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なっちゃんとはなれ雲  作者: 幻想売りの十夢
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第3章『雨乞い』

『今日の天気は全国的に晴れ。全国各地から梅の開花宣言が多数寄せられています。初春の陽気に包まれて気持ちよく過ごせるでしょう。洗濯指数は100。先月から40日連続で雨は降らず、ダムの貯水率が38.2%と、平年の6割程度にとどまっていることから、本日午前9時から10%の取水制限が始まります…』


今日も降らないか…

40日間雨は降っていない


4年前、50歳を前にして脱サラし、農業を始めた

家族には猛反対された

大学生の息子が二人と、今年から短大生になる娘がいる

「今がお金が一番かかる時期なのに」

妻も猛反対だった

「退職金でなんとかなるだろう」

昔からの夢であった田舎暮らし

空気の綺麗な場所で暮らしたいと常々思っていた

会社勤めの仕事は嫌ではなかったが、なにか物足りなさを感じていた

…今を逃せばきっと一生このままだ

思い立ったが吉日、半ば強引に仕事を辞めた


二千万円の借金をして、農地、農具を揃えた

初年度は上手くいった

収穫もまずまず

収入も思った以上にあり、順調な滑り出しだったと言える

シーズンオフにはゆっくり休んで、スローライフを楽しんでいた

ところが2年目は大不作となった

昨今の異常気象により作物は全滅

収入は極々わずが…

借金だけがかさんだ

3年目の去年は異常なほど台風が発生、直撃し、作物はおろか、ビニールハウスや重機といったものまでが大打撃をくらった

借金だけがかさんだ

退職金も貯金も底をついた

近くのコンビニでアルバイトをしながら細々と食いつないだ


今年がダメならもう続けられない

しかし、50を過ぎた今、仕事なんかないだろう…

そうして臨んだ4年目だった

「雨さえ降れば…」

空を見上げた

空の真ん中にはなにやら不思議な形の雲がひとつポツンと浮かんでいたが、概ね快晴

もし…もし今日雨が降らなければ…

廃業しよう…

そう心に決めていた

納屋にはたくさんの農具が置いてある

廃業するならそれらを処分しなくてはならない

…少し片付けなければならないか…

納屋に入り、片付けを始めた


思えば人生の中で、ここぞという時にはいつも雨が降った


小さい頃から運動神経はよかった

「サッカー選手になれ」

今は亡き父がよく言っていた言葉だ

スポーツは全般によく出来た方だった

運動会やサッカーの大会ではいつもヒーローだった

運動会前に怪我をした時にも雨が降り、運動会は延期になった

サッカー全国大会決勝で決勝ゴールを決めれたのも雨が降ったおかげだった

プロからの誘いがあったが、生まれつき軽い気管支喘息があり、プロの道は諦めた

「夢は諦めるな」

これも父がよく言っていた口癖だったが、こればかりは仕方なかった


就活の時もそうだった

大事な面接の日に寝坊した

慌てて電車に飛び乗って面接へ向ったが、途中で土砂降りの雨になり、電車の到着が大幅に遅れた

運良く電車の遅延理由により面接を受けることができた

大学生の頃、付き合ってた彼女との初デート。楽しみにしていたイベントの時も雨が降った。がっかりしたが、雨が降ったおかげで別の特別イベントがあり、一生忘れられない素晴らしいデートとなった。その時の彼女が今の妻である

はるか昔、まだ2歳ぐらいの頃、家族で遊園地に行き、姉と二人で迷子になったことがあるらしい。その時も雨が降ったおかげで無事に父と母に会えたと、姉が言っていた

迷子になったことは覚えていないが、後で食べたハンバーグが美味かったことはしっかり覚えている


雨は必ず幸運を運んできたのである


納屋の中には甥っ子、姪っ子たちが作ったてるてる坊主がいくつかあった


『雨乞い・・干ばつが続いた際に雨を降らせるため行う呪術的・宗教的な儀礼のこと』

雨を降らせる雨乞いについても調べてみたが、どれもこれも胡散臭い。「てるてる坊主を逆さに吊るす」なんてのもある。科学的根拠もなく、全くあてにはならないものばかりだ。しかし、藁にもすがる思いで、神に祈りたい気持ちにもなる。

もし、神がいるなら…

40日間も雨を降らせない理由は何なんだろう。なにかどうしようもない理由でもあるのだろうか。雨が降らない事で多くの人が困っている。まぁ雨が降って困る人もいるだろうが…もし…もし神いるなら聞いて欲しい。

…今日は雨を降らせてくれ


てるてる坊主が頷いた気がした




…んっ?

にわかに空が暗くなってきた

かすかな雨の匂い

慌てて納屋を飛び出し、空を見上げた

先程、空の真ん中あたりでポツンと浮かんでいた雲が、南にあった大きな雲と合流。大きな雨雲となり、突然雨が降ってきた


「やった!雨だ!雨が降ってきた!」


これまでの快晴が嘘のように雨はますます強くなってきた


降りしきる雨の中、傘も差さずに畑を見に行った

大地は潤い、降りしきる雨は小さな川となって流れていく

大地を流れた雨は川に流れ込み、ダムへと運ばれる。貯水率も上がり、安定した水量となるだろう



『No rain.No rainbow』

ハワイの格言にこんなものがある

「雨が降らねば、虹も出来ない」

雨という苦難を乗り越えれば、虹という幸せに出会える、という意味だ



「夢は諦めるな」

父の言葉が頭をかすめた

もう諦めずに済みそうだ

もう大丈夫だ

これからはきっと大丈夫

何故だか、太一はそう確信した。

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