2 動かない体での目覚め
白い。
目を開けているのか閉じているのか、それすらも自分ではわからないが、目の前に広がる色は感じることができる。
眠っていたのか、それともただただ目を開けていただけなのか、脳があまり動いていないのだろう、ついさっきのことなのに覚えていない。
少し体を動かしてみようとしただけなのに力が入らない。
指一本すら動かない。
とりあえず呼吸をしてみようと息を吸い込んでみたが、何年も息を止めていたのだろうか、今、自分が鼻で息を吸ったのか、口で吸ったのか、それすらもわからなかった。
とりあえずもう一度息を吸い込んでみる。
今度ははっきりとわかった、口で呼吸をした。
眼球は動く、自分の呼吸音もわかるので耳も動いている。
鼻も口も動くようだ。
後は体が上手く動ければ良いのだが、いまだに指一本動かない。
これは時間をかけてやるしかなさそうだ…
2時間程頑張ってみた結果、両腕がぎこちなく動くようになった。
とりあえずじゃんけんのグー位ならできるところまで指も動くようになった。
2時間もじっとしていれば、脳はどんどん覚醒していき、失われていた平衡感覚も元に戻った。
今の僕はなぜか横になっているようなので、とりあえず起き上がってみようとする。
両腕を硬い石のようなものに押し付け、上半身に力をいれる。
腕の力だけで起き上がれるのか心配だったが、無事に上半身だけ起き上がることができた。
しかし、この長座の状態からきちんと立ち上がるまではもう少し時間がかかりそうだった。
まず、足の指を曲げてみる。
手の指の時よりも体が動くようになっているためか、ゆっくりだがきちんと動く。
さっきまで微動だにしなかった足首は、力を入れられるだけいれて、ブラブラさせて稼動域を増やしていく。
10分程で足首が120°程動くようになった、十分だろう。
そして一番重要な膝を折り畳んでみようとしたが、あまり上手く思ったように動かない。
膝が動かなければ立ち上がることもできない、とにかくしっかり動かすしかない。
両膝が曲がるようになるまで30分程費やした。
とりあえずこれで立ち上がることができる。
体をねじり、うつぶせになる。
そこから四つん這いになり、体を小さくする。
四肢全てにいれることができる最大の力を込めながら、腕で反動をつけながら両膝を伸ばす。
「よしっ、とりあえず…立てた……」
今にすぐにでも倒れてしまいそうな程膝が笑っているし、頭もくらくらする。
近くの壁に寄り添い、倒れないようにしながら改めて現状を確認してみる。
石で作られた祭壇、消えかけた松明、そこらじゅうに埃が舞っている。
さっきまでここじゃないどこかにいたことは覚えているが、全然思い出せない。
「一体ここはどこだ?」
とりあえず外に出るべきだと思ったので壁づたいにゆっくりと道を歩いてみる。
途中、至るところに屍や、壺などが落ちていたのをみて、他にも何か生物がいるのではないかと思う。
「屍が落ちている位なんだから人がいるのかな…」
屍を見ただけでいらないことを考えるくらい余裕があるならもう一回体が動かなくなることは無いだろうと思いながら、通路を左に曲がる。
長い時間をかけて体の至るところを動かしてよかった、3分程歩いただけで足が馴れてきたし、落ちてくる蜘蛛も手を使って払うことができる。
体の動作確認をしながら歩くこと10分、何度か道を曲がり、およそ100メートル程をゆっくり歩くと、登りの石階段が見えてきた。
その先にあるのは大きな扉。
どうやらやっと外に出られるようだった。