(3)トンネルと砂時計
ある日、僕を迎えにきた兄ちゃんと玲子ちゃんが砂場で対峙することになった。
理由はよく覚えていないけれど、兄ちゃんが普段来る時間よりも少し早くに僕を迎えに来たからだったと思う。
とてつもなくまずいことが起きそうな予感がした。
どちらも純粋過ぎた。
さしずめ本場所千秋楽、無敗の千代の富士と若かりし頃の貴花田のように、二人とも真っ直ぐお互いを見つめあって長い間何も言わなかった。
玲子ちゃんの右手には砂が握り締められていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
僕は兄ちゃんの足元でずっとドキドキしていた。
やがて、兄ちゃんが口を開いた。
「守ってんのか。」
玲子ちゃんは最初少しビクッとなって、それから泣きそうな顔になり、やがて握っていた砂がこれまでの時間を溶かすように右手からゆっくりと溢れていった。
砂時計の砂はきっとあれくらい穏やかに、確実に、平等に落ちていくんだろうな。
やがて、玲子ちゃんは兄ちゃんの問いかけに小さく頷いた。
「そか。でもここじゃなくて、きっと別の場所の方がいいよ!」
兄ちゃんは初めからわかっていたように、友達を正確に掘り起こした。
そしてそっと両手で包むように抱き上げて、ドーナツ公園の端っこにあった小山のてっぺんに埋め直してあげた。
その小山には、夕暮れ時になるとすぐ隣の高いフェンスに囲まれたため池が陽の光を反射して、パラパラと光の筋をあてる。
夕陽を背にして小山を見れば砂粒が夕陽に呼応するように反射して光り、ほんの数分だけれどそこだけが世界の特別みたいにぼわんと浮かび上がる。
兄ちゃんはその小山のてっぺんに玲子ちゃんの友達を埋めてあげた。
玲子ちゃんはとても感慨深そうに兄ちゃんを見上げて、そして少しだけ僕の方を見た。
ため池が反射した陽の光が映り込んで、玲子ちゃんの目はキラキラしていた。
玲子ちゃんの目が放つそれは、真っ直ぐ僕の目の中にも入り込んできて、僕の体の奥をじーんと温かくした。
僕は兄ちゃんをとても誇らしく思ったし、玲子ちゃんをとても綺麗だなと思った。
兄ちゃんと僕と玲子ちゃんは、そのまま三人手を繋いで家まで帰った。
それから玲子ちゃんはうちによく遊びに来るようになった。
よく笑うようになったし、時折小首をかしげてふざけたりする仕草も見せてくれた。
なにより、砂をかけなくなった!
おかげで僕らは一緒に砂山を作れるようになったし、トンネルを開通させて手が触れ合うあの感動を味わうことができた。
でも、何故兄ちゃんはねずみの死骸が埋められているとわかったのだろう。
「あの子は仲間だ。」
兄ちゃんが僕に教えてくれたことといえばそれだけだった。
僕は仲間の意味がわからなかったけれど、きっと友達という意味なんだろうなと思った。
兎にも角にも、僕は兄ちゃんに護られながら五歳までのふわふわした時期をそのジャイアン住宅とドーナツ公園で過ごした。