(12)音を無くした声
僕の記憶は中学生の最後の四月で止まっている。
順を追って説明したいけれどうまくできない。
交通事故だった。ミヒロは僕の妹だった。即タヒだった。手を繋いだまま、ミヒロは動かなくなった。
僕の体も動かない。
手や足には沢山の管が繋がれている。
そして無機質な人工呼吸器の音と、寸分の狂いもなく繰り返す脳波の波形。
僕の全身の筋肉はどうにかなっちまったらしい。
頭を動かせない。
目だって閉じられない。
目を閉じられないのに、夢ばかり見ていた。
そして、いつしか僕は夢の中を泳ぎだした。
四月まで行くと、そこにはすごろくの【ふりだしへ戻る】みたいな看板が出てきて、僕はまたジャイアン住宅とキラキラのねずみ丘の頃へ戻っていった。
僕にとって世界は夢の中で、夢の中が僕の現実だった。
そして、その淡い夢に蓋をした。
本当の現実は曖昧な記憶となった。
兄ちゃんは夢の中にだけ生きていた。
ミヒロは僕をそこから連れ出した。
僕を本当の現実世界に繋ぎ止めるために。
僕には兄ちゃんはいない。
はじめからいないんだ。
僕はいわゆる寝たきり状態で、この文章は頭の中で書いている。
君たちは僕の頭の中を読んでいる。
あれからどれくらい時間が経ったんだろう。
僕は兄ちゃんになりたかった。
優しくて、真っ直ぐで、前だけ見て空を翔けてく兄ちゃんになりたかった。
兄ちゃんになって、僕をここから連れ出したかった。ミヒロを助けたかった。
僕の夢は終わった。
今、ミヒロが繋いだ僕の命は無数の管で繋がっている。
僕は大人にならなければならない。
遠くでミヒロの声がする。
音を無くした声で叫んでいる。
僕は大人にならなければならない。




