(1)駆け抜ける空と見上げる空
10代男子の憧れと落胆、そして現実。読んでくれた人にうまく伝わるといいなと思います。
「予め用意された飛行機に乗って行くよりさ、『あ、気球だ!飛び乗ったろ!』で行く方がドキドキするだろ!」兄ちゃんはいつもこんなことを言っていた。
弟の僕はというと、そんな兄のようにならないでほしいという両親からの過大な期待を一身に背負って生きてきた。
正直、兄ちゃんが羨ましかった。
兄ちゃんはいつだって空に【自由】の絵を描く。
そして描いた絵のこともすっかり忘れて、飛び乗った気球から地上を見下ろす。
遠く離れてく地面に無我夢中になり、小さくなってく家々や田畑を眺めてはしゃいでいる。
おい空の絵はどうした、というこちらの苦情もまるで受け付けない。
受け付けないというより、届かないと言ったほうが正しいかも知れないけれど。
とにかく、自由なのだ。
鳥に生まれながらにして翼があるように、兄ちゃんは翼に代わる何かを持って生まれてきたのだろうと思う。
さぁ羽ばたくぞなんて力を込めなくたって、そのうちピューっとトンビみたいに飛んで行く。
僕はいつだって両親のせいにしてきたけれど、冴えない人生の原因は僕が【自由】の描き方がわからないからだって本当は気づいてる。
そしてそれを悲観する勇気もなく、乗り越える気概もなく、ただただ何だかわからない流れに押されてここまできてしまったことも。
誰にだって一つや二つ、駆け抜けたい空があるはずなのに、その空を見上げるだけしかできない僕は、地上を見下ろす兄ちゃんをその他大勢と一緒に羨望の思いで見上げることしかできなかった。
僕は兄ちゃんを望みすぎて、望みすぎて、あまりにも望みすぎたから、大人になり切れず、失う怖さに蓋をした。
やれやれだ。