一ヵ月無料体験とか
レンタルショップで、子供の頃に見ていたアニメのDVDを借りた。
注意書きのテロップの後、部屋に流れ出す懐かしいオープニング曲。
しかし実を言えば、辛うじて覚えていたのは主題歌のサビと、ロボットものだったこと、毎週楽しみに見ていたことだけである。僕は初めてこのアニメを見た頃の自分に戻ったような気分で、わくわくと画面を見つめた。
子供の頃とはいえ、昔の自分が夢中になった作品だけあって、台詞回しや展開はとても僕好みだ。どうやらその辺の感性というのは、成長してもあまり変わらないものらしい。
一方で主人公の少年たちを見守る親や教師といったキャラクターに感情移入出来るようになったことが、僕の上に流れた月日の長さを感じさせた。物語は子供向けに分かりやすいつくりなのだが、大人だからこそ考えさせられるような要素も散りばめられている。
酒とつまみの補充も忘れて、夢中でディスクを回し続け、気付けばカーテンの向こうの空が白み始めていた。三十分番組で、一回ごとに「第○話」とサブタイトルを読み上げてくれるにも関わらず、時間の感覚が完全になくなっていた。
これはまずい、と慌てて立ち上がりカーテンを開ける。
「わ、眩しっ」
僕の背後で悲鳴が上がった。
「突然開けるなよ、もー」
「あ、あぁ、ごめん?」
反射的に謝りながらも、僕はそちらを振り返ることが出来なかった。
僕は身軽な一人暮らしだ。友達なんかを呼んだ覚えもない。だからこそ誰にも遠慮せず、夜通しぶっ続けでDVDを見ていたりなんかするわけで。
「じゃあ俺帰るわ。あとお前さー、今時レンタルなんかしなくても、安い配信サービスあるだろ。そっち契約したらまた呼んでくれよ、俺も続き見たいから」
「お、おぅ」
呼ぶって誰を? どうやって? そして配信サービスって色々あり過ぎて俺にはよく分からんのだが、どれがオススメ?
もう大体何もかもが気になる。しかし尋ねる勇気はない。僕は腰に手を当て、仁王立ちに空を睨み続ける。
ずるずると何かを引きずるような音がして、玄関に続く扉が開けられ、パタンと閉まった。音は更に遠く、玄関を通って共有の廊下へと出てゆく。早朝だから誰とも出くわしたりはしないだろう、と思いたい、一体何が出て行ったのかは分からないが。
部屋にはまだ、アニメの明るい主題歌が流れている。窓の外の晴れ渡った青空、涼しげな色に輝く太陽が、徹夜明けの目に沁みた。