第2章『洗濯日和』
『今日の天気は全国的に晴れ。初秋の陽気に包まれて気持ちよく過ごせるでしょう。洗濯指数は100。先月から40日連続で雨は降らず、ダムの貯水率が38.2%と、平年の6割程度にとどまっていることから、本日午前9時から10%の取水制限が始まります…』
「洗濯指数は100」とテレビの天気予報は枯渇したダムの画像と共にそう伝えている
40日間雨は降っていない
…たしかに最近は全く雨が降らないわね
洗濯物を干しながら、空を見上げる
空の真ん中にはなにやら不思議な形の雲がひとつポツンと浮かんでいたが、概ね快晴
今日もいい天気だ
今日はパートも休みなので朝から家事に追われていた
掃除、洗濯、炊事とこまめに動き回った
結婚前に、旦那と買い揃えたお気に入りのマグカップにコーヒーを入れ、ようやく一息ついたのは午後3時だった
コーヒーを一口飲み、壁際にある写真立てを見た
写真には自分と旦那、娘、息子の4人の幸せそうに笑う写真が飾ってある
娘は小学校、息子は幼稚園に行っている
旦那はしっかり家庭の為に働いてくれており、私が辛い時や疲れた時には家事も手伝ってくれるし、休みの日には子供達とも遊ぶ。誕生日や記念日には早めに帰宅し、家族と過ごす
…ほんとにいい旦那様だわ
おかげで毎日なんの心配もなく過ごせている。世間からみれは間違いなくしあわせの部類に入ってるだろう
リビングのテレビをつけた
相変わらずテレビの話題は最近の渇水についてやっている
雨が降らない為、全国の農家では死活問題となっている。野菜の価格高騰など、家計にも影響を与えるだろう
「雨ねぇ…」
思えば…これまでの人生の節目には雨が必ず降っていた
旦那と出会った日、プロポーズされた日、子供が産まれた日…いつも雨が降っていた
9年前、娘を懐妊した
その日も雨が降っていた
「で、どうだった?」
病院から出てすぐに旦那が聞いてきた
「うん、2か月だって」
「ほんとか!?やった!やった!」
雨の中、その日のうちに旦那はベビーベッドやらチャイルドシートなどのグッズを買ってきた
「まだ男か女かもわからないのに」
ベビー服まで購入してきたのには笑ってしまった
「男の子だと元気で逞しくあってほしいな。女の子なら…可愛く優しく、誰からも愛される女性に…いやっ、それだと嫁にやりたくなくなるかも…」
真剣な顔で話す旦那。
この人は心から喜んでくれてる。
「ずいぶん気が早いわね。まだまだ先よ。あなたは男の子と女の子、どっちがいい?」
「どっちだってかまわない。君はどっちがいい?」
「えっとね…」
軽くお腹をさすってみた
「なんかね、女の子のような気がする」
で、実際、女の子が生まれた
その4年後、2人目を懐妊
その時も旦那は大喜びだった
懐妊がわかったと同時に
「次は男の子だ」
不思議と確信があった
旦那は「どちらでもいい」と言いながらも、一人目が女の子であったし、やはり男の子を望んでいたようだ
「男なら夢は諦めて欲しくないな。将来はサッカー選手に…」とかなんとか、相変わらずだわ
そうして息子が生まれた
息子は生まれつきの軽い気管支喘息ではあったが、たいしたものではなく、元気にスクスク育っている
ほんとに家族が増える事が嬉しく、しあわせの未来しか見えなかった
順風満帆、このしあわせがいつまでも続きますように…
子供は宝だ
かわいくて仕方ない
子供の為ならなんだってできる
私たちのところに生まれてくれてありがとう
そういえば…こないだ子供の胎内記憶についてテレビでやっていた
どうやら、お腹の中にいた頃の記憶が残っている子供がいるとかいないとか…
更に、生まれる前の記憶がある子供もいるらしい
…まさかね
時計を見ると、まもなく息子が幼稚園から帰ってくる時間だ
帰ってきたら聞いてみようかな
ふと外を見た
なにやら暗い
かすかに雨の匂いを感じた
慌てて庭に出て、空を見上げる
先程、空の真ん中あたりでポツンと浮かんでいた雲が、南にあった大きな雲と合流。大きな雨雲となり、突然雨が降ってきた
「あらっ、雨!洗濯物取り込まなきゃ!」
慌てて洗濯物を取り込み、家の中にしまう
雨は更に強く降り出した
多分、40日振りの雨
農家の方も一安心なんだろうな
野菜価格高騰しませんように
あっ、息子に傘を持たせてないわ
「天気予報、ハズれたわね」
テレビに向かって言ってやった