プロローグ
「はぁ、はぁ……。こんなところで僕は捕まるわけにはいかないんだ……」
少年は森の中を走っていた。
その顔は必至の形相をしており息も絶え絶えだった。
無理もない、薄暗い森の中を何の明かりも無く走り続けているのだ。
何度も転んだせいで手足には数えきれない擦り傷ができている。
しかし、その痛みも少年の足を止めさせる事は無かった。
あまりにも必死に走っているため痛みを感じるような暇すらなかったのだ。
それほど必死に走っていても、やがて背後から追手の気配が近づいてきているのを少年は感じ取っていた。
相手は大人。それも複数。こういった追跡に慣れている者たちも混じっているのだろう。
手足の傷の痛みは感じないが、心臓がバクバクと鼓動をうち焼けるような熱と痛みを伝えてくる。
こんな痛みに耐えてひたすらに走っているのに、追手の気配はどんどん近づいてくるのだ。
少年の心は今にも絶望に覆われてしまいそうだった。
「ごめん、じいいちゃん、ばあちゃん。ごめんシスタ.....」
口をついて出るのは贖罪の言葉、目からは涙があふれ出していた。
だが、涙でよく見えなくなっていた視界の片隅に何か光るものが映る。
前方、追手の気配がする方向とは逆方向だ。
先回りした追手と考えられなくもないが、そうでない可能性もある。
むしろそうであって欲しいと願う少年は光に向かって最後の気力を振り絞る。
「あそこまで行けば、あそこまで逃げ切れば誰かがっ・・・」
そうして走り続けた少年は森を抜け明かりの元にたどり着いた。
明かりの主は追手ではなかったが助けてくれそうな誰かでもなかった。
「お城―――――――――――?」
そこには古びて今にも崩れそうな城が建っていた。