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初めての魔法

王宮から少し離れた所に騎士団隊員はあった。

王宮と比べて質素ではあるが、それでも綺麗な建物だ。

隊員には結界が張られており、認識されている人以外は入れなくなっているらしい。

先に戻っていたイヴァンとベガが合流した。


「取ってくるものがあるから3人はここで待っていて頂戴」


そう言い残してクロードは隊舎へ入って行った。


「イヴァン、ベガ、何かさっきから凄く見られている気がするのだけれど…」

「仕方が無いよ、皆女性があまり好きでは無いし、僕等が女性と居るのも珍しいからね。それにここには女性はほぼ来ない」


隊舎の外に居た隊員達はさっきから物珍しそうに皐月達を見ていた。

自意識過剰では無かったようだ。


「ほぼってことは少しは来るの?」


皐月の問い掛けに苦虫を噛み潰した様な表情になる2人。

何かまずいことを聞いてしまったかと思い、首を傾げる。


「第五騎士団に女性騎士が居るんだけど…その人達がたまに…」


モゴモゴと口籠りながらベガが答える。

2人の様子を見るとあまり良い方達では無さそうだ。

イヴァンは遠い目をしている。


「色々あったみたいね。その人達は私がここに居るの気に入らないかな?」

「それはあるかもね、でも大丈夫だよ。1人で行動して無ければちょっかいも掛けてこないだろうし」


つまり1人で行動していたらちょっかいを掛けられるということか。

少し気が重くなり、溜息をつく。

その様子を見ていたイヴァンは少し考えてから皐月に声を掛けた。


「皐月は魔法が使えるか?」

「使えるみたいだけど使ったことは無いよ」

「少し手を出してくれ」


言われるがまま手を出す。

イヴァンはその手を取り、何かを始めた。


「暖かい…これ何?」


イヴァンの手から何かが入って来て身体がポカポカする。


「魔力だ。感覚は何となく分かるか?」

「うん、これを動かせば魔法が使えるの?」

「ああ、どんな魔法を使うかイメージしてみると良い。自分の属性もあるから全部ができる訳ではないが」


(自分の属性…身を守るなら氷?)


今後誰かが襲ってきた時、自分で自分を守らなければならない。

常に誰かが守ってくれる訳ではないので必要最低限は出来るようになって起きたいと思っている。

二人から少し離れ、魔法のイメージを行う。


(氷で守るなら氷の壁…かな)


さっきの感覚で身体の中の魔力を巡らせる。

キンッと音が鳴り、目の前に氷の壁ができた。

それは2m程の高さがあり、周囲に冷気を漂わせている。


「う、わぁ…凄いね…」

「初めてなのに魔力の制御が上手い。これは良いな、身を守れる」


2人は感嘆の声を漏らす。

そこへ隊舎へ行っていたクロードが戻って来た。


「まあまあ!これ皐月の?凄く綺麗ねぇ」


クロードは離れたところに居た隊員から戦闘用の剣を貰い、振りかぶって氷の壁を切り付ける。

当たった瞬間、剣が折れる。


「魔力の質が恐ろしく高いわ…本当戦闘向きねぇ」


魔力量を多くすれば魔法の威力は上がり、魔力の質が良ければ少ない魔力量でも高い威力になるらしい。

魔力の質は大切で、火であれば温度が変えられ、氷であれば硬さが変わる。

剣を折るくらい硬ければ相当な魔力の質らしい。


「これでいつ何時襲い掛かられても自己防衛は出来ますからお姉様達も安心してください!」

「そうね…守れる力があるのはいい事だわ。但し、無理はしない事を約束して頂戴。危なくなったら逃げる!いいわね?」

「もちろんです。敵前逃亡は趣味ではありませんが、無理な事はしません」


イヴァンとベガはウンウンと頷いている。

皐月は撤退も1つの策だと思っている。

無理をして怪我をしたり死んでしまっては意味が無い。

逃げるが勝ちという言葉もあるし、その辺りにかけるプライドなど有りはしない。


「潔いわね…あ、そうだわ。これに血を1滴垂らしてもらえる?」


クロードが取り出したのは手の平サイズの透明な水晶玉だった。

ベガにナイフを借りて人差し指の先を少し切る。

プクッと浮き上がってきた血を水晶玉に垂らす。

血は水晶玉に吸い込まれるようにして消えた。

次の瞬間水晶玉が眩い光を放ち、徐々に消えて行く。


「なあにこれ?こんな光初めて見るのだけれど…」

「聖女だから結界にも歓迎されているのかもしれませんね」


クロードが手元にある水晶玉をジッと見つめ、ベガが皐月を見てニッコリ笑う。


「んー……分からないわ。まあ認証は出来たでしょうから行きましょう。そろそろお昼ね、先に食堂へ行ってて。私もこれ置いたら直ぐ行くわ」


そう言ってクロードは水晶玉をひらひらと揺らした。

イヴァンとベガに連れられ食堂へ向かう。

そこはとても広く、賑わっていた。

女性は王宮にある食堂を利用することになっているので、ここは男性専用だ。

皐月は女性だが王宮の食堂だと絡まれる可能性が高いらしく、こっちを利用するようにと言われた。

席に着いた時、ちょうどクロードが戻って来た。

皐月の向かい側に座り、イヴァンとベガが入れ替わる様に食事を取りに行った。


「むさ苦しいかもだけど我慢してね、安全の為でもあるから」

「大丈夫です。家族の中には似たような人達が居たので慣れてます」

「そう、良かったわ。ここの食事なのだけれど、運動した後に食べる事を考えて味が濃いのよね。無理そうだったら言って頂戴」

「はい」


イヴァンとベガが戻って来て、テーブルにご飯を置き、席に着く。

味が濃い以前に量が尋常じゃない。

特に皐月の前に置かれた物は他の物と比べて明らかに多い。

サラダとスープは丼に入っているし、丸パンなんて皐月の顔の大きさの物が3つだ。

大きめの鶏肉を焼いた物も2つ乗せてある。


「親父が皐月を見つけて聞いてきたんだ。小さくて細いからちゃんと食べてないんじゃ無いかって言ってこれだ。無理なら言えば俺等が食べる」


2人の視線を辿ると他の隊員にご飯を配りながらチラチラと皐月の様子を伺っている赤銅色のおじ様が居た。

皐月の視線に気が付き、パッと花が咲いたような顔で嬉しそうに笑う。

何とも可愛らしいおじ様だった。


「全くデルタは…あれは皐月の事が気に入ったみたいね」


溜息をつきながら呆れたようにおじ様、もといデルタを見た。


「食べられる自信はありませんがご厚意は無下に出来ないので限界まで頑張ります。イヴァンもベガもご飯持ってきてくれてありがとう」

「気にしないでいいよ。さあ、食べよう」


3人はご飯を食べ始める。

皐月は手を合わせて『いただきます』と言う。


「皐月、それ何?」


皐月の様子をベガが見ており、疑問を口にした。


「人って動物とか植物の命を奪って生きてるでしょ?だから命をいただきますねってやるの。私は元の世界で自分で動物狩ったりしてたから特に有り難いなって思うんだ」


目の前で消えて行く命を何度も見た。

初めは悲しかったが、数を重ねる毎に割り切ることが出来た。


「そうなんだ、じゃあ僕もやるよ」

「そこまで考えた事なかったけど、そう言われると納得するわね。私もやるわ」

「俺もやろう」


3人は手を合わせ『いただきます』と言った。

強制するつもりは無いが自主的にやるなら良いと思う。

皐月もナイフとフォークを手に取り食べ始める。

鶏肉を一口サイズに切り、口に入れた。


「おおう、濃いね。でもお肉柔らかい」


もっとパサパサかと思っていたが、丁度良い焼き加減で皮がカリッとしている。

全体的量の半分程食べた所で限界を感じた。

隣に座っているベガの服をツンツンと引っ張る。


「どうした?お腹いっぱい?」

「女性が食べる量じゃなかったからね、よく食べた方よ」

「無理はするなよ、無理して吐いたら元も子もないからな」


3人の言葉に皐月はコクコクと頷く。

残った物は3人が食べ、皐月は悔しそうに呻く。


「ゔぅ、いつか絶対食べれるようになる…」


皐月の決意に3人は笑った。

食器を片付ける為にデルタの所へ行く。

イヴァンとベガは持って来てくれたから今度は皐月がが片付けると言ったが2人は頑として譲らなかった。

結局自分の使ったパンのお皿しか持たせてもらえずトボトボ歩く。


「デルタさん、ご馳走様でした」


ちょうど手の空いていたデルタにお皿を差し出すと彼は嬉しそうにお皿を受け取った。


「お粗末様でした。また来てくださいね!お待ちしてますので!」

「デルタ、今度からは食べ切れる量にしてあげなさい。皐月はこれが標準サイズだから心配しなくていいわ。食べ切れないと悔しくて呻くのよ」

「そうでしたか!それはすみませんでした。次からは気を付けますね」


皐月はしょんぼりしているデルタの後ろ、つまり厨房を覗く。

人が少なめだ。


(料理スキルもあるし、私ここで働けるのでは?)


デルタに向き直る。

デルタは身を固くし、イヴァンとベガは不思議そうな顔をしている。

クロードに関しては皐月の考えている事が分かってしまったようで呆れた顔をしていた。


「私、ここで働かせてもらえませんか?」

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