01王都ハーメルト
ラバを離れ、広い見晴らしの良い平原の道をゆっくりと進んでいく。その道中で何人かの通行人とすれ違う、人の通りがある。今までの道中は中々人とはすれ違わなかったが、都市が近いとこうも人の流れがあり、近づいていることに少し嬉しい。
そして遂に旅の終着地点が見えた。この平原はちょっとした丘になっていたようで、そこから見える景色は壮大であった。
大きな城を囲むように街が広がっている。所狭しと高さがまばらな建物が並び、まだ少し遠いからか、人の姿は小さく確認できる。
「すっげぇー……」
思わず男口調でその光景に絶句する。それを聞いたアイシアは不思議そうにこちらを見る。
「入試の時来たでしょ? そんなに感動する?」
「あ……」
改めて言うと、俺は初めてだがリリアは来てるんだよな。
「ほ、ほら、ここからの眺めはスゴイじゃない」
そう言うとアイシアも荷馬車から顔を覗かせ、大きく息を吸う。
「そうだね。これだけ晴れてるし、空気は美味しいし、眺めはいいし、感動もするかも」
「そう? 私は見慣れたけど……」
また興味の無さそうな言い方で横槍を入れるサニラ。そこにバークはさらに余計な一言をさらに刺す。
「お前って本当に可愛くないよな」
言ってはならぬ一言。サニラはゆらりと威圧感を出しながらバークに近づく。
「……可愛げがなくて悪かったなあぁーっ!!」
「――いだだだだだっ!! 髪を引っ張るなぁ!!」
ドタバタと荷馬車内が騒がしくなる。せっかくの気分も台無しと、アイシアと一緒に荷馬車から頬杖をつきながら呆れる。
「ほらほら、喧嘩しないで。もうすぐ着くから……」
「いや、バトソンさん。気にしなくていいですから」
「あれ、いつものことなの」
「お陰で賑やかですけどね」
「うん……」
サニラとバークの関係をよく知るグラビイス達はいつも通りとほっておくように言う。
ツンデレと朴念仁とはこりゃまたテンプレである。
しばらくすると王都の入り口の門前へと到着。
門兵による検問ののち入国可能とのこと。身分証とかないのだが、大丈夫だろうかと不安になる。
ここはこの大陸を納める王都ハーメルト。入国審査は極めて厳しいのではないかと思うのだが。
そう感じるのはこの威圧感のある石造りの巨大な門がそう印象づけるものがある。高さもそうだが、ここから見える門の中も広い。
すると俺達の番が来たのか若い門兵が駆け寄る。ちらっと馬車と人数を見ると、旅人と思ったのか、固い敬礼する。
「遠路、ご苦労様であります! 身分を証明できるものはお持ちでしょうか?」
あると返事をすると、俺達以外は皆、ギルドカードや証明書を手渡す。それを黙々と確認する門兵。新人みたいだ。
「はい! 大丈夫であります。後はそちらのお嬢さん……」
顔を覗かせていた俺と目があったのか、少し頰を赤くする。それに気づいたアネリスはくすっと微笑する。
「見惚れるのもいいけど、お仕事はいいの?」
その一言にはっと我に返って深く頭を下げる。
「し、失礼しました! えっと、そちらのお嬢さん方は?」
「えっとまだ、身分証は持っていなくて……」
「でしたら、こちらの水晶に魔力を流して下さい」
そう言って、手に持っていた手の平サイズの丸い水晶玉を差し出す。
「えっと、これにですね」
「は、はい……」
門兵は顔を真っ赤にして硬直した。俺は無視して魔力を流すよう、念じる。すると、ほわっと青白く光った。
「問題ないですね」
「これは?」
「それは魔力を調べられる魔石だよ。魔力は身体を巡っているからね。魔力の濁りでその人の良し悪しを図るのさ」
要するには体内を巡る魔力も本人そのもの。何か悪いことでもすれば、黒く濁るらしい。リュッカ達も同じく、青白い光を放った。
「それでは入国を許可します。どうぞお通り下さい」
初々しく敬礼する。意外とすんなり入れることに驚いた。
「あのバトソンさん。こんなに簡単に入って大丈夫なんですか?」
正直、もう少し厳しいものと思っていた為、拍子抜けだ。
「この国はおおらかだからね。勇者様のこともあってか、来る者拒まずの国なんだよ」
「勇者ね……」
「それに何も悪いことなんてしてないんだ。大丈夫だよ」
「ああ……はい」
別にそこを心配した訳ではないのだが、この国の防衛意識を心配したんだが。
だが、そんな考えも一転、暗い門のトンネルを抜けると――、
「わあ……」
異世界ファンタジーではお馴染みの中世風の城下町の風景が広がる。足元はしっかりと石畳みで舗装されている。コンクリではないが。広がるように木や石で作られた建物が立ち並ぶ。
ここまでの旅でこんな大きな都市を見てこなかったので、興奮を隠しきれず、表情に出ているようで、
「リリィ……大丈夫?」
落ち着かない様子の俺を見かねて尋ねる。
「ああ、うん。大丈夫大丈夫」
落ち着きたくても無理な話だ。俺はゲーム好きでも特にファンタジー系が特に好きでやり込んだ少年。
友人との関係上、格ゲーなどにも手を出しているが、専ら一人でファンタジーのストーリーや世界観を楽しむ事に没頭したいタイプ。
いつぞやのファイアボールの興奮や数字が頭の上から出ないのを確認したのもそれだ。世界観はとても大事である。
ゲームのグラフィックもいいが、こうして生の世界を楽しむことができるなどそうある訳もない。
彼は目を輝かせながら、馬車に揺られ、城下町を進むのだった。




