7 専用装備、寄生?
異世界に来て約一週間、段々この生活にも慣れてきた。
兵士達に訓練させているが着々と人数が減ってきているようだ。ナイアの訓練には容赦が無くなっているし俺自身も鍛えている。
お金に関しては盗賊団を潰してまわり治安維持にも貢献しているため国王からは感謝されている。
だが最初に国王から言われていた滞在期間が終わろうとしていた。
そんなことを考えていると伝令が部屋にやってきて『王様がお呼びだ』と伝えられた。
ナイアを引き連れて国王に会いに行く事にしよう。
「ウイッス~、いや突然すまんね~」
「対応軽過ぎじゃねえか?」
いや、今更か
「で?、本題は?、意味もなく呼び出さないだろ?」
「いやな、そろそろこの世界に来て約一週間だろ。それに伴い国王権限でスキルを一つ与える事になっていてな、何大したスキルじゃないさ、この国公認の勇者として活躍することを許可すると言うだけの形式スキルさ」
「それを貰って何かあるのか?」
「そらあるさ、まず身分を証明するのが容易になることで一々国に入るための税関を素通り出来るようになる。そしてこっちが本命なんだが、どうやら偽物の勇者がいるらしくてな?見分ける為でもある。この形式スキルは国王権限で付与する物だから偽装は出来ないってわけだ」
よくありそうな話である。勇者になりすまし他人に貢がせたり国内ででかい態度をとる無法者を捕らえるためだろう。
「あと大規模討伐依頼の指揮をしてもらうこともあるから、その方が勇者っぽいだろ?」
「そ、そうだな」
「他国でも一々身分証明する必要もないわけだから動きやすいぞ。あぁ忘れるとこだったが、旅立つ勇者には国の宝物庫から好きなアイテムを一つ持ち出していいことになってるんで来てくれ。」
話が終わり宝物庫へ移動する。
どうやら城の最下層にあるようなのだが・・・
ナイアが何かを感じ取ったようで
「ねぇ、なんか私に近い禍々しい魔力を感じるんだけど・・・」
と囁いていた。
宝物庫に着くと理由がわかった、どうやら厳重に封印してある様だ。
「この宝物庫には魔剣やら魔術書があるからな、それらの力を封じる魔術防壁が張られてるのさ。最も完全には封じ込められなかったがな」
これ本当に宝物庫か?どうみても危険物隔離施設の間違いだろとしか思えない。
国王が手かざすと身に付けていた指輪が一瞬赤く輝いた。その瞬間魔術防壁
は機械的に動き一部防壁が開き国王が扉に手をかける。
「前もって言っておくが中で見たものは他言無用、形式スキルにも言えないように術式が込められているからそのつもりで」
そう言いながら扉を開く、すると先程まで禍々しい魔力がだだ漏れだったとは思えない程澄んだ風が通り抜けた。
国王の顔が一瞬歪んだのを見逃さなかった。
「さぁ入りたまえ、好きなものを選ぶといい」
「本当にどれでもいいのか?、国宝とかでも貰うからな?」
「構わんさ、中身を確認してから考えるといい。何なら相方と相談しても構わんよ」
ナイアを連れ中へ入る。
中は意外と広く様々な物がある、武器や防具は勿論魔術書や呪われた品などがある。
俺は鑑定があるから解るがナイアはどうだろう?、一人ニヤニヤしているのでなかなかどうして気持ち悪い。
「何ニヤついてるんだよナイア」
「ふふっいやね?、昔懐かしい品々が揃っていると思ってね。自分が使った物から知り合いが創ったもの、果ては人間に絶望と狂気を撒き散らした呪物まである。ここまで揃っていると何か誘われて来たような錯覚を覚えるのよね」
そう言いながら『あれ私が創ったのよ?』などと言って
いる、流石に国王も苦笑い物である。
防具を鑑定しながら眺めるがどれも呪いやら術式が編み込まれているようだ。どれも一級危険物なのだが。
「なんでこんな危ねぇもんばかりあるんだ?、こんなん貰ってもどうしようもないだろ」
「それがな、勇者は何かに引きつけられるように選ぶんだ。本人達に聞けば『呼ばれた気がした』とか『目が離せなかった』と言っていた。恐らく本人達に自覚はないのだろうがこれらアイテムが主を探していて適性のある者を選んでいるんじゃないか?」
成程、それならこんなにも禍々しい品々を隔離していてもそれを『宝物庫』と呼べるわけか。
何せ本人達には冒険に役立つ大事な相棒になるわけだからな。
防具はざっと確認した、次は武器を確認しようとした時『あるもの』が視界に入った。
だがその『あるもの』は視界から消えた。
「何だ今の感覚、何かを見つけたと思ったらどれだかわからなくなった?」
「昴どうしたの?」
「あぁ、いや、何でもない。」
そして『あるもの』を見つけたと思わしきタイミングから何かにこちらを見られているような感覚がつきまとうようになった。
だが気にせず武器を一通り確認してもその視線が消える事はなかった。
「ここには俺達以外に誰かいるのか?、さっきから誰かに見られている気がするんだが」
「何を言っている、この宝物庫は許可した者しか入れない。今は『俺、昴、ナイア』の三人しか許可していないぞ?」
「そうか・・・。気のせいなのか?、それにしては気配が凄いんだがどれだかわからん」
「被害妄想じゃないの?、昴誰かに恨みを買うようなことしたんでしょ?」
「違うわ!!・・・・・・いやそうとも言い切れない人が一人いたけど・・・あいつ首飛んでるしなぁ・・・」
だとすると一体誰の視線なのだろうか・・・
「この辺の武器試し振りしてもいいか?」
「おう構わんぞ、壊すなよ?」
許可をもらって近くにあった剣に手を伸ばしたのだが
「痛っ!?」
「あぁ~、それか。今持とうとした剣の名前は『茨の剣』って言ってな、植物系魔法がかけられたエンチャントアイテムだ。適正者以外にはその棘が持ち主を傷つける自傷の剣でな、適正者が持てば自由自在に植物を操れるって優れもんだ。」
そういうことは先に言ってくれよ、と思って剣を持とうとした左手を見る。
結構深く切ったようで血が滴っているのだが自前の自然治癒スキルで治るだろうと放置しようとした。
その時突然強烈な視線を感じた。
「!?、何処からだ?、一体誰が見てんだ?」
「昴?、アンタ魔法とかって使えるの?」
「なんだ唐突に、魔法なんて使ったことないぞ?」
「でも昴の手の血・・・」
そこでナイアが言い淀む。
何かと思って再び左手を見る、だんだん傷が治ってきている。だがその手から滴る血がまるで自分の意思があるかのようにある方向へ動いている。
その方向、部屋の片隅に目を向けると一本の刀が置いてある事に気が付く。
その刀からは強い意思、強い信念を感じるのだが見た目は完全に使い物にならない刃がボロボロのくたびれた刀であった。
「ん?、あんな刀宝物庫にあったかな?、我の記憶にはないのだが・・・」
その刀に吸い寄せられるかのように俺は近づき、思わずその刀を手にとった。
するとその刀はまるで血を吸っている(・・・・・)かのように俺の手についた血を吸収していった。
『ふわぁぁああああ、久方ぶりの血じゃな。一体誰が我に血を吸わせたのだ?』
「おわっ!?」
刀を手に持った瞬間、突然頭に響くような声が聞こえた。
俺が驚いたことでナイアも王もびっくりしたようで
「昴?どうした突然変な声を出して?」
「そうだ、我だって結構な歳いってるんだがら驚かされたら心臓止まるぞ!」
「何?、お前ら今の声が聞こえないのか?」
「「??」」
二人はキョトンとしたまま首をかしげている。つまり聞こえてないのだ。
『んん?、お主が新たな持ち主かの?、我は妖刀・・・はて、名前は忘れたのう。なんじゃったかな?、ここで眠って早300年、誰も我に近寄らんから全く面白みがなく眠りこけていたらいろいろ忘れたのう・・・』
「な、なぁ、こいつなんか喋ってるんだが・・・」
「昴、厨二病なの?、その年で厨二病はちょっと・・・」
「アニメどハマリだったテメェに言われたくねぇ!!、とりあえずこれ触ってみてくれ。」
「昴の下半身のいt『それ以上言うなら殴り飛ばす』わかったわよ、全く冗談も通じないのかしら」
とか言いながらやれやれみたいな顔して刀に触る、するとナイアのふざけ気味な顔が真剣なものへと変わる。
「成る程、これは随分と面白いものね。鑑定してみなさいよ。」
「そういえば忘れてたな」
ナイアに進められて鑑定を発動してみる。
妖刀(名無し)
Lv.178
スキル
自我 寄生 吸血 エネルギー転化 呪物
おいなんか装備にもレベルがあるんだがどういうことだ?、しかもスキルまで持ってるって・・・
寄生
所有者に対して寄生し、エネルギーを吸い取りながら所有者を操る。
呪物
所有者に対して働くパッシブスキル。適応者ではない場合に限り所持者を蝕む呪いを付呪する。適応者の場合その武器の恩恵を得ることが出来る。
随分と厄介なスキルを持ってる訳だが?、そもそも今持ってる時点で寄生されているのでは?
などと考えたが今のところ操られるなどエネルギーが吸われるようなことはされていない。
『にしても随分久々に人に触られたのう、男か女か、さてさて?』
妖刀から声が聞こえたかと思うと刃の部分に赤々とした瞳が現れてこちらを見ている。
かなり気持ち悪い、全身を舐め回すかのような視線が背筋をぞわぞわとさせる。
『なかなかいい男っじゃないかぇ?、決めた。我はお主について行くことにする!』
そう言うが早いか、刀から赤い血管のようなものが俺の左手に伸びていく。
あれ?、これ寄生されたんじゃ・・・
「おい離れろよ」
『嫌じゃ、我は久々に外に出たいのじゃ。だから連れて行ってたもれ!、ここの空気はもう飽いたのじゃ。』
「なんだ?、お前武器に寄生されたのか?」
「そうみたいだ、仕方ない。王様よぉ、俺この武器にするわ」
「そうか、まぁ取れなさそうだしな。いいんじゃね?、じゃ、ここ閉めるぞ~」
宝物庫を魔法防壁で閉じた後、刀からの寄生が離れていき腰に挿すことになった。
「随分面白い武器が手に入ったわね」
「お前絶対今の状況楽しんでるよな・・・」
『久々の外なのじゃ~、これからよろしくのう主殿よ』
「はいはいよろしく、勝手に寄生してついてきやがったくせによぉ」
『良いではないか良いではないか、その代わりお主の力になるでな』
「期待しないでおくよ、はぁ」
「勇者昴、ついでだからそのまま冒険者ギルドへ登録に行ってこい、金が稼げるようになれば旅も楽になるぞ」
「そうだな、あんたからずっと依頼受けるわけにもいかんしな。ついでにナイアにも登録してもらおうかな」
「うえぇ~?、私戦う気ないんですけど~?」
「お前俺の奴隷だろが、これ命令な」
「へ~い、こんな幼気な女の子に戦闘させようなんて、なんて鬼畜なご主人様なのかしら!」
「幼気な女の子は兵士素手で掴んで地面にめり込ませねぇよ!!」
『随分楽しそうな者たちじゃな、愉快愉快』
騒がしいながらも俺たちは冒険者ギルドへと向かうのだった。