床の温度
真夜中に目を覚まして尿意を覚えた時、実際に起きてトイレに行くかどうかは悩ましい。差し迫った尿意で目が覚めた場合は迷う余地もないだろうが、もし今が仕事中であればまだトイレには立たないだろう、という程度の場合は判断に迷う。
目を覚まさない日は、我慢しているという意識もないまま朝まで過ごすのだから、我慢出来ないわけではないはずだ。はずなのだが、微妙な尿意はやはり気になる。
おまけに今は秋口という、中途半端な季節だった。掛け布団は必要でも、しっかりかぶると蒸れて暑いため、布団は冬ほどの魔性を帯びていない。床はひんやりしているが、足が凍えるほどでもない。
どうしようか。
私はベッドの中から、ヘッドボード上の携帯電話を見上げた。充電用クレードルに収まり目覚まし時計の代役を務める液晶の表示時刻は、二時四十三分。朝まで我慢をするには少し長いような、そうでもないような、これまた中途半端な数字だ。
ベッドを出ようか出るまいか、悩んでいる内に目が冴えてきてしまった。意識がはっきりしてくると、どうしても膀胱の具合が気に掛かる。真っ暗なこの部屋では、自分の体以外に意識を向ける対象がないからだ。
同居人の寝息でも聞こえれば、また違うのかも知れないが、あいにく伴侶はおろか動物すら飼っていない。携帯電話やテレビの表示で事足りるからと、部屋に時計を置いていないため、秒針の音すらしない。聞こえるのは私自身の呼吸の音だけ。
私は結局、汗で湿った布団を足元に押しやった。じりじりしながら眠くなるのを待つより、一度トイレに行ってスッキリした気分で寝直した方がいいに決まっている。
どうか床が、眠気が飛んでしまうような冷たさになっていませんように。そう祈りながら、ベッドから足を下ろす。
祈りが通じたのか、足裏に生温かいものが触れた。ぐにゃりとした感触。ついでに「うっ」と苦しげな声も聞こえた気がする。
私は速やかに下ろした足を持ち上げ、横になると、布団に包まり直した。
尿意は消え去ったが、同時に眠気も消し飛んでいた。




