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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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46 危機回避の方法はゴリ押しで

 

「――オルヴェール!!」


 身体を丸めて蹲っていたところに大きな声で呼びかけられる。びくっと身体が波打つ。


「な、何でしょう? 殿下……」


 いっぱいいっぱいの作り笑顔で返答するが、ハイドラスはわからないお前ではないだろうと言い放つ。


「先程の読んでくれた文脈を考えれば、確かにこれは日記だ。今一度確認だ……これは日記なのだな?」


 ここで――いいえ、読み違いですという言い訳はおそらく通用しない。辿々しくとはいえ、文章をなぞって読んでしまったのだ。言い逃れはできない。


「は、はい。そのように思います……」


「正直私はこれは勇者にしか読み解けない魔導書だと思っていたし、他の者もそういう見解だった」


 無理もない。俺からしたらただの日本語だが、この異世界人からすれば、謎の文字だ。しかも全部ひらがなであるせいか象形文字ぽく見えなくもない。


 大精霊を従えていた勇者ならではの言語ではないかなど、想像を広げるには十分過ぎるほどの材料だろう。


「これが日記なら大発見だ!! その当時の生活、歴史、魔法、文化などが精密にわかる可能性が出てきたのだ!! お前ならわかるだろ? オルヴェール!!」


 いつも何処か余裕を見せるハイドラスもさすがに興奮は隠せない。その様子にたじろぐ。


「そこでだ、オルヴェール……」


 来た。おそらく解読してほしいとくるだろう。どうする!?


「お前はこれが読める。しかも一文字一文字が読めるようだ」


 やはり、なぞって読んだことが仇になった。絶対ヤバイ!!


「どうだろう? 我が国の研究員を総動員してこれを調べたい。その為にはこれを読めるお前の力が必要だ」


「あ、あの……アルビオやそのご両親方に迷惑に――」


 ダメ元で家に迷惑がかかると拒んでみるが、


「それなら大丈夫ですよ。僕の先祖様の残したかったことが読み解けるなら、両親も納得の上で殿下にお貸し出来るでしょう」


 アルビオがハイドラスの擁護に入る。


「本来ならあまりこの場所から離すべきではないとは思うのですが、そういうことなら……」


「すまないな、アルビオ」


「いえ」


「という訳だ、オルヴェール。安心してくれていい」


 全く安心できない!! 俺の秘密がバレる!! それと同時に信頼が一気に崩れ去る。


 俺は必死に言い訳や対策を考える。今までにないくらいに頭をフル回転させる。


「オルヴェール、頼む。この文字の読み方を教えてほしい。勿論これだけの事だ、報酬は期待してくれていい」


 そんな期待より俺は信頼を守る方法が欲しいの! 願わくば。ヤバイ……! マジでどうしよ。


 俺の真っ青な表情を見たアイシアは殿下を止める。


「殿下! ストップ! 待ってください! リリィの様子が変です!」


「何?」


 ハイドラスは俺をじっと見るとすぐにはっとなり謝る。


「申し訳ないオルヴェール。つい興奮してしまった……」


「スゴイ勢いでしたからね、殿下」


「あんな殿下、珍しいですよ。そりゃあリリアちゃんも怯えますよ」


 ウィルクはそう言うとそっと近付く。


「ゴメンよ、リリアちゃん。とりあえず一旦、上に言って休もう。地下の空気と殿下の圧に当てられたらしいからね。アルビオ、すまないがリリアちゃんに何か飲み物でも用意してあげて……」


「わかりました」


「さ、行こうか。リリアちゃん」


 まさかエスコートされるとは。状況を考えれば感謝なのだが複雑である。


 俺達は一度リビングに戻り、一同は俺の顔色を窺う。


「落ち着いたかい? リリアちゃん」


「ありがとう、ウィルク……」


 お陰様で大分落ち着いたが、問題は一切解決していない。さて、どうするか。


「とにかく殿下。彼女の容態は優れませんが、読める人がいただけでも十分な成果では?」


「そうだな……」


「今日はこの辺にしておきましょう」


 読めるという認識がある以上、バレてしまう可能性は残り続ける。何とか読めていないということにせねばならない。


 このまま解散でもマズイ。この殿下のことだ、今日の事を深く考える可能性が高い。そうなれば結局、後で言い訳しても逆に疑いが深まる可能性がある。


 何とかこの場で読める認識を改めさせねば……。


「じゃあこのままリリィと帰ろうか」


「リリアちゃん、大丈夫?」


「う、うん……」


「いや、私の馬車が来ている、送ろう」


 紳士的な対応、感謝するがこのままでは本当に帰ることになる。


 俺としては読める認識を変えることもそうだが、幼稚な文章とはいえ、あれだけの量の日記だ、手掛かりがある筈だと信じたい。


 冷静になって思ったが、勇者は俺と同じ歳くらいで転移してきたと考えていい。銅像も若い頃のものだったから。


 幼稚な文章でひらがなで書いたことに気を取られすぎたが、よく考えればあの量だ、全部その内容だと違和感がある。


 あれだけの量ならおそらく生涯分書いているはず、成長しないなんてことはさすがにありえない。


 それに勇者として担ぎあげられ、貴族権利も断ったことから、ちゃんと考えられる頭の持ち主ではあったはずだ。


 何か意図があるはず、それをも調べられる都合のいい方法。


「じゃあ、馬車までは俺がエスコートしよう」


「不本意ですが、まあ今回は……」


 こんなんでも女の子の扱い方がなってるウィルクならとハーディスは渋々譲った。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 俺は大きな声でみんなを止める。


「どうした? オルヴェール」


「やっぱりこの軽薄男では不本意だったということですよ」


「何だと、野菜頭!!」


「何ですか? 浮気男?」


 この喧嘩をしている間に考えをまとめる。そして、ゆっくりと口を開き、言い訳を始める。


「あの、私があの日記を読めた件ですが……」


「ああ、それはまた後日で構わない」


「いえ、そうじゃないんです! 偶然なんです! 読めたのは……」


 さすがにこの発言にハイドラスを始め、研究員達もきょとんとした表情をする。


「偶然ではないだろう。あれは明らかに読めていただろう、なぞってもいたのだ」


「……イメージが流れてきたんです」


「イメージが?」


 何か遺跡探査とかでこれを見た時、何か息吹を感じるみたいなあれで誤魔化す。


「直感力が働いたと?」


 ハーディスは俺のあやふやな発言に乗っかるいい発言をする。俺はそれにすぐに乗っかる。


「そう! それ! インスピレーション!!」


 ハイドラスや研究員一同は少し考えるが、納得したような感じで話に乗っかってくれた。


「確かにその可能性は十分にあるな。何せこの日記を書いた持ち主はあの勇者だ。大精霊との契約もしていた方だ。そのような因果が残っていてもおかしくはないが……」


「でしたら我々にもある程度は伝わるのでは? 我々も自分で言うのはあれですが、研究者としてのプライドがあります。直感力や分析力には多少の自信はございます」


 そんな特別な才能でもなければ、研究者はきっと務まらないだろうな、確かに。


「いや、彼女は闇属性の才を持つ。そこに惹かれたとすれば……ないことではない」


「――っ!! 確かに。オルヴェール殿は闇属性持ちかね!?」


「あ、はい……火属性も持ってます」


「……何と!?」


「……なるほど、お前の直感はそこに関係があるのかも知れん。何せ勇者同様、複数の属性持ちだ。働きかけた理由も頷ける」


 いい感じに話が転がっていってるぞ! これなら大丈夫かも。


「でもさ、だったらアルビオ君もそうならない?」


 ここでアイシアが余計な一言。確かに今の話じゃそうなるけど、そこは黙ってて欲しかった。


「そこは個人差じゃない? アイシアちゃん。君と同じ火属性の魔術師でも個人によって得意不得意はあるだろ?」


「あ、確かに……」


 ナイス!! ウィルク。今日はあんたに特に感謝だよ!!


「……わかった。直感と言うのなら、先程顔色が悪かった事にも説明がつく。改めて申し訳なかった」


 ぺこっと頭を下げる。


「い、いえ! 大丈夫ですから! 頭をお上げ下さい!!」


 これは嘘なんだ。これでそんな申し訳なさそうに謝られると良心が痛む。そう聞くとすっと頭を上げた。


「ですが、これが日記とわかり、直感とはいえ読める者がいるのはやはり大きいです。そこで殿下、提案ですが……」


「何だ?」


「彼女に何冊かお貸しして、文章を解読してもらうのはいかがでしょう?」


 おおっ! それは願ったり叶ったりだ。殿下のさっきの提案からすれば、文字を教えてということ。


 この提案ならバレる可能性はあったが、これなら俺が文字が読めることがバレずに、しかも日記の内容を知ることができる。


 さすが殿下の護衛ってだけのことはある。ナイスなフォローやアイデアに長けてらっしゃる。


「そうだな。オルヴェール、正確には文字が読めないのだな?」


「は、はい! イメージ的な感じだったので……」


 もうこれでゴリ押す。


「わかった。オルヴェール、図々しいのは承知している。だが、これはこの国にとって重要な事だ。解読を頼まれてくれないか?」


 気分を害していた俺を気遣いつつも国の発展に繋がることに、頼まざるを得なかったという感じだ。


 国の次期王としてはそこは気遣う事は甘いなんて思う人もいるかもしれないが、俺は罪悪感からではない、心からこの人を支持しよう。


 そしてその信頼を裏切らぬよう、できる限りの協力はしよう。まあ、嘘や隠し事が多い手前、裏切らぬようになんて、どの口が言うんだか。


「わかりました。お任せ下さい」


 結局な話、嘘をついて俺は利益を得る結果となった話し合いだ、嫌でも罪悪感が残る。


 だが、だからこそ協力できることは何でもやろう。それこそが今回の嘘の罪滅ぼしだ。

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