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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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47 日記

 

 あの後、もう少しだけ話をして、俺はとりあえず何冊かの貸し出しが可能となった。


 後、他にも直感が働く者が出るかもしれないと国の研究員を派遣すること、勇者と同じ属性持ちのアルビオにも読むようにハイドラスは指示をした。


 話し合いをしている内にアルビオのご両親も帰宅。納得した上で話は完結した。


「ああー……疲れた」


 だらしのない言い方で寮の玄関で、ため息と共に吐き捨てる。


「お疲れ様、リリアちゃん」


「でも、すごい発見だったね! リリィ!」


 もう勘弁してほしい。途中で話に飽きたフェルサみたいに寝こけていたかった。


「今お帰り?」


「あ……」


 玄関で話しかけてきたのはテテュラだ。寮で会うのは珍しい。


「テテュラちゃんは今からお出掛け?」


「ええ。悪いのだけど……」


「わかってますよ。頑張って下さいね」


「ありがとう、じゃあ行ってくるわ」


 俺達はリュッカ達のやり取りを呆然と見ていた。まるで夫婦みたいだ。


「えっと……何が頑張れ?」


 会話の内容が分からず、素直に尋ねる。俺達の前で話す以上、バレてはいけない話ではないはずだが……。


「バイトだって……」


「ふーん……」


 この学校ってアルバイトは禁止されてないのかな? まあ勇者に習って建てた学校なら、ありなのか?


「苦学生なんだね」


「苦学生って?」


「苦労が絶えない学生のこと」


「そっか。テテュラちゃん、色々あるんだね」


 アイシアはしんみりした顔で同情する。


「私達はちゃんとお母さん達からのお金で通わせてもらってるけど、そういう人もいるんだね」


「サニラみたいに諦めなかったってことだね」


「人には色んな選択肢があるってことだよね……」


 この世界はある程度、才能に左右されてしまう傾向がある。魔力の特性、属性、人種など、その才に流されやすい。


「よし! だったら――」


「何かしてあげようは多分、余計なお世話になると思うよ」


「えっ!? 何で?」


「確かに。テテュラちゃん、優秀さんみたいだからね」


 同室のリュッカが言うなら間違いないだろう。生活面から滲み出るものだろうし……。


「助けてほしそうだなって時だけ、声かけよ。テテュラはそんな感じの方がいいんじゃないかな?」


 あまり関わらない感じだが、リュッカには良くしている辺り、その辺が妥当だと提案する。


「そっか……わかったよ」


 アイシアはしょぼくれる。


「ほら、ご飯食べよ! ね?」


 ***


 俺達は寝支度を済ませると明かりを落とす。


「明かり消すよ」


「はーい……」


 フッと部屋の明かりは消えるが俺の手元には小さな明かりが灯る。無属性の浮遊魔法に小さな明かりを灯す魔石、異世界って感じの夜更かしの仕方だ。


「リリィはそれ読んでから寝るの?」


 アイシアは俺が借りてきた勇者の日記を指して言う。


「うん、そのつもりだけど気になるなら消すけど……」


 ベッド挟んでるとはいえ、小さく明かりが灯っていれば気にもなるだろう。


「ううん、大丈夫。お休み……」


 アイシアはそういうと俺とは反対側に向き、寝ることにする。


「お休み……」


 さて、とりあえず読もうか。


「ふう……」


 読みづらい日記に思わず、アイシアの小さな寝息がする中、息が漏れる。


 ひらがなまみれの小学一年生の夏休みの日記でも読んだ気分だ。小学一年生の教師をこんなに寛大に尊敬しようと思い立つことはないだろう。


 本当に全部ひらがなだった。ただ内容の方にはある程度誤解があったことに、読んでいる間に気付いた。


 いくつか重要な部分や異世界人だと匂わせることがちらほらと書き記されていた。


 それもそのはず、一と書かれた日記を読んだのだ。おそらくは異世界へ来て、日記を書こうと思い立ったものだ。


 ここまでで色々な疑問が宙を舞う。


 正直な話、勇者の性格はよくある少年誌の主人公みたいな感じと思われる。


 お風呂を中途半端に広めたり、ランジェリーショップを促したり、裸の付き合いだの――何か裸関連多くないか? ――後は異文化を平気で持ち出したりと、豪快さが目立つ。


 その割には貴重面に日記を書き記し続けたことが一つ目の疑問。


 二つ目は全部ひらがなであること。


 あの本棚の日記全てを確認した訳ではないが、転移した際の年齢を考えるとおかしい。筆記体は割と綺麗だしな。


 三つ目は日本語で書いたこと。


 日記を書こうと思い立ったのが、転移してから何時頃かは書かれてはいなかった。だが、普通に考えれば転移した日から書くなんてことはないはず。


 それを考えると、この世界の文字を覚えてから書いた可能性が非常に高い。なのにあえての日本語。


 後世に何かを残す気なら伝わりやすいよう、こちらの言語で書くはず。


 四つ目は地下いっぱいの日記だ。


 あれだけの量だ、一日も欠かさずに書いたに違いない。


 だが、あれが全て日記と考えるのもちょっとと思う。異世界へ来たのだから書きたいことが山ほどあると考えれば納得……かな?


 だが、今一冊読んだが、丸一日分書かれていた。全部ひらがなで書いてあるのだ、結構簡単に埋まる。


 それを考えた方が説明がつくか? だが、それにしても多い。


 五つ目は見つけやすい地下室での保管だ。


 普通に考えて日記とはつける本人がその日の出来事を書き記すもの。つまり人には見せないものだ。


 できる限り人目につかないところに保管するのが普通だろう。


 それなのに勇者の家の地下だ。しかも地下に降りればすぐにわかる本棚の量に大量の日記だ。


 いくら何でもおかしいと考える。


 正直、ちょっと勇者の考えていることが解らん。とりあえず、もう少し整理していこう。

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