71 重大発表
しかし、これは朗報だ。
ケースケ・タナカはおそらく日本人だ。その彼がここに来た経緯は知らないが、もしかしたら元の世界への帰り方を調べていたかもしれない。
ここでの生活が不満な訳じゃないし、向こうにもそんなに帰りたい訳でもないが、今後の選択肢を増やしておくことは悪いことではない。
「あのさ、勇者はこの国で有名なら何処かに住んでたんだよね?」
「そりゃあ勿論! 確か王都に家を持ってるはずだぜ」
自信満々に言うバーク。サニラとフェルサは呆れた顔でこう話す。
「このバカはミーハーなのよ」
「勇者のように色んな国へ行って、困ってる人を助けたいんだって……」
それは良い心がけには聞こえるが、問題はそれだけの解決力があるかどうかだが、この二人の反応を見る限りは言うまでもあるまい。
「まあいいんじゃない? そういう気持ちって大事だと思う」
「へ、へへっ……」
苦笑いしながら俺は言うとバークは頬をかき、凄く嬉しそうだ。同時に鋭い視線を感じた。瞬間、寒気が襲ってくる。
恐る恐るその視線の先を見ると、やはりサニラが何かを訴えかけるような視線を送る。
「あのサニラさん? 大丈夫だから……」
「わかってるわよ。わかってるから……」
「どうしたんだよ、サニラ」
どうやら矛先は隣を歩くバークらしい。こんなにも思われているのに気付かないなんて、罪作りな男ってこういうことを言うのだろうか。
俺みたいなゲームの話ばっかしてた男子高校生にはない話だ。あの時は羨ましいとは感じなかったが、こうして見ると羨ましい。
家族以外の人に想ってもらえることはとても良い事だろう。その関係が友人とか恋人とかどんな関係であろうと。
「別に……」
サニラは不貞腐れるように言い放った。サニラには申し訳ないが、勇者事情はこのミーハーの方が詳しそうなので、ある程度訊きたいことを聞き出す。
「勇者はこの王都の出身なの?」
まずは勇者が異世界人かの確認から。
そもそも名前がケースケ・タナカだ、ほぼ異世界人だろうが一応。
とはいえ、異世界人なら別の世界から来たことは隠すだろうか?
俺の場合は事情が事情だから隠してるが……、
「いや、王都出身ではないらしいぜ。何でも遠い国から来たって文献にはあるらしい」
「そうなんだ……」
正直予想範囲内だ。異世界人なんて普通は信じてもらえないからな。そう言い続ければ、そう記述もされるか。
「その証拠にこの世界では珍しい黒髪の持ち主だしね」
「あれ? でも――」
ちらっとフェルサを見る。
「フェルサは――」
「フェルサは狼系の獣人だから。人間の黒髪は珍しいのよ……」
サニラは当然でしょとばかりに投げやりに言った。
言われてみれば、この国の人達は基本はサニラのような茶髪か、時たまにリュッカのような赤髪が目立つ。髪色一つ取っても異世界と感じる瞬間である。
「えっと、じゃあ勇者には子供は?」
「いるよ。勇者の血を絶やす訳にはいかないって」
「じゃあその子供の髪色も黒?」
「さあ? 流石に会ったことがないからな……」
勇者ミーハーならその辺も調べておいてよ。もし、黒髪なら会いに行くにも分かりやすいのに。
その話を聞いていたリュッカがとんでもない情報を言い出す。
「でも確か今年、私達が通う学園に通うはずだよ。勇者の末裔様が……」
「っ!!」
「うん、そういえばそうだね。入試の時に噂になってたし――」
「それ本当!?」
バークはアイシアの両肩をガシッと力強く掴み、問いただす。その反応に驚きつつもアイシアは答える。
「う、うん。確か殿下が通われるから一緒にって……」
「えっ!? 殿下も一緒に!?」
「う、うん。って言うかリリィは知ってるよね? あれだけ噂になってたのに……」
「えっ!?」
思わず顔を引きつらせる。
リリア本人なら知ってただろうが、俺は知らんからな。こういう時は色々不便に感じる。
「そ、そうだったね……あは、あはは……」
誤魔化し笑ってみせた。
だが、何にしても有難い話だ。向こうへ帰る手段がこうも簡単に手に入るかもしれない状況に感謝である。
魂だけ戻る手段は難しいだろうが、やはり知らないよりはいいだろう。
 




