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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
3章 ザラメキアの森 〜王都と嫉妬と蛆蟲の巣窟〜
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14 ゲームの武器屋とはいかないようです

 

 人がごった返す商業区。俺達はその人混みの中に紛れながらも買い物を進めていく。


 旅をする関係上、荷物は極力最低限に抑えていた為、日常品から筆記用具、普段着まで色々と買い込まなければいけないらしい。


 らしいというのは、正直俺は付き合いで来ている。元々俺はこちらで買い物というより、あの母親から慣れろという形でこちらに来た訳で、必要な物は実はほとんどある。


 何せ、元々バトソンと二人旅でここまでくる予定だったのだ。荷物が多くても問題ない。まあ、そこまで多くもなかったが。


 でも、正直付き合って良かったとは思う。というのも買っているのは化粧水や乳液といった美容液や化粧品、すなわち男がほとんど関わることのない女の買い物も含まれていることである。


 まあ今のご時世、男もメイクもするが俺みたいな元男子高校生がそんなファンデーションやら化粧水など興味を持つことはなかったが、リリアはこれだけの可愛さである以上、最低限くらいのことはしなければならないと義務的に感じるわけで、勉強しながらも頭を悩ませている。


 しかし、異世界でもやはり女という生き物は美を追求する生き物なようで、俺の世界とはあまり変わらない美意識を感じる。


「よし! こんなもんかな?」


「そうだね」


「しかし、こんな盲点があるんだねぇ。リュッカちゃんとはもっと仲良くなっておこうかな?」


 二人はその辺りを使いこなしているようで、美容液等は品質の良くも安い物を選ぶのに長けている様子。


 それもそのはず、原料となる物の確保場所の一つである魔物を捌いている実家から来たのだ。その辺りの知識が働くようだ。


 道理で肌艶がいい訳だ、二人とも。


「じゃあ次は武器屋に行こうよ」


「武器選びは聞いてもいいですか? ユーカさん」


「もち! まっかせて!」


「杖もあるかな?」


「だったらここからは別れる?」


「え?」


 何でも武器屋と杖を扱っている場所は違うらしい。という訳だが、個人的には剣も見てみたい。


「全部一緒に見て回りたいです」


「うーん……メンドくない?」


 俺の意見に少し表情を曇らせるユーカだが、後輩の頼みならと……。


「そうだね。せっかくだし、見てくか!」


 という訳で先輩が贔屓にしている武器屋へ向かうことになった。


 路地の裏手にある少し薄暗さが目立つ店に着いた。早速店の中へ。


「いらっしゃいませ」


 扉が開き、呼び鈴が鳴るのはこの世界の通例。その店の中には武器ごとにわかりやすく陳列されている。だが、見えるのは刃物の武器ばかりのようで……。


「防具はないんですか?」


「ある訳ないって。ここは武器屋だよ」


 どうやらこの世界は武器だけでも疎らに店が分かれているようで、ここは剣類、槍、斧などの刃物武器専門。


 要するには俺の世界で言うところの包丁専門店とか、見かけないだろうか。あんな感じ。


 それなら買い物に時間もかかる訳だ。早めに王都へ来たのは正解と言えるだろう。


「あのすみません、これから魔法学園に通う者なんですが――」


 リュッカが店員にそう尋ねると、そう言うお客さんも多いのか、さばき慣れたように話す。


「ああ、学生さんが扱う剣ならね……」


 剣が乱雑に突っ込まれた傘立てのようなところから漁り始める。


「この時期になると君みたいなお客さんが来るから嬉しいね。是非贔屓にして下さいな。安くしとくよ」


「あ、はい!」


 専門店は常連さんをつけると金回りもいいんだろう。リュッカの性格を一目で見抜くとこの発言だ。随分と商売上手である。


「お嬢さんみたいな細腕だと軽い方がいいだろ。これなんてどうだい?」


 渡されたのは鞘に収まっている一振りの剣。長さ的には無難なロングソードに見える。


「魔物討伐の演習とかに行くならそれくらいの強度と重さがある剣の方がいいだろ? あんまり刀身が薄い剣だと折れやすいからね」


 そんな説明をリュッカが聞いている中、俺は初めて見るファンタジーの武器屋を興味津々とばかりに感心しながら見ていく。


 サーベルやレイピア、ダガーに両手剣もある。やはり生で見るのは違う。


 俺の世界にある物はあくまで鑑賞用だったり、本物でも触れられないようなところに飾ってあるだけ。


 実際、こういう物が必要な世界なだけあって、物々しい感じがひしひしと伝わってくるようだ。


 好奇心にかられ、傘立てのようなとこらから一本手に取って、ゆっくりと鞘から刀身を抜く。すらっと鋼が擦れる音を静かに鳴らすも重さがあるのか、上手く持ち上がらない。


 そして――、


「抜けたって――きゃあっ!?」


 重い剣だった為か思わず後ろへ倒れこみ、抜いた剣は叩きつけられた音と共に床に転がる。


 その音に周りのみんなは気付くと、店員が注意する。


「コラッ! 何をやってるんだ!」


「……ごめんなさい」


「使い慣れない人が扱う物じゃないよ。まったく……」


 そう言う店員は慣れた手つきで俺が落とした剣を拾い、鞘へとしまった。


「リリアちゃん、大丈夫?」


「うん。ホントごめん……」


 ぶっちゃけ鞘から抜くだけなら簡単だろうと侮っていた。ファンタジーの剣を持ってみたかったという願望を抑えきれなかったのだ。


 ゲームやアニメとか異世界転生した主人公とか簡単に抜いてカッコよく戦ってたから出来るものかと思ったのだが、現実は上手くはいかないらしい。


 剣一つ抜くにしても練習が必要だということだ。


 この時、ふと思ったことがある。魔法使いで良かった。

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