64 ラバ
俺達は黄緑色の草原を抜け、そこから見えた街へと馬車で入っていく。
馬車から見える街の景色は、王都の側の街というだけあってリリアの故郷は勿論、クルーディアとも違う雰囲気を醸し出す。
地面はしっかりと舗装されており、建物もしっかりとした煉瓦造の建物が立ち並ぶ。だが、商業の街というだけあって屋台も並んで、俺達を歓迎するかのような活気のいい賑わいを見せる。
「ほー……」
東京とはまた違う毛色の人混みに圧倒される。馬車に乗っているため避けてはくれるが、明らかに進む速度は遅くなる。この人混みに賑わいにこの遅い速度のせいか、時間の流れが遅く感じる。
向こうでは何かと落ち着かない感じの生活だったので、旅の間もそうだが、時間の流れを楽しむ生き方をした感じだ。じじ臭い気もするが、腰を落ち着けてゆっくりとした時間を送るのも悪くないと、どうしても感じてしまう。
「さて、ラバに着いたがどうするかね? 一晩こっちで休んでいくかい? それともこのままハーメルトまで行くかい?」
現在時刻は午後三時くらい。くらいというのはここから見える時計の針がその形をとっているのと、お昼を食べ終えて、しばらく経っているところから判断できる。
腕時計とかやっぱり欲しいと感じてしまう。こちらも時間の概念はしっかりしてはいるものの、何とも表示のされ方は適当である。
今から王都へ向かっても、日が出ているうちには行けるとのこと。とはいえ、森を抜けたばかりの俺達にはちょっとゆとりが欲しいところ。
顔を見合わせ、相談を行う。
「森を抜けたばかりだし、休んでいった方がいいよね?」
「そうだね。明日、王都へ行けばいいしね」
「入寮手続きとか大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ」
確認を終えると、バトソンに通達する。
「今日はこの街で休みましょう。どこか宿とかありますか?」
「そうだねぇ……知り合いの宿屋にでも聞いてみるか」
「お願いします!」
バトソンは仕事の伝手を利用して、泊まれる場所を提案して馬車を走らせようとするが、何やら冒険者っぽいガタイのいい兄ちゃん達が近寄ってくる。
「おっ! 草刈り冒険者じゃねぇか」
ガシッとアソルに肩を組み、意気揚々と話しかける。どうやらアソル達の知り合いらしい。
「えっと、草刈りというのは?」
「えっ!? だってお前たち、草むしりの依頼ばっかり受けてDランクまでのし上がった有名冒険者だからな! はっはっはっは……」
「ちょっと、やめなさいよ。人それぞれやり方はあるものよ」
「そうだぞ。君達、コイツの言う事は気にしなくていいからな」
「は、ははは……」
知り合いという感じではなく、どうやら少しばかり特殊な意味で有名になったコイツらに話しかけた、もとい茶化しにきたのかな?
「あの、この人達とお話するならお貸ししますけど?」
馬車が進む様子がないので荷馬車から顔を出して呼びかける。すると、俺の姿を見て、金髪のローブ姿の魔法使いさんが驚いた表情でゆっくりと尋ねてくる。
「貴女……もしかして、リンナの子じゃない?」
「!!」
その言葉に先程まで、茶化していた男もアソル達を放り投げてこちらへ来た。
「えっ!? 確かに似ちゃあいるが……」
「リンナさんって昔一緒に冒険者してたっていう?」
「小さい頃にあったきりだからな。でも、この髪色に目元とか……」
四、五人ほどの冒険者達が各々の意見を出し合う中、バトソンがゆっくりと切り出す。
「ああ、あんた達。オルヴェールさんの知り合いかい?」
「……っ! あ、ああ! そうだ。ってことは――」
「察しの通りさ。リンナ・オルヴェールの娘だよ」
あの母親、リンナって名前だったんだ。そんな事を思いながらも、紹介されたので荷馬車の上からとは恐縮ながらも軽くお辞儀をしてご挨拶。
「えっと……リリア・オルヴェールです。よろしく……です」
少し間が空いた空気が流れたが、すぐに歓喜ムードへ突入する。
「おおっ! おおっ! おおっ! こんなに大きく、可愛いくなってなぁ! おい!」
「そうね。あのリンナからどうしてこんな可愛い娘が生まれてくるかな……」
「そうか……お父さんもお母さんも元気にしてるかい?」
「ああ、はい! それはもう……」
母親と近い年齢に感じる三人にずいっと話しかけられる。後ろに二人、若い男の子と女の子がいる。
見た目的には同い年くらいか、ジッと見ている。ただその視線は各々違いがあるが、女の子の方は男の子と交互に見ている。
「ほら! お前ら! 昔、俺達と旅してたリンナの娘さんだ!」
「ど、どうも!」
金髪の剣士の男の子が照れながら、口早に挨拶する。横にいるウェーブのかかった茶髪の女の子。見た目から魔法使いのようだ。ワンドではなく、ロッドを手にしている。
そんな彼女はジトッと照れ顔が隠せていない彼を見るとむくれて小さく俺に挨拶する。
「……どうも」
「は、初めまして……」
気まずくぎこちない挨拶になってしまった。大丈夫だよ! その子取らないから!
「それにしてもこんな偶然もあるもんだな。国に帰ってきてみるもんだぜ」
「そうだね。リリアちゃんはどうしてここに?」
「えっと、この春、王都の学園に通うために来ました。その旅の途中です」
そう言うとガタイのいい兄ちゃんとメガネを掛けた明らかにインテリ的なお兄さんが顔を見合わせると、何かを確認するような視線を送る。
「この後のご予定は?」
「宿探しだねぇ……」
「でしたら、お食事を一緒にとりませんか? 宿探しもお手伝いしますよ」
どうやらつもる話でもしたいのか、はたまた何か別の要因か、誘ってきた。
「リリアちゃん……どうだい?」
「うーん……」
正直、あの反応を見るあたり、母親の知り合いではあるのだろう。くるりと先程から蚊帳の外のリュッカ達へと向くと、任せるよと回答が返ってきた。
「じゃあ是非! おか……じゃなかった、マ――」
あれ? 別にママ呼びじゃなくてもいいか。
「――お母さんの話も聞きたいですし!」
「そうだな! リンナのやんちゃだったときの話、じゃんじゃん話てやるからな!」
「もしリンナにバレたら、はっ倒されるわよ」
「そりゃあ勘弁願いたい……」
笑い声が絶えぬまま、俺達は宿屋探し、食事処へと向かうのだった。
 




