63 どうすることのできない後悔
「じゃあ歪んでいるボクはそろそろ行くよ。香水の効力が消える前にゴブリン狩りだーっ!!」
自分で皮肉交じりに言ってみせるとこの場を離れていく。
「気をつけて下さいね〜」
アイシアが手を振って別れの言葉を言うと、くるっとこちらへ向き、両手を大きく振ってぴょんぴょん跳ねながら答えた。
「ありがと〜!!」
本当にこういう仕草を見ると先程の歪みを感じないが、俺は逆に恐ろしく見えた。あいつには何か黒いモノがあるんじゃないかって。
そう後ろ指を指されつつも俺達もこの場を後にした。
――タイオニア大森林の出口も近いのか、立ち塞がるように立っていた木々も少しずつ隙間を開けているように見えた。
「そろそろ出口かな?」
「そうだね。魔物も少なくなってきたし……」
「何か長かったなぁ……」
疲れた表情を見せて物思いにふける。
彼女の故郷を出て、本当に色んな事があった。
魔物に襲われていたリュッカとアイシアに出会い、初めてこの世界へ来ての新しい町に暖かさを感じつつも新たな出会い。
アソル、ラッセ、クリル、ザーディアスと出会って、人が増えればトラブルも増えるだろうが、正直夜這いは勘弁してほしかった。
その後も森に入っていきなり激走、初めての連携戦闘、騎士との遭遇、巨大ゴーレムの出現、変な男との出会い。
よく森を抜けるだけで色々あったものだと、ふけてはいるものの、まだ王都ではないのだが。
「森を抜けるよ」
バトソンが皆に言って聞かせる。みんな何かしら思うところがあるようで、思い思いに表情を浮かべる。
Dランクパーティの三人は安堵、アイシアは楽しそうに荷馬車から身を乗り出して笑っている。それをリュッカは見守るような視線で微笑む。バトソンは変わらず、ゆったりとした落ち着いた表情だった。
森を抜け、差し込む光は俺達の門出を祝うよう。
広がる黄緑の絨毯が鮮やかに俺達を迎え入れる。そこに一筋の道の先には大きな街が見える。
「あの奥に見えるのは……」
奥の方にホントに小さく見える尖った屋根が視界に入る。
「あれはお城の屋根かな?」
本当に目と鼻の先だった。この景色を見て実感する。
遮っていた木々が消え、馬車が心地よく走っているのが吹き抜ける風から伝わってくる、綺麗な銀髪も軽く靡く。
あんな鬱蒼としていた森の中でもあんなに出会いがあったんだ。もっと色んな出会いが待っているんじゃないかと嫌でも期待が膨らむ。
勿論、いい出会いに悪い出会い、色々あるだろうけど、それが自分の人生を作るものなんだと、ここまでの旅でも思い知らされた。
もし、あのまま社会に流されたまま過ごしていたら、こんなに胸踊ることがあっただろうか。
リリアの行いが正しいとは全く思わないが、何もせず遊んでばかりだった俺にはこの世界はあまりにも刺激的だった。
そんな色んな事を考えさせられる。
……なぁ? リリア。もっとちゃんと見るべきだったんじゃないか? お前が今の俺が歩んでいたリリアとしての人生と全く同じものを進んだら――希望を持ったんじゃないか? 絶望したのか?
「なぁ、リリア……」
一人この世界に投げ出された俺でさえ生きて来れたんだ。
「もう少し勇気を出して、頑張ってみれば良かったじゃないか?」
ポツリと誰の耳にも入らない小さな声で俯き、寂しそうに呟いた――。
 




