2話
四宮学園は幼稚部、初等部、中等部、高等部、大学が同じ敷地に建てられていて、私が通う高等部の正式名称は四宮学園大学付属高等学校になるけど面倒いから四宮高校と略されている。
小中高併設型一貫校のため、幼稚部からエスカレーター式のこの学校は外部生にとっては不利の状況。
だから外部生には入学式から2ヶ月間月曜日から金曜日まで8限が存在し、補講を行う。内部生は週2日しか8限が無いけど外部生は土曜日以外は毎日8限があることになる…ただ補講を受けるだけではなく、補講1ヶ月以内で12教科の課題と課題終了後の未履修分野のテストで90点以上という合格点を取らなければならない。90点以下の場合は追試で合格点が出るまでは終わらないという地獄、ちなみにテストさへ合格していれば補講も受けなくても良い…課題の冊子は合格者オリエンテーションの時に渡されていて既にやり始めている…やり始めないと終わらない。
「まずは自己紹介だな、柴田修也だ。担当は数学、部活はバスケ部の顧問。よろしくな」
運動系っぽい姿をしているのに理系とは中々面白い先生だと思う。
「中等部からの持ち上がりが多いがこのクラスに新しい顔が2人いるからな、名簿順に自己紹介してくれ。そうだなぁ…名前の他に趣味と新顔の為に入りたい部活とかいいな!んじゃ、1番から」
そういえばこの学校は部活が強制されいるんだったな…一応部活一覧の紙を貰っているから見てみても特に入りたいと思う部活は無い。
自分の趣味ってなんだろう、読書?前に父さんの仕事を手伝ってから時間が空いた時にゲームを作ったりすること?これはかなり特殊過ぎる趣味になるな。何もせずにボケっとしているだけでかなり時間が過ぎるから特によくやる事も無いし…困った、何も答えられなさそう。
「四宮颯です。趣味はプログラミングで部活はパソコン部に入部しています」
「四宮、今度俺のパソコン直してくれ」
「それは僕の管轄じゃないのでぜひ朝陽に言ってください、喜びますよ」
「あいつは直すんじゃなくて壊すだろ!」
クラス中に笑いが起こった。それを静かに見ていたけどもボケッとしているうちに私の番になってしまった…とりあえず椅子から立ち上がる。
「古澤瑞紀です。趣味は読書で、部活はまだ考えていないので色々見て回ろうと思います」
「古澤がもうひとりの新顔な!…にしても新顔は中々面白いな、部活はたくさんあるから楽しみながら見ると良いぞ!」
部活の紙を見ながら再びボケっとしているといつの間にか自己紹介が終わりホームルームも終わっていた。
「古澤さん?」
「はい?」
「あ、気付いた」
「?」
あれ、いつの間にかクラスの人達が周りにいた。
「うちのクラスは外部生に興味津々だから江畑と古澤さんのことを注目しているんだ」
そう言ってニコリと笑う彼は答辞をしていた…四宮颯くんだったか。
「さっきから思っていたけど古澤さん、ずっとボケっとしていたわよね?」
「え?ああ、ごめんなさい」
「謝ること無いのよ?私達、古澤さんと仲良くなりたいからぜひ皆の名前覚えてちょうだいね。ちなみに私は志倉華、趣味は華道だから華道部に入部するの」
「…古澤瑞紀です」
「知ってるわよ」
さすが持ち上がり組だけあって皆仲が良いみたいだ、そういえばもう一人の外部生は誰だったのだろう…周りを見たけど居ないみたい。
「そういえば、さっき先生が古澤さんを生徒会室に連れて行くように言われていたんだ」
「生徒会室?」
なに、私何かやらかした?
「部室が生徒会室の奥だから行くついでに案内しろって言われたから」
「…分かった」
また明日という皆の言葉に返事をしながら四宮くんの後ろを付いていった。
「隣を歩きなよ、軽く構内を案内するから」
「…ありがとう」
「古澤さんって人見知り?」
「そういう訳ではないのだけど」
人見知りなんてしたことがない。
「僕の名前は聞いてた?」
「四宮颯くんでしょう?」
「何か思ったことは?」
「四宮ということはあの四宮の血族という認識で良いのかしら?」
「合っているよ、僕は四宮の人間で現会長は僕の祖父なんだ」
会長の直結だったとは…まあ、そんなものなんでしょうけど。
生徒会室に向かう最中は軽く場所の説明をしてもらいながら少し離れたところにある図書管理棟に着いた。
「ここの棟の中に生徒会室のパソコン部の部室があるんだ」
2階まである図書管理棟の最上階に生徒会室があった。生徒会室と言う割にはロックがあったりと厳重になっているけど何故だろう…普通はここまでしないと思うけど。
「さ、入って」
「失礼します」
中に入ると部屋はかなり広く、たくさんの資料があった。
「あれ、いない…奥か、座って待ってて」
彼が生徒会室の奥にある扉のロックを解除して中に入って行き数分したらもう一人の生徒と共に部屋から出てきた。
「待たせてごめんね」
「初めまして、古澤瑞紀さんだね?」
「はい」
「俺は生徒会長の四宮朝陽。よろしくね」
こちらも四宮の人か…生徒会長って、私に何の用?
「来てもらった理由はね、古澤さんに是非生徒会に入ってもらいたいんだ」
「私が…生徒会ですか」
「うん。まあこの学校の生徒会はテストの成績が各学年20位以上じゃないと入れないんだけど、古澤さんは入試の点数が前代未聞の全科目満点を出しているから問題無いね」
「は?」
今さらりと衝撃的な言葉を言ったけど、何?入試のテストが満点?そういう情報を一般生徒が知っているものなの?
「この情報は特別に許可を取ってあるから大丈夫だよ」
「ここの入試は最難関と言われているのに全科目満点だなんて凄いね古澤さん」
「はあ…どうも」
もしやここの生徒会はよく小説に出てくるようになんでもありな組織なのではないだろうか。そんな生徒会に私が入る?…面倒としか思えないのだけど2人にはそんな事通用しなさそう。
「古澤さんはパソコンどれくらい使える?」
「パソコン、ですか」
「生徒会ではパソコンをよく使うんだ。俺たちパソコン部が色々改良した特殊パソコンを使用するからある程度出来ておいてくれると助かる」
両親が共にIT業の為幼い頃からパソコンには触れてきている、だからパソコンの扱いは大丈夫。
「パソコンに関することなら大丈夫です」
「それは良かった。それで、生徒会に入ってくれるかい?」
「い…」
「入ってくれるよね?」
「…ハイ」
この生徒会長、笑顔の裏は鬼畜な人だ。
「四宮だとあれだから俺のことは朝陽と呼んでね」
「僕の事も颯と呼んでね」
「分かりました、私の事も瑞紀と呼んでください」
「雰囲気的にちゃんでもさんでもないな…じゃあ瑞紀と呼ばせて貰うよ」
「僕も」
…なんでも良いかと。
こうして、長年に渡って付き合ってゆく朝陽先輩と颯との出会いの始まりだった。
「そういえば、瑞紀は部活まだ決めていないんだよね?」
「そうなの?」
「はい、特に入りたい部活が無いので悩んでいる最中です」
正直帰宅部が欲しいくらいに入りたいと思う部活が無い。父さんが聞いたら「青春しろよ~」と言われそうな…いや、間違いなく言う。
「じゃあ、パソコン部に入らないか?」
「パソコン部と言うと2人が入部している?」
「そう。パソコン部はね、特殊な試験と許可が無いと入部できないんだ」
は?
「でもまあ瑞紀なら簡単にクリアできそう」
「確かに」
「…特殊な試験、ですか」
特殊ねぇ…なんだか恐ろしい部活だこと。
「ということで早速お試し試験を受けようか」
「はい?」
「このパソコンを使ってやってもらうよ」
楓くんが何処からか取り出したパソコンを私の目の前に置いた。
「問題がでるからそれを解くだけの簡単な試験だから」
「いきなり過ぎません?」
「お試しだから、開始!」
本当に唐突すぎる…とりあえず解くしかないようだからモニターに表示されている問題を見てみる。最初は文章を打ち込むだけのようだからサクッと終わらせて、次の問題へと進んで行く…数分後、全ての問題が解き終わった。
「答え合わせは下のやつを押すと出来る」
解いている途中に思ったのだけど…これ絶対にお試しでは無いでしょう…そもそも高校生に解かせるような問題じゃ無い。数学とか国語とかそういう次元じゃなくてこういう事件が発生した時はどうするかとかそういうの…まるで警備会社で行うような問題だった。
そんな事を思いながら恐る恐るマウスを動かしてクリックすると画面いっぱいに合格の文字が…点数も出ていてまさかの満点。
「…これ、兄さんが見たら即スカウトする域だね」
「…だな、これは誰もが欲しがる人材になると思う」
なんだか不穏な言葉が聞こえているような…気の所為にしておこう。
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