(5)そして、僕は中学生になる
小学生になった僕は、手先の器用さを武器に女子の注目を集めるという姑息な手段が災いし、一時期クラスの男子全員からシカトされるという恐るべき事態に直面していた。
小突かれたり、上履きを隠されたりという目立ったいじめはなかったものの、やはりシカトをされているという事実は小学生にとって致命的である。
でも家族の誰にも言えなかった。
言えばもっと酷い仕打ちになって帰ってくるんじゃないかっていう不安の方が、このまま我慢してやり過ごす辛さを大きく上回っていた、
それでも、やっぱり、兄ちゃんにはわかってしまう。
兄ちゃんは当時うちの裏手にある山間に住んでいた宏樹君と、学校近くの貯水槽のすぐ脇に住んでた剛君と一緒によく遊んでいた。
宏樹君は兄ちゃんよりも少し背が低かったけれど、剛君は小学校五年生にして170cmくらいの身長で誰もがギョッとするようなサイズだった。
それでも二人の兄ちゃんに対する信頼は絶大で、弟の僕もその恩恵を受けていた。
真正面から弟をいじめるな、をやってしまうとその後のクラスでうまくやっていけないと考えてくれたんだと思う。
当時は大抵上の学年に兄弟がいるような世代だったから、兄ちゃん達は五、六年生のクラスを渡り歩いて弟をシカトしないように言って回ってくれたみたいだった。
だから僕のシカトはいっぺんに無くなるんじゃなくて、二学期の途中から終わりくらいまでの間にじわじわと、自然に無くなっていった。
元々そんなに暗い性格をしていたわけでもなく、むしろいじられて伸びるようなタイプの少年だったので、クラスのみんなが兄ちゃんきっかけで僕をかまってくれるようになった。
つくづく、僕は兄ちゃんに護られていたし、護られることをとても強く望んでいた。
そして、僕は中学生になる。
出会いと別れがたっぷりと詰まった中学校生活は、僕にとって最後の現実世界だった。