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幸運を運ぶ指輪

 黄色い石のついた指輪を買った。

 高価なものではない。怪しげな路上販売の店で、ぱっと見て気に入ったので買ってきた。店のお兄さん曰く「幸運を運ぶアイテムだからね!」、しかし五百円で幸運が呼び込めるとしたら逆に怖いと思うのは私だけだろうか。ちゃちな造りなりに可愛らしく、値段よりはずっと良いもののように見える。

 私は指輪を嵌めた手を太陽に翳した。私の肌の色とファッションに、すんなりと溶け込むアクセサリーが、あんなお店で見付けられるとは思っていなかった。その時点で五百円分の幸運は使い切っている。あとはアクセサリーとしての役割をまっとうしてくれれば十分だ。

 軽い足取りで駅までの道を歩き切った私は、鞄の中にパスケースがないことに気付いて嘆息した。今日の目的地は、通勤用のIC定期券を使い回して行けるはずの場所だったのに。家まで引き返すわけにも行かず、券売機の前の列に並ぶ。

 私のすぐ前に並んでいたのは、外国人の男性だった。彼は路線図と券売機の数字を何度も見比べている。このままだと電車に間に合わない、とやきもきしながら腕時計を覗く私に、彼は振り向いて尋ねた。

「K駅マデは、この切符で行けマスか?」

「ええ、はい。大丈夫ですよ」

 私は内心の苛立ちの上に、精一杯の笑顔を貼り付けて答えた。電車の接近を知らせるアナウンスが流れている。慌しく切符を買い、全速力で構内を走った。

 しかし憎らしいことに、電車のドアは目の前で閉まった。先程の男性が、車窓越しに軽い会釈をする。異国から来た彼の目には、私はどんな風に映っているのだろう。髪が乱れるのも構わず走ってきて、肩で息をしながら電車を見送っている女。

 私はとぼとぼとベンチに向かった。違和感を覚えて足元を見ると、走ったせいかヒールが歪んでいた。もう、踏んだり蹴ったりだわ。パスケースを忘れたのは自業自得だけど。

 田舎の電車は本数が少ない。一本逃せば、次が来るのは二十分後だ。

 携帯電話のゲームアプリで時間を潰していると、隣に腰の曲がった老婆が座った。

「よっこらしょ、歩くと暑い暑い……あなたも汗がすごいわね」

「はぁ、まぁ」

 突然話しかけられて、私は面食らった。仕方なく応じる内、老婆には私と同じ年頃の孫がいること、家族仲が悪くあまり会えないこと等、ものすごくどうでもいい情報を得る。

 つまりこのおばあちゃんは寂しいんだな、と思うと無碍にもしづらい。私は初対面の人との雑談がこの世で二番目に苦手で(一番はゴキブリだ)、話しかけられたこと自体が災難という他はなかった。次の電車はまだだろうか。あと十五分。

 私が待ち焦がれた、電車の接近を知らせるアナウンスが流れると、老婆は残念そうな顔をした。

「久しぶりに楽しかったわぁ、ありがとう」

 こっちは消耗しかしなかったけど……等という本心はおくびにも出さず、私は一礼して立ち上がる。

 ふと目に入った指に向かって、私は内心で毒づいた。何が幸運を運ぶ、だ。あんたまさか、あたしの幸運を他人に運んだんじゃないでしょうね。

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