星食い人と探し物
いつだったか聞いた言葉。
「人が死んだらお星さまになる」
でもね、ずっと探しているのに、見つからないんだ。
むかしむかし、あるところに一人の男の子がいました。
男の子は、どんな食べ物も食べることが出来ませんでした。
男の子は、食べられそうなものはすべて試しました。
草も花も毒のあるキノコも自分の手も。
どれもこれも食べることが出来ませんでした。
途方にくれていたあるとき、一人の男に出会いました。
男は、男の子の話を聞くとひとかけらの小さなかたまりを渡しました。
男の子は、それを食べました。
それはとてもおいしかったのです。
初めてお腹を満たした男の子は幸せでした。
男は男の子に言いました。
「私についてくれば、もっとおいしいものを食べさせてあげよう」
男の子は、男について行きました。
それから、二人のゆくえを知るものは誰もいません。
これは、子供のころ君によく聞かせてもらった物語。君はこの物語が大好きだというけれど、僕はあまり好きではなかった。
「ねえねえ、知ってる?このお話に出てきたかたまりってお星さまのかけらなんだって。どんな味がするんだろう…」
「知らないよ、それにそれって食べられないし、手にいれることも出来ないよ。」
「そんなことないよ!この話に出てくる男の人みたいな人に会えれば、きっと手に入れられるよ!」
「夢みまくりのとこ悪いけど、これ誘拐される話なんじゃ…」
「ロマンが全然足りないな、君!子供がそんなこと気にしない!気にしなーい!だって物語だよ!」
君は無邪気に笑った。でも、そうはいいながらも君の瞳は雄弁に語っていたんだ、会いたいって。
あるときから、君はよく姿を消すようになった。会うたびに話を聞こうとするが、曖昧に返すだけで答えてくれない。
でも、それから数日がたったあるとき、君は今にも踊り出しそうなくらいのテンションで突然現れた。
「ついにやったんだよ!」
「?」
彼女がこちらに手を差し出してきたので受け取るとそのなかには、小さな石が。
「これは?」
「これはねー、星のかけらだよ!」
意味がわからなかった。詳しく話を聞くと、どうやらあの話に出てくる男の人に出会ったらしく、最近はその人に着いていき、色々教えてもらっていたらしい。
「でね、どうしても君にあげたくて。……ねえねえ、これあげるから代わりに君の目ちょうだいよ。」
「え?」
「だって、いっつも思っていたんだけど、君の目っておいしそうなんだもん。君の目って星空みたいできれい。」
「…意味がわからないよ。」
「うん、だって冗談だし。」
この時の君の笑顔は怖くて、未だに思い出すだけで震えてしまう。
「ねえ、おじさん。どうしてこんなことしているの?」
それはね、探し物があるからだよ。
「まだ見つからないの?」
そうだね、簡単に見つかるとも思っていなかったし
「で、その探し物って?」
…大切な人だよ。
「それなら、そんなところにいるわけないんじゃ。」
ずっと昔に死んだんだ。
「?」
もう一度…一度だけでいい、一目会いたいんだ。
「だからこうして旅しているの?」
そうだよ。いつか来るかもしれない日のために。
「それならさ、もしも僕が死んだら、僕のことも探してよ。」
唐突だった。なんの前触れもなく君は死んだ。涙は出なかった。あとに残ったのは、君からもらったたくさんの星のかけらだけ。結局君は最後まで男の人について語ってくれなかったね。
それから君が死んで数年が過ぎた。僕の身体は少しずつ食べ物を受け付けなくなって…。そんな日が何日も何週間も過ぎていった。
ある日、君の言っていた物語を思い出して…僕は思いきって星のかけらを食べた。口に含み、咀嚼して飲み込んだ。何も起こらなかった。あれだけ食べ物を拒んでいたのに、得体のしれないものはすんなり食べることができた。そのことに驚きはしたが、恐怖は感じなかった。
それからは、君が残してくれた星のかけらを少しずつ食べて過ごした。空腹感というものがなかったので、少量でこと足りた。
また、君が会っていたという男を探し始めた。手がかりは何もなかったが、することもなかったので暇潰しにちょうどよかった。
そしてー
あれから何年たっただろう。長く感じるが、実際はそんなに長い時間はたってない。
僕は今、星を集める人になっていた。あれほど胡散臭いと思っていたものをなっているというのもなんだか滑稽だ。1、2ヶ月長くて半年ほど、採集に出掛け、家にいるのはほんの数日。今も食生活は変わることなく、集めては食べ、集めては食べを繰り返している。
そして今、僕は君を探している。
いつだったか聞いた言葉。
「人が死んだらお星様になる」の言葉を信じて。
見つかるかな、君のこと。僕、楽しみなんだ。
君ってどんな味がするんだろう。