(7)ミヒロ
ミヒロとの出会いはちょっと変わっていた。
中学二年生の九月の終わり頃、十四歳の九月の終わりがどういった時期なのか今では全く見当もつかないけれど、そこそこラフな人生を歩んでいたと思う。
僕らの世界はとても小さく、でこぼことしていた。
しかし、何か訳の分からない強大な力が僕らを平坦にしようとしていて、笑い声も泣き声も、不平不満も感嘆も絶望も、みんな同じ程度に制御しようとしていた。
そのことに危機感を持っていたのがミヒロだったと思う。
少なくとも僕にはそう映っていた。
彼女はいつも一人だった。
僕は曖昧な記憶の世界に怯えながらも、割と友達も多かったし、その輪の中で違和感なく過ごせていた。
その日、僕は猛烈にお腹が痛くなっていた。
小学生の頃とは違い、学校のトイレで大をすること自体は問題なかったんだけれど、たまたまその時は次の授業の体育の前で、トイレは男子生徒が入れ替わり立ち替わり出入りしていた。
完全無欠にピンチだった。
その状況が僕に訳の分からない判断をさせた。
なにを血迷ったのか、僕は女子トイレに入ろうと意を決したのだ。
人の気配はなかった。
そーっと覗き込む僕は完全に変態だったが、もう意思は固まっていた。
駆け足で個室に入ると、僕は内臓の全てを吐き出すようにそこからそれを解き放った。
もう一度言うが、人の気配はなかった。
はずだった。
全てを終え、完全復活した僕は意気揚々と体育の授業に向かうべく個室の扉を開けた。
そこに、ミヒロがいた。
あぁ、終わった。
時折襲う曖昧な記憶の世界どころか、僕は永遠に日向を歩けなくなってしまうのだ。
そして、残りの人生を変態下痢便野郎として生きていくのだ。
でもミヒロは僕をちらっと見ただけで、何かを避けるようにトイレを後にした。
ギョッとするとか、奇声をあげるとか、想定された全てのリアクションは影を潜め、冷たいトイレの空気に薄まって消えていった。
僕は無事に体育の授業に参加したし、その後も変態下痢便野郎と呼ばれることもないまま一週間が過ぎていった。
その不思議な出来事をキッカケに、僕はミヒロを目で追うようになった。