題となるのが二つ目。


 一つの属性持ちがオリジナルを考えると陥ってしまうのが、形である。


 例えばテンペスト・ウルフ。荒々しい風の渦が狼の形を成し、獣の如く走り抜け、その抜けた先を無情に引き裂く魔術だ。


 ぶっちゃけた話、獣の形をモチーフにした方がオリジナルは完成しやすく、普通の武器をモチーフにした魔法よりも威力や汎用性などの高さから組みやすいとされているが、そんな術など幾らでも存在する。


 その為、登録する側からすれば、これに似た魔法があったよねという話になる。


 結果、魔術の登録で一攫千金みたいなことは夢物語と消える訳だが、あくまでオリジナルとして汎用する人がほとんどとなる。


「――ん? ではアイシアさんが尋ねたのは何ですか?」


 ここでハーディスがアイシアの発言を思い出す。


「ん? だからリリィがオリジナルを開発できたのって話……」


「えっ!? オルヴェールさん、オリジナルを?」


「すごーい!!」


「いや、凄くない凄くない。私、多属性持ち……」


「いえ、それでもオリジナルの開発は凄いことですよ。完成したとのことですから、是非見たいです」


 みんな、期待の眼差しでこちらを見る。俺はしょうがないとため息混じりに答える。


「……いいよ。じゃあ見せてあげるね」


 そういうと頭一つ分の石を用意すると、平らになっている岩の上に置いた。


「それじゃあ、あの石に魔法を発動するから見ててね」


 みんなが期待する中での発動は些か緊張するが、一息つくと詠唱を始める。


「――闇の王よ、かの赤き力を持って我に応えよ。その黒き息吹はかの万物に宿れ、灰となり、地に還るまで! ――燃やせ!カースド・フレイム!!」


 かざした杖から火炎放射のように勢いよく石に向かって黒い凶々しい炎が飛んでいく。そして石へと直撃。


「黒い炎……」


「術自体はフレイム・バーストと似ていますか……」


「えっ? 待って……」


 ふとミリアは疑問を持つ。


「何で石に火が付いたままなの?」


 そう石には黒い炎が勢いよく燃え盛ったままなのだ。本来であれば焦げた後が残り、火は消えるものだが、この術はその概念を覆す。


「あれはどういう事ですの!?」


 冷静沈着な彼女も動揺するほどに燃え盛る黒い炎。私はある提案をする。


「誰でもいいから、あの炎消してみてよ」


「……何かあるのかい?」


 何かを企んでいる俺の表情を悟っての発言に無言の笑顔で答える。


 ならばと挑発と判断したカルディナが我先にと挑戦する。


「――面白いっ!! ――はあぁっ!!」


 腰の剣を素早く取り出すと遠距離での風魔法を付与した突きでの風撃。


 だが、黒い炎はたなびくだけで消える気配がない。


「僕もやりましょう!!」


 ハーディスもかまいたちのような剣撃で追い討ちをかけるが、結果が変わらない。


「ねえ、ロバック、ミリア」


「な、何?」


「ロバックは水魔法、ミリアは地属性の魔法をかけてもいいよ。存分にね」


 ニコッと楽しそうな笑みを浮かべる。


「もしかして消えないんですか? あの炎……」


 さっきまで風魔法付与の攻撃を繰り返していた二人がギブアップ。


「まあ試してみなよ……」


 ロバックとミリアはお互いに見合うと頷き、魔法で消そうとしたが、


「……全然消えませんね」


「それどころか私の魔法にまで燃え移ってる……」


 水魔法では消えず、地属性の泥のような魔法をかけても勢いは収まるどころか燃え移り、燃え盛る。岩を落としても同じこと。


「どういう魔法か、もうわかってくれたよね」


 俺は無属性魔法の念力みたいな魔法で黒い炎を宿した石を川に向かって飛ばす。


 ぼちゃんとしぶきを上げて、川に石が沈むがまだ燃えている。


 水の中で炎が燃えるその光景にみんな唖然とする。


「まあ簡単な話、消えない炎なんだよね」

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