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優しい保護者

日本にいた頃はごく普通の大学生だった。

特別神様を信仰していた訳ではない。

それなのに突然聖女様と言われても訳が分からないのだ。


「私、八重樫 皐月です。先程言っていた【聖女様】について聞いてもいいですか?」


女性達は申し訳無さそうな顔をした。


「私ったら自己紹介もせずに…大変失礼致しました。侍女長のサラと申します」

「侍女のアリアと申します」


サラとアリアは自己紹介をして、恭しくお辞儀をした。

2人ともヘーゼルブラウンの髪と瞳をしており、どことなく容姿が似ている。

サラは40代くらいで長い髪を肩から三つ編みにして流している。

アリアは20代後半くらいでサラほどではないが、長い髪を高い位置に結んでいる。

所謂ポニーテールだ。


「聖女様がこの国でどの様な存在であるかをご説明する事は可能ですが、現在皐月様が此方にいらっしゃる理由につきましては私の口からはお話ができないのでございます」


サラはとアリアは皐月がこちらに来てから全てのお世話をしているのだか、どのような経緯で来たのかは知らないそうだ。

知らないものは仕方がないと割り切り、聖女とは何なのかを聞く。


「瘴気を払う能力を持つ女性が聖女様とされています。瘴気が濃くなればなるほど発生する魔物が増え、1個体ずつが強くなり、非常に凶暴になります。基本的に魔物は森に発生する事が分かっております。この王宮の周囲7割ほどは森に囲まれておりますが、比較的魔物の出現が少ない道がございます。しかしここ最近の瘴気の濃さは尋常では無く、その道も安全とは言えないのです」

「道に魔物が出てくるという事は魔物は森を出られるんですね。森の外側に街とか無いんですか?もしあるなら危険なのでは…」

「皐月様の仰る通り、森の外側に大きな街がございます。一応魔物除けの結界が張ってあるのですが、あくまでも弱い魔物に効果があるものですので強い魔物にはあまり期待は出来ません。定期的に騎士団が森へ討伐に行っていますがそれも追い付いていないのが現状でございます」


どんよりと重たい空気が漂う。

瘴気が濃くなっているということは魔物が強くなっているという事。

強くなって街の方に行ってしまったら大きな被害が出てしまう。

どんどん悪い方向へ考えてしまい、あまり事情を知らない皐月も落ち込んでいく。


コンコンとノックが聞こえ、1人の男性が室内へ入って来た。


「あら、目が覚めたのね、おはよう。ん?まだネグリジェのままなのね。こちらへいらっしゃいな、やってあげるわぁ」


どうやらお姉様だった様だ。

オリーブグリーンの長い髪は後ろで纏めており、髪と同じ色の瞳で皐月を見つめる。

柔らかく微笑み、白く細い指で手招きをする。

どことなくこの男性に母性を感じた皐月は素直に近寄る。

先程までの重たい空気は何処かへ行き、サラとアリアも動き出した。

男性に近付くと椅子へ座るように促される。


「初めまして、私はクロード・ウィズダムよ。よろしくねぇ」

「八重樫 皐月です。よろしくお願いします」


クロードは皐月を見ながら不思議そうな顔をする。


「女性に年齢を聞くのは失礼だと思うのだけど…皐月は何歳なのかしら?見た感じだと15、6って感じがするのよね」


童顔なのは何となく自分でも気付いていた。

身長が低いのも理解している。

身長も顔も遺伝なのだろうが、父親では無く、母親に似ていることが幼さの原因だろう。

皐月の父親は190cmの巨人でイケメンだ。

父家系は大変アグレッシブで、最初は父親だけがおかしいのだと思っていたが、祖父母も叔父も叔母もおかしかった。

当時10歳だった皐月を当然の様に無人島へ連れて行き、サバイバル生活をさせたのだ。

魚を穫ったり、食べられる草を探したり、時には動物の捕獲や解体などもさせた。

とんでもなく野性的だと思う。

母親は149cmと小柄で非常に愛らしく、幼い顔をしている。

母家系は基本的におっとりしている。

ただ、美容と料理の事になるとおっとりしているが非常に強い。

特に美への執念が半端じゃなく、アンチエイジングだなんだと皐月も同様にやられていた。

それもあってか幼い容姿を保っている。

そんな変わり者達に囲まれて育ったので皐月本人も図太い神経の持ち主だった。

年齢を聞かれるのはよくある事で皐月は失礼とも思っていない。

バスなどで子供料金を提示されるのはしょっちゅうだったし。

だからクロードが何を申し訳無さそうにしているのがあまり理解出来ていない。


「あまり気にしないで下さい。スリーサイズを聞かれたら多少引きますが、年齢くらい失礼とも思いませんので。これでも一応20歳なんです、見えないかも知れませんが…」


クロードは驚いた顔をしたが直ぐに笑顔になった。


「そうだったのね、私は26歳よ。というか、いきなりスリーサイズ聞く不躾者は居ないと思うわぁ、居たらグーパンチね」


困った様に肩を竦めフフッと笑う。

一つ一つの動作がとても優雅だ。

サラが1着のドレスを持ってこちらへやって来る。 


「皐月様は小柄で細身ですので合うドレスがあまり無いのですが、此方でしたら入るかも知れません」

「そうね、また後日新しいドレスを仕立てましょう。今日はとりあえずこれを着ましょうか」


見せられたのは濃紺のレースなどが付いていないとてもシンプルなドレスだった。


「綺麗ですね」


ゴテゴテした服が苦手な皐月はとても気に入った。

ピンク等の可愛らしい色が嫌いな訳ではないが、皐月の好みではないのだ。

その様子を見ていたクロードは少しだけ安心した。


「気に入ったようね。本当にごめんなさい。私達の都合で此方に呼び出してしまって…皐月がもし良ければこれから別室へ行って事情を説明させて欲しいの。この国の事、これからの皐月の生活などね。勝手な事だとは思うけれど…」


突然知らない土地に呼び出した事への罪悪感があるのか沈痛な面持ちで告げる。

確かに都合のいい話かも知れない。

しかし皐月は特に気にしていなかった。


「クロードさん、そんなに気にしないで下さい。そうしなければならない理由があったのでしょう?だったら仕方がないですよ。家族に会えないことは多少辛いですが、大丈夫です」

「皐月…ありがとう。貴方の愛している本当の家族にはなれないけれど、同じくらい貴方に愛情を注ぐわ。母でも父でも姉でも兄でもなるわよ」


クロードなりに出来る事を探しているようだ。

その優しさに皐月は嬉しくなる。

この人は味方で居てくれるのだと思えた。


「保護者になってくれるんですね!時と場合によってお兄様とかお姉様とか呼べますね」

「ええ、どちらでも歓迎よ。それと、私の事はクロウでいいわ。殆どの人がそう呼ぶから」

「分かりました、クロウお姉様!それではお話を聞くために準備をしましょう!」


サラにドレスを借り、その場で着替えを始める。


「ちょ、ちょっと待って!私一応男よ?なのにここで着替えるの?」


クロウが慌てて止める。

言動や見た目的にも皐月の中で女性イメージが強かったが性別としては男性なわけで。

止められた皐月も思い出した様に反応する。

しかし家族の前では平気で着替えをする皐月なので家族枠に押し込んだクロードに対して羞恥心は特に無い。

例え彼がイケメンだろうとも。


「そう言えばお姉様は男性でしたね。でもまあ家族枠に入っているので問題はありません!」

「確かにそうなのだけれど……まあいいわぁ、あっち向いてるからその間に着替えて頂戴な。終わったら言って、顔や髪はやってあげるから」


あまり納得出来ていないようだった。

『信頼されてるのか無防備なのか…』とクロードは独り言を呟くが誰の耳も届いていなかった。

着替えて椅子に座りじっとしているとどんどん準備が進んで行く。


「綺麗な髪ね、黒色なんて珍しいわ。目の色も両方違うし」

「前は両方黒かったんですよ」

「そうだったのね。この国は魔力の保有量で色が変わるのよ。基本的には貴族や王族から魔力持ちが生まれるから平民の魔力持ちはほとんど居ないの。もし居た場合は王宮や貴族の家に行く事になっているのよ」

「なるほど、魔力の無い人は何色なんですか?」

「鳶色よ」

「鳶色…と言うことはクロウお姉様もサラさんもアリアさんも魔力持ちなんですね」


侍女が魔力を持つ必要があるのかは分からないが、王宮や貴族の人達が欲しがるって事は便利なのだろう。


「そうね、私は兎も角、侍女達はいざと言う時主を守らなければならないから無いと困るのよ」


いざと言う時、と言うのは襲撃された時とかだろう。

平和な日本で暮らしていた皐月としては想像が出来ない。

実を言うと魔物とか瘴気とか訳の分からないこともほとんど理解できていないから、何となくで受け流していた。


「さあ、準備が出来たわ。行きましょうか。エスコートしますわ。皐月、お手をどうぞ」


急に男性らしい雰囲気に変わり目を丸くする。

1人で歩けるのに手を取る必要があるのか悩むが、ここはきっとそう言う文化があるのだと思う。


「よろしくお願いいたしますわ、クロウお兄様」


クロードの手を取り、目的の場所へ歩き出した。

このとき皐月はまだ知らなかった。

自分の能力のことも、王宮にいる厄介な人物達の事も。

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