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ロールチェンジ

「くっそ! また負けかよ!」


 俺は舌打ちをしてコントローラーを叩きつけた。


 ロールプレイングゲームのボスがどうしても倒せない。


 レベル上げもやった。

 戦略も練った。

 しかしそれでも勝つことのできない鬼畜ゲー。


 攻略サイトをみても無駄だった。俺に足りてないのは操作技術。いくら情報を仕入れたところで、ゲーム内で要求されるシビアな動きについていけないのだ。


 根気強くリベンジするが結果は同じ。


 俺は頭を掻きむしってベランダへと出る。

 一息つけば何か好転するかもしれない。そんな希望を抱いてから、これは何度目の一息なのだろうか。


 なぜ楽しいはずのゲームで、こんなにムシャクシャしなくちゃならないんだ。


 身体の奥から怒りが無限に湧き上がってくるようだった。

 自身の未熟なテクニックに大してじゃない。

 俺の言うことを聞かない操作キャラに対してだった。


 あいつはダメだ。ちっとも言うことを聞きやしない。

 攻撃ものろまだし、確かに回避行動をとったのにも関わらず敵に突っ込んでいくし、意図したのとは違うアイテムを使ったりする。


 苛立ちが収まらないまま、俺は再びゲーム画面へと向き直る。


「チッ……俺だったらもっとうまくやってるのに」


 ぼそりと呟いたその時。


『本当かい?』


 どこからともなく声が聞こえた。

 空耳かと思いつつも周囲を見渡すが誰もいない。元々一人暮らしのマンションだ。いるはずがない。

 隣に住んでる住人の声だろうか。


『本当に君ならこのボスが倒せるって言うのかい?』


 また声がした。

 聞き違いではない。ボスというのは、今俺が挑んでいる確実に俺へと向けられたメッセージ。

 

「誰だ、お前は」


 若干上ずった声で尋ねる。しばらくゲームにかかりきりで久しぶりにしゃべったからだ。

 謎の声は高らかに笑った。俺を嘲笑うように。


『それは君が一番よく知っているだろう? なんせボクをキャラメイクしたのは君なんだから』


 なんだ、一体なにを言っているんだこいつは。

 キャラメイク……まさかこいつは……!

 俺がコントローラーで操っていたはずのキャラの顔がぐるりと回り目が合った。濃い隈のできた憔悴しきった表情。しかしその口元は不気味に歪んでいる。


「なっ……こいつ勝手に動いて……?」

『ボクよりうまくやれるんだろう? だったらやってもらおうじゃないか!』


 次の瞬間。俺の目の前にはおぞましい三つ首のドラゴンがいた。

 今にも喰らいついてきそうな鋭い牙の隙間から、溢れんばかりのよだれがしたたり落ちている。

 突然の出来事に頭がついていかず、とにかく逃げなければとドラゴンに背を向けようとした。


 しかし身体が動かせない。

 まるで身体の神経をすべて遮断されたかのように俺の意思をまったく受けつけなかった。


 なんだよ……なんだよこれっ!?


 頭を抱えたくなったが、それすら行うことが出来ない。

 動揺を更に加速させるかのように身体中に電流のようなものが流れる。それは一つの命令信号だった。


 あの三つ首のドラゴンと戦えと。


 俺は全力で拒否しようとした。

 しかし気持ちとは裏腹に、俺の足はドラゴンの方へと歩み始める。


『い、行っちゃダメだ! あんな化け物に勝てるわけがない……!』


「あれぇ? おかしいなあ。君なら勝てるんでしょ? ほら、前進前進! 当たって砕けろ!」


『お、お前は……!』


 再び聞こえてくる謎の声。

 それは脳内に直接響いてくるようだった。

 何もしていないはずなのに、俺は謎の声に従って前へ前へと進んでしまう。


 そうか。そういうことか。

 今、わかった。

 あの三つ首のドラゴンは俺がどうしても倒せなかったボス。



 俺はゲームのキャラと入れ替わってしまったらしい。

 しかし今更気づいたところでもう遅い。



 三つ首のドラゴンに右腕、左わき腹、そして頭を喰われて死んだ。

 俺は身をもって死の苦しみを知った。

 だが、それは地獄のほんの始まりに過ぎなかったのだ。



 ゲームオーバーとなった画面に文字が表示される。



【コンティニューしますか?】



はい




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