第1章『なっちゃんとはなれ雲』
今日は日曜日
なっちゃんは家族で遊園地にやってきました
空は晴れ、初夏の陽気に包まれています。遊園地では多くの家族連れやカップルが笑っています
遊園地にはたくさんの乗り物があり、どれもこれも楽しそうです。
メリーゴーランドに乗ったり、着ぐるみのパンダと写真を撮ったり、アイスクリームやポップコーンを食べました
「あっ!あれは何?」
「あっ!これは何だ?」
なっちゃんも弟の太一も周りの物に興味深々。
「あんまり遠くへ行っちゃダメよ」とお母さんが声をかけます
なっちゃんは太一が迷子にならないようにしっかり手を繋いで歩いています。
…大丈夫よ、太一には私がついてるから
太一はまだ2歳
なっちゃんもまだ幼稚園の年長さんですが、今日はしっかりお姉ちゃんです。
「あっ!」
そう言った太一がなっちゃんの手を離すと、急に走り出しました
「太一!」
なっちゃんも慌てて追いかけました
どうやら太一のお目当は「ピエロの楽団」のようです
ピエロを先頭に犬や鳥の着ぐるみが笛やラッパを吹き鳴らし、楽しげに踊りながら園内を練り歩いています
アコーディオンを持ったピエロは太一を見つけると、アメを太一にあげました
太一は嬉しそうにアメをなめます
楽しい音楽とダンス
…なんだか体が勝手に踊っちゃう
なっちゃんと太一はピエロの楽団に付いて歩きました
「あれっ?」
気がつくとかなり遠くまで歩いたようです。お父さんとお母さんがいた場所はどこ?
「太一、帰るよ」
なっちゃんは太一の手を取ると、来た道を戻ります
しかし、戻る道もわかりません
…確か観覧車の方だったような…
…いやっ、ネズミの着ぐるみのところだったような…
太一の手を握ったまま、なっちゃんはあちこち歩きまわりました
…いない…
どうやら迷子になってしまったようです
少し疲れた二人は近くのベンチに座りました
「お姉ちゃん、パパとママは?」
太一も不安げに聞いてきました
なっちゃんも不安で一杯になりました
…ああっどうしよう、迷子になっちゃった
その不安は太一にも伝わったよう
太一は泣き出しました
「パパ〜ママ〜」
なっちゃんも泣きたい気持ちですが、私がしっかりしなきゃ、とグッと涙を堪えて太一を励まします
「大丈夫よ、お姉ちゃんが付いてる。パパとママを探そう」
太一の手を取り、再び歩き始めました
思いつくまま、あちこち歩きまわりました
ジェットコースター、コーヒーカップ、ゲームコーナー、チュロス売り場、おばけ屋敷…
しかし、お父さんとお母さんの姿はありません
疲れた二人はまたベンチに座りました
太一は再び泣き出しました
「太一、大丈夫だからね」
…太一は私が守らなきゃ
そう思うのですが、なっちゃんも泣きそうです
…どうしよう
途方に暮れたなっちゃんは空を見上げました
「あれっ?」
空の真ん中にはなにやら不思議な形の雲がひとつポツンと浮かんでいます
遠くには大きな雲がありますが、その雲だけが一人で取り残されたような…
はなれ雲はあちこちに動き回っています。右にフワフワ、左にフワフワ
…きっとあの雲も迷子になっちゃったんだ。遠くにあるあの大きな雲がお母さん雲なんだわ
しばらく眺めていました
はなれ雲は相変わらずフワフワ
ああっ、そっちじゃない。そうそう、そのまままっすぐに行けばお母さん雲に会えるよ
「太一、行くよ」
なっちゃんは再び太一の手を取ると歩き始めました
なっちゃんは空を見上げながら、あのはなれ雲を追いかけていきます
…あっ、違う。そっちじゃないよ。こっちこっち。そう、そのまままっすぐ進んで
はなれ雲はだんだん大きな雲に近づいていきました
お母さん雲もはなれ雲を見つけたようです
はなれ雲はお母さん雲と無事に出会いました
「なつめ!太一!」
お母さんが呼ぶ声がしました
気がつくと前方にお父さんとお母さんがいました
「パパ!ママ!」
太一が駆け寄ります
さっきまで泣いていた太一も安心したのか大喜びでお母さんに抱きつきます
「どこに行ってたんだ!随分探したぞ。無事でよかった」
「お父さん、ごめんなさい」
安心したなっちゃんは泣きました
わんわん泣きました
「私、私ね、太一が…太一をね…」
「うんうん、なっちゃん、よく頑張ったわね」
お母さんはぎゅっとなっちゃんを抱きしめました
すると…
「あっ!雨だ」
さっきまで晴れていた空から雨が降り出しました
空を見上げると、さっきのはなれ雲もお母さん雲に抱きしめられ、ひとつの大きな雲になっています
…きっとあの雲も泣いたんだね
雨がだんだん強くなってきました
「お腹空いたろ?」
お父さんが言いました
そういえば歩き回ってお腹がペコペコです
「そろそろ帰って、ごはんでも食べに行くか」
「僕、ハンバーグが食べたい」
太一が嬉しそうに言いました
「私はスパゲッティが食べたい」
なっちゃんも嬉しそうに言いました