14 人の記憶能力って割と凄いですよ
辿々しくも食事を終えると俺は彼女の自室へと向かう。二日間とはいえ、こんな美少女の自室で寝泊まりするなんて考えられない事だ。この娘が彼女でお呼ばれだったらどれだけ喜んだか。
「はぁ……」
虚しくなりながら自室の扉を開けて入った。
彼女の部屋は何というか女の子にしては可愛らしさがあまり無い質素な部屋だった。生真面目と言えばいいのか、本棚には物置きにあったような本が綺麗に整頓されている。
あとは勉強机と椅子、ベットにクローゼットくらい。ここまで普通の部屋も逆に珍しいかもと思うほど。俺の中の女の子の部屋って言ったら、明るい色合いの物や壁紙、可愛らしいぬいぐるみや家具等があるイメージがあったが、簡単に期待を裏切ってくれた。
まあ、この娘の場合は性格がものを言っているような気がする。
その考えになったのも机の上を見ればわかる。厚みのある本が積み上がっている。
先程、魔法陣をメモする為の紙を取るついでに軽く横目に確認したが、どうやら魔術書のようだ。
何故か読めたんだよねぇ。初めて見た文字の筈なのだが、読める予想はつく。
パラパラと机の上にあった魔術書を無造作にめくる。
――仮説を立てると、俺という意識だけが転移を行っているが、身体は彼女そのもの。つまり、脳が元々覚えていた事はそのまま置いていったのではないかと仮説を付けられる。
人間の記憶には種類があるって聞いた事がある。ノリで少しネットで調べたっけ。
多分俺と彼女はエピソード記憶だけが入れ替わったと仮説が立てられる。じゃなきゃ俺はこの魔術書を見ても字なんて読めない筈だ。
読めている理由としては意味記憶と手続き記憶……だっけ? 身体が覚えているって言い方が多分、分かりやすい。
まあ、俺がこれだけ推測を立てられるのはエピソード記憶があるおかげなんだけどね。
つまり、改めて結論を立てると――向こうの記憶を持った状態で彼女の身体の記憶と融合したのが今のリリアって事かな?
だから俺がしっかりとした自我を持ちつつも、この娘の親の名前やいじめを受けていた記憶がないのも納得がいく。
俺が知ってる異世界ものって言うと、とりあえず簡単に言葉は翻訳されるのが普通だからな。エピソード記憶だけ交換された形というのは助かる。
さて、俺の仮説が正しいなら彼女は俺の本来の身体にいる可能性がある。
頼むから魔法陣の失敗で魂だけ、何処かで浮遊しているとかマジで勘弁な。想像もしたくない。
まあそれでも向こうも急に知らない男になる挙句、魔法が使えないわけだから、向こうは向こうでパニックになっているだろうけど。
完全に自業自得だけど。
――なのでお父さん、お母さん、ごめんね。息子の様子が急変して驚くだろうけど、本当の息子は元気に女の子やってます。せめて向こうの俺が真っ当に……無理だな。
俺は遺書の内容からそう察した。




