6 舐めてる兵士諸君
翌朝、身体に乗る温かい重さによって目が覚めた。
何やら布団が人1人分盛り上がっているのが視界に映り寝ぼけながら布団を捲る。
捲った瞬間眠気なと吹っ飛んでしまった。
黒髪の少女が一糸纏わぬ姿で俺に抱き付いていたからだ。
そこで昨日奴隷市場で1人の少女を買ったのを思い出したが彼女には別に部屋を用意して貰っていたはずだ。
1人考えながらも見とれていると少女も起きたようだ。
「ぅん、おはよう主」
「お、おう、おはよう」
「いい朝ね~」
「何故俺のベッドに寝てる?」
「寒かったから?」
何故質問に質問で返すんだと言おうとした、その時。
「おかしいなあ?、日本人ならこういうの好きだと思ったのに~」
「いや確かに好きだけ・・・ど・・・」
「そもそも女の子が自分の」
「おい、なんで俺が日本人だって知ってるんだ?」
この世界では日本なんて国は存在していない。
もし知っている者がいるならそれは同じ勇者召喚された人間か、その話を聴いたことがあるという事だ。
「そんなの簡単よ、私を誰だと思っているの?」
そうだった、こいつ邪神だったわ。
しかも人間に叡智を与えて破壊と絶望を撒き散らすナイアルラトテップ本人だわ。
「そうだったわ、見た目人間だから忘れてたわ」
「寧ろ人間に化けてるって言い方が正解じゃないかしら?」
「最低だな!?」
だが待てよ?、ナイアは今レベル1じゃなかったか?
だがそれにしては知識的過ぎる。
試しに聴いてみることにするか、コミュニケーションは大事だ。
「そういえば何故レベル1なんだ?、随分知識を蓄えてる割には低いんじゃないか?」
「簡単な理由よ?、前の私は負けたのよ、日本人にね」
「は?」
「いやまさかアニメに釣られて交渉に行ったら結界に閉じ込められて光の牢獄に捕まって最終的には5人がかりの魔法で体が弾け飛ぶとは思わなかったなぁ、ハハッ」
「ハハッじゃねえよ負けてんのかよ!?、しかも死因が『アニメに釣られクマー!』とかお前本当に邪神かよ!?」
「仕方ないでしょ!?、日本のアニメ面白かったのよ!!、しかも初回限定生産のBlu-rayボックスだったのよ!?」
「ただのヲタクじゃねぇか!!、お前レベルいくつだったんだよ!?」
「261だったわよ?」
「高っ!?、負けてんじゃねぇよ!」
「燃え尽きたわ・・・真っ白にね・・・」
「物理的にな!?」
こいつを奴隷市場で買ったのは間違いだったか?
「まぁ安心なさい、ここは日本じゃないからそもそも私に詳しい人なんていないし。いたとしても異端信仰の司祭が嘘混ぜながらって程度よ」
「それもそうか、あと俺の事は主じゃなくて昴でよろしく」
「私一応奴隷なのだけれど?」
「そんなもん気にするな、これは命令だ」
「わかったわ昴、で、今日はどうするのかしら?」
「まずお前の実力を見せて貰う、昨日の騒がしかったあいつにも教えてやらないとな」
「確かにあんなのより弱いと思われるのも癪だから立場を解らせましょう」
「奴隷と兵士だけどな」
「それ言わないでよ~(汗」
「はいはい朝食に行くぞ、服着ろよ」
そんな会話をしながら部屋を出る。
後ろを振り向くとナイアの周りに闇が集まり服になっていた。
朝食を取りながら近くの兵士に『俺の隊を11時頃に訓練場に集めろ』と言っておいた。
訓練の中の基礎体力強化を継続し、組み手をする事にした。
ちなみにナイアの城内での扱いは奴隷ではなく賓客扱いになっている、王から『勇者の奴隷に失礼のないように』と意味不明な事を兵士が言われている現場を見てしまった。
訓練場に向かうと既に兵士達がマラソンをしていた。(通称地獄の加重マラソン)
兵士達から挨拶されながら休憩するように伝える。
一時間程度休憩をしてから紹介に入る。
「こいつは昨日街で会った奴でナイアってんだ、皆仲良くしてやってくれ」
「初めまして、昴の奴隷のナイアです。皆さんよろしくお願い致します」
おいおい折角ぼかしたのにストレートに言うなよ。
横目で見るとナイアがしたり顔をしていた、兵士達への紹介としては印象的になったがあまり良くない。
兵士達が小声で話している。
「隊長ってああいうのが好みなのか?」
「あんな幼気な少女を奴隷になんて、羨ましい」
「へへっ、可愛い」
などと皆好き勝手言っている、あいつらマラソン追加だな。
「紹介も終わったし誰か組み手の相手をお願いできるか?」
「それは隊長とですか?」
「いや、ナイアとやってもらう」
「よろしくお願いしま~す♪」
「え?、相手になるんですか?」
「まぁやってみろ」
兵士達は動揺している者が半分、にやけた顔の者が半分か。
隊長達5人は皆動揺している、一番動揺しているのは昨日街を案内してくれたコニーだ。
何故兵士に勝てない少女を組み手させるのかといった顔だ、今にわかるが。
「ねぇそこの兵士さん、お願いできますか?」
「俺かい?、へへへっ、勿論構わないぜ?」
「よろしくね♪」
ナイアがにやけ顔の内1人を選ぶ。
兵士達に聞こえないように『やりすぎるなよ?』と耳打ちしたらナイアは禍々しい笑みを浮かべて一言。
「立場をわからせてやる」
そう言って組み手に向かった。
もうダメだ、嫌な予感しかしない。
俺の考えを知らずに兵士は組み手の位置につく、ナイアは察していてもやる気満々である。
「皆忠告だ、くれぐれも手を抜くな。絶対だ。」
「わかってますよ隊長、手なんて抜かないっすよ、へへっ」
ダメだ、完全に見た目と奴隷という立場故にナイアを舐めきっている。
これは流石に兵士として良くない、少しお灸を据えてやろう。
「ナイア!、前言撤回だ。殺さなければいいぞ、ただし素手だけだ」
「本当!?、わかった!」
声は明るいが顔が禍々しい、寧ろ禍々しさが強くなった。
まぁにやけた兵士達には悪いがこれも訓練だから。
そして合図とともに組み手を開始した。
兵士は合図とともにナイアに掴みかかるが軽くかわされる、すれ違いざまに蹴りを入れるも片足で受け流される。
兵士はひたすら攻めるがナイアは全く動じない、兵士は必死で気がついていないがナイアの顔からは笑みが薄れ段々興味を無くしているようだ。
そろそろかと思った時、ナイアが動いた。
「兵士さんつまらないわ、次の人に変わってね?」
兵士は一瞬何を言われたのか理解できなかった、寧ろ理解する時間がなかった。
その言葉とともにナイアの姿が一瞬消えて兵士の後ろに回り込む。
そのまま兵士の頭へ手を伸ばしながら飛びつき掴んだ頭から地面へと叩きつけた。
兵士の頭が地面に当たった瞬間、轟音と共に頭を中心に地面が砕けた。
ドガン!という重低音を響かせナイアは立ち上がる。
その顔は無表情だ、だが眼には冷たい感情が宿っている。
「てめぇら相手が女子供だからって油断し過ぎ、私を誰が連れてきたと思ってるわけ?」
その光景を目の当たりにして、にやけていた兵士達は顔面蒼白になり冷や汗をかいている。
対照的に動揺していた兵士達は納得しつつも驚いている。
「動揺していた兵士達は及第点ね、昴が何を考えているのか少しは考えていたみたいだし。まぁ何を考えていたかまではわからなかったみたいだから及第点なんだけども」
などと宣っている、俺どういう感じに思われているのだろうか・・・
「ちなみに言っておくが私のレベルは1、つまり君達兵士諸君は格下の子供に負けたという大変不名誉な扱いが待っているぞ。喜び給えよ(ニッコリ」
その話を聞き半信半疑な兵士へナイアのレベルは確かに1だと説明すると「嘘だろ・・・」という声がちらほら聞こえる。
まぁレベルに対しての兵士の練度が低いのが原因だけどね。
「これからの訓練は昴からではなく私が担当する。お前達は弱すぎるから私が鍛え直す!、これからは昴ほど甘くはない内容になるだろうが、とりあえず先ほど私を見ながらニヤついていた半数の者は今から武装しいつものマラソンだ。周回数は100周!、気合を入れろ!!、腐った性根を叩き直して差し上げましょう!」
「隊長達は俺と模擬戦闘、お前らは本気で来いよ?じゃないと訓練にならないからな」
「「「「「レンジャー!!!」」」」」
そして後に『兵士の地獄めぐり』と語られる事になる訓練が始まったのであった・・・