50 物欲センサーって異世界でもあるのかな?
「リリィ! 楽しみだね!」
アイシアもいつも以上に上機嫌だ。
美少女魔法使いには使い魔はもはや常識ですからね。むしろ今までいなかったのがおかしいくらいだよ。
「やっほー、お二人さん」
「この間はありがとう」
ユニファーニとミルアも合流。四人で召喚される魔物の予想話で盛り上がる。
「どんな魔物が召喚されるんだろ」
「確か二人は火属性だったよね? だったらぁ……サラマンダーとか?」
ど定番な気もするが、それでもいいな。
「でもそんなに強い魔物は出てこないんじゃない?」
「あっ! ……そっか、じゃあファイアウルフとかバミットとかかな?」
「バミットはいいよね〜……可愛い」
バミットとはリス型の魔物らしい。尻尾の部分が炎のように燃え盛っているのが特徴。
「魔物に可愛いはどうなの?」
「でも仲間にするんだから可愛い方がいいよ」
「そうそう」
アイシアとユニファーニはこくこくと頷く。
確かに向こうの魔法少女モノでも黄色いものから白いもの、何だったら人にまでなれるもふもふマスコットまでいるくらいだ、可愛い気くらいはあってもいいか。
「私は利便性のある魔物がいいな……」
「ちょっと真面目過ぎない?」
ミルアの言う事にも一理ある。アドバイスをぺちゃくちゃ喋るだけの役立たず使い魔より、自分の役に立つ魔物の方がいいかも。
実際、この召喚をする理由としては魔法使いである俺達の護衛が基本である。
先生の授業ではこう言っていた――。
「私達、魔術師は詠唱している間は無防備になる。それを守る為に騎士、つまりは前衛がいるわけだが、いつでも自分の信頼を置ける仲間がいるわけではない。生きていれば色んな状況に遭遇するだろう。故に自分の力の一端として、魔物を使役することは大きな事だ」
――とのこと。
つまり万が一、自分が一人で戦わなければならない状況が来ても、前衛役が取れるように召喚魔はいた方がいいという話だ。
この世界は魔物が当たり前にいる世界だ。命がかかっている以上は念には念を押して損はないということだろう。
「じゃあミルアはやっぱりゴーレムとか?」
ゴーレムを使役出来れば頼もしいよな。絵にもなりそう。
「ゴーレムは無理だよ〜。形成が大変そう〜」
「形成?」
「ゴーレムは魔石を核として、周りの土や石を身体にするから。召喚魔とする場合はそれを術者がやらなきゃいけないの」
ああ、だからあの時のルーンゴーレムも作っただのなんだの言ってたのか。
あれを作ったとか改めてすごいな。
「じゃあ何がいいの? ミルア」
「うーん……ロックタートルとか? 座るのに便利そう……」
「――そんな利便性は要らない!!」
あからさまなボケにツッコまざるを得なかった。
「ふふ、冗談だよ、リリアちゃん」
ちょっと悪戯混じりの微笑でそう言った。ミルアのその言動から読み取るに、やはり内心楽しみなのだろう。
「でも、ランダムに召喚されるからなぁ。選べたらいいのに……」
「まあ仕方な――」
少し離れた魔法陣の方から歓声が聞こえる。その方へと向くとサワーグリーンの髪の女の子が立髪が虹色の鳥を肩に乗せている。
「あの人、内のクラスの人だね」
見覚えがあるが、名前は忘れた。だが、貴族だったとは思う。
「あれはエアロバードだね! すごいっ!!」
何か明らかに風の魔物ですよって名前の魔物。しかも割と大きい。
「強いの?」
「そうだね、Bランクくらいだったと思うよ。何せあの鳥、風の魔法を使えるしね」
「えっ!? すごい!」
「しかも護衛まで出来る汎用性もあるし、優秀だよ」
「へ〜……」
遠巻きから見ても頼もしそうに見える。彼女も嬉しそうだ。あれが理想的な使い魔のあり方だよね。
「いいなぁ……カッコいいなぁ、ああいうの」
思うところは一緒なようで……。
「――ユニファーニ・ロア! こちらへ……」
「あっ! はい!」
マーディがユニファーニを呼ぶ。その声に返事をする声も弾む。
「じゃ、行ってくる」
軽くウインクをするとたたっとマーディの方へと向かった。
「せっかくだし、予習ついでに見ない?」
「あっ! いいね!」
「うん!」
俺達はユニファーニの様子を見に行くことに。それに気付いたユニファーニは何だ来たのかと表情を緩める。
「では、始めなさい」
「はい!」
マーディはそう言うと、手に持っているナイフを手渡す。それを手に取ったユファは少し緊張した表情に変わる。自分で切り傷をつけるのは気が引けるだろうが、必要なことなら仕方がない。
魔法には血も必要な時もあることは俺はこの異世界に来て始めに知ったことだ。
今思えばあの光景は残酷に見える。どれだけの血を流して、どんな思いで切ったのか、正直、他人の俺からすれば彼女の気持ちなど一生わからないことだろうな。
「――召喚!!」
ぼおっと考え事をしている内に詠唱を終えて、召喚される。
するとアザラシみたいな魔物が出てきた。向こうとはそう変わらない愛らしい姿だが、若干薄い水色がかった身体に、額には長い角が生えている。
まあ異世界だし、普通のアザラシは出てこないわな。
「この子……何?」
「シュワゴンですね」
きょとんとするユニファーニにさらっと魔物名を答えるマーディ。
ていうかユファって水属性だったんだ。
「強いんですか!?」
「……水辺ならね」
「……」
期待を裏切るようにさらっと言い放つマーディ。この人、仕事人だわ。
「まあドンマイ」
「悪くはないと思うよ」
「可愛いから良しだよ」
「みんなのフォローが嬉しくない! 後、あんまり可愛いくない!」
遠くから見ると可愛いように見えるが、近くで見ると中々のブサイクさんだ。
「ええっ!? このぶにゅって感じが可愛いよ〜」
所謂ブサカワね。
「いつまで騒いでいるのです。下がりなさい」
「はーい……」
マーディに注意され、離れると今度はミルアが呼び出された。
「――ミルア・ハーキーさん! こっちでお願いします!」
エリックが呼びかける。ミルアは慌てた様子でかける。俺達も向かうことに。
「ではこれを。深く切り過ぎないように気をつけてね」
「あっ! はい!」
マーディとは違って優しい対応。彼女も緊張した様子。ふうと一息つくと、指を切って血を魔法陣に垂らすと魔法陣は反応してか光を放つ。
「――魔の者よ、今我が呼びかけに応え、我が前に姿を見せよ……召喚!!」
呪文を唱えると大きく光、一瞬見えなくなる。すると、黒光りしたてんとう虫がいる。それを見たミルアは……、
「――い、いやああああーーっ!?」
大きな悲鳴を上げて、その場で蹲ってしまった。
「な、何で!? どうして!?」
混乱した様子を見せるミルアにどうしたんだろうと呆然とするアイシアと俺。ユニファーニは苦笑い。
この大きさの昆虫は確かに悲鳴を上げたくなるのはわかる気もする。
「プロクティだね。魔術師の防衛役としては優秀だよ」
よく見ると羽の部分が黒鉄のような感じ。亀の甲羅みたいなてんとう虫みたいだ。
だが、そんな説明が必要ないとばかりにミルアは距離を取る。
「虫、嫌い……虫、ダメ……」
ぶつぶつと塞ぎ込み始めてしまった。それを心配するようにてんとう虫接近。
「――いやぁああっ!! だから来ないでええっ!!」
「虫、苦手なの?」
「まあね」
嫌っていうほどそれに好かれるなんて話、よくあるよね。幽霊を見たくないって人ほど見るみたいな。




