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(9)感慨として、確かな質量を含んで
「私はずっと貴方を避けていたの。あの日、貴方があの場所に現れるなんて思ってもいなかった。ああ、始まってしまう、そう思ったのよ。そして今、貴方は私の前にいる。もう、どうしようもないの。これはいずれ始まるべきことだったのよ。」
始まる?何が?そもそも最初の疑問を解決出来ていない。君は一体誰なんだ?どうしてあの記憶のことを知っているのだ。
「貴方はこれからその記憶を育んでいかなければならないの。それは命を冷たい現実に繋ぎとめておくために必要なことなのよ。私はそれを手伝うの。これは初めから決まっていたことなのよ。」
彼女は本当に真っ直ぐに、僕を見ていた。
とても悲しそうに。
その真っ直ぐさ故か、僕は自分の疑問を解消することがとても悪いことのように感じていた。
そして彼女と一緒に、僕はこれからどこかへ向かって行かなければならないのだと、感慨として、確かな質量を含んで、決心すらしていた。
僕は大人にならなければならなかった。