5 街案内と奴隷の少女?
翌朝、俺は早速街に出たかったのだが兵士達にボーナスの報酬を渡してなかったことを思い出した。
マラソン(もとい盗賊団殲滅任務)についてこられた上位5名には報酬とは別に金貨5枚を渡すと行ってあったのだった。
報酬に関しては各自の働きのようなものがあるらしく任務完了後に専用の鑑定士によって報酬を割り振られるらしいので自分の報酬はしっかり自分のものということになる。
隊長が受け取りそれを山分けするということはないそうだ。それで山分けしよう物なら『お前は気に入らないから報酬減らすわ』みたいなことになりかねないということらしい。
というより昔あったらしいがその隊長は首を切られたそうだ、しかも『あんなふざけた奴、即刻首をはねてやったわ!、ハッハッハ!!』と王から上機嫌な説明を受けた。
何故そこで上機嫌になったのかは気にしないでおこう。
ともかく頑張ったご褒美に報酬を渡さねばなるまい、ついでに街の案内を1人連れて行こう。
「伝令はいるか~?」
「はっ、お呼びでしょうか?」
「昨日俺と隊を組んで盗賊狩りに行った兵士達を訓練場に集めてくれ」
「わかりました、では即座に」
そういい残し伝令は走っていった、訓練場ならそのまま基礎体力をつけるために走り込みでもさせるか、そう考えながら俺は訓練場に向かう。
10分程度で訓練場についたが既に兵士達は横一列に並んで待っていた、伝令走ってから早すぎでしょ・・・
「「「「「「おはようございます!!」」」」」」
「おうおはよう、早速だが昨日行った盗賊狩りの任務ご苦労さん。そして昨日俺についてこられた上位5名は俺の前まで来い」
そう言うと兵士の中から5名が俺の前に並ぶ。
「では1人づつ自己紹介をしてもらおうか、そのまま報酬の金貨5枚を渡す」
「はい!、自分はコニー・クレオスであります!」
「コニーだな、これからも訓練を怠るなよ。これが報酬の金貨5枚だ」
「ありがとうございます!」
「次は誰だ?」
「はい!、アレックス・ウィルであります!」
「アレックスだな、これが報酬の金貨5枚だ」
「ありがとうございます!」
という会話が続く、兵士5人の名前は各自コニー、アレックス、マルコ、ウィルソン、ザヌーという名前のようだ。ステータスは
王国兵士
Lv.23
スキル
王国への忠誠 集団行動 周囲警戒 拘束術 腕力 硬質 敏捷
スキルに関しては全員同じだった。
それ以外の兵士のステータスをみると
王国兵士
Lv.23
スキル
王国への忠誠 集団行動 周囲警戒 拘束術
という感じに多少スキル差があった、これは本人達の努力次第で獲得スキルが変わっているのだろう。
とりあえずはこの5人を小隊長が出来る程度には鍛え上げ、且つ小隊の兵士も体力づくりや組手などをさせればいいだろう。
「では早速だが訓練メニューを発表する、各自自分の鎧や剣を装備した状態で再度ここに集合しマラソンを行ってもらう。マラソンのリーダーとなるのは先ほどの5名だ、周りの兵士達とは訓練メニューが違うから奇異の視線を感じるだろうが俺の訓練は今腹パンされて治療されている雑魚(王国兵団長ダン)のように生易しくはない、脱落者も出るだろうが頑張って欲しい。今日はグラウンド50周、装備をつけたまま走ってもらうが休憩は各自好きなタイミングで取れ、ただし俺が帰るまでに目標周回に届かなかった奴は切っていくつもりだから気合入れて走れ!」
「「「レンジャー!」」」
「それと先の5名の中から1人俺に街を案内してくれ、誰でも構わないぞ」
「それでは自分、コニーがお供いたします!」
「よろしく頼む」
そう言い終えるとコニーを連れて城下街を目指す、向かう途中訓練場の方からは走り始めたであろう兵士達の足音が聞こえた。
街は大まかに区分けされており、居住区、商業区、貧民区に分かれているようだ。
居住区には名前の通り街に住んでいる人々が住んでいる地区で、その居住区の中にも平民の家や貴族の豪邸なんかも含まれているようだ。
「自分たち兵士の中にもここらに住んでいるものがいまして話しはよく聞きます」
「全員が兵舎で生活してるわけじゃねぇんだなぁ」
「兵士の中には平民出身のものもいますので、話によると騎士の方々の中にも平民出身者がいるという噂を聞いたことがあります」
「なるほどな」
次に向かうのは商業区、商人ギルドや冒険者ギルドがありそれ以外にも酒屋や旅館などの商店が並ぶ区画だ。
武器や防具もここで揃えるられるし、回復アイテムや毒消しなどの便利品も売っているとのこと。
「自分もここの武器屋にはよく世話になります、新調したいときなどもここで注文したりしますね」
「俺は武器使わないから来るかわからんがな」
「確かに隊長ほど強ければ武器は必要なくとも防具やアクセサリーなんかはどうでしょうか?」
「それは気になるな、今度来た時にでもじっくり見ていこう」
そして最後に貧民区であるが、ここに関しては説明を受けなかった。
「ここに関しては入ることはあまりおすすめできません」
「やっぱ治安が良くないのか」
「そうです、お察しの通りここはあまり治安がいいとは言えません。物乞いや路上生活者はまだしも窃盗や盗賊だった流れ者などがいる区画になりますので・・・」
「確かにそれじゃあ治安がどうのとは言えないな」
そして貧民区を抜け一通り回った後にコニーに気になったことを聞いた。
「度々見かける冒険者や旅人風な者たちが連れて歩いている荷物持ちはなんだ?」
「あれは見たとおり荷物持ち、通称バックパッカーと呼ばれる者達です」
冒険の際、荷物を持ち歩きながら旅をすることになるがその荷物を運ぶ仕事が『バックパッカー』なのだそうだ。
冒険者ギルドなどがあるように運送ギルドというものがあり、そのギルドからお金を払い雇っているのだそうだ。
「ただバックパッカーも安くはありません、それこそ名のある冒険者や金に余裕がある商人が雇うものですね」
「金が掛かるのか、金を払ってまで荷物持ちとはな」
「勇者様はアイテムボックスがありますから気にならないと思いますが普通はそんな希少スキルは持っていないので基本的にはギルドで雇いますね」
「それもそうだな、アイテムボックス様様だな」
「あとあまり大きな声では言えないのですが、奴隷を買ってバックパッカーにするものもいるそうです」
「ほほう?、メリットとしては雇う金が必要なくなるか」
「はい、度々報酬を払う必要がなくなります、ですが奴隷の中には前科を持ったものもいますので安心はできません」
「そのまま持ち逃げもありえるってことか、大丈夫なのか?」
「一応奴隷は主人には逆らえない契約がされますので大丈夫だとは思いますが、逃げた奴隷の持っていた荷物が戻ってくるかは別問題ですね」
「で、その話が出るってことはこの街にも奴隷市場みたいな場所があるのか?」
興味本位で聞いてみた、買うかどうかは別として見てはおきたかった。
コニーは少し考えてから「わかりました、こちらへ」と声を抑えて連れて行ってくれた。
そこは商業区の一角、建物と建物の間の狭い通路の先にあった。
表通りは活気があり明るい雰囲気だったのに対し、ここは澱んだような空気が漂っていた。
「一応ここが奴隷市場になります、ですがここの商人は金をふんだくろうとしてくることがありますので気をつけて下さい」
「わかった、注意しておこう」
コニーと話してる間も貴族らしい者が商人と話していたり冒険者が奴隷を買ったりしていた。
だがその顔は下卑た顔をしている。
「労働力を求める者もいますがそれ以外にも夜の相手や道具として買っていくものもいますので、自分はここの空気は嫌いです」
コニーは買っていく客を睨みつけるように見ている、本当にこういう場所が嫌いなようだ。
そんなコニーを見かねて表通りに戻ろうとしたとき奴隷商人に話しかけられた。
「へっへっへ旦那、ここに来るのは始めてかい?」
「ああ、そうだが?」
「丁度イキのいいやつが入ったんでさぁ、見ていきやせんか?」
「・・・・わかった見せてもらおう」
その会話を聞きコニーは驚いたような顔つきをしていた、俺が奴隷に興味を示さないだろうと思っていたのだろうか。
実際興味はないといえば嘘になる、だがここの雰囲気が嫌いなのも事実であった。
それ故にこの商人から話だけ聞いて帰ることにしたのだ。
「それで、商品はどれなんだ?」
「へい、これでさ」
奴隷商人の後ろには垂れ幕で隠された一角がある、そこに奴隷を待たせているのだろう。
促されて中に入ると少年や少女、中には屈強な男もいた。
「ここにいる奴隷は全て私の用意したもんでさ、特に優秀なのはこの男、以前は冒険者をしていたらしいんですが、盗賊に襲われてそのまま奴隷商人である私に売られたんでさ」
「確かに労働力としては使えそうだな、だが男手は足りている」
「ならこっちの女や子供はどうせしょう?」
奴隷商人の顔がいやらしくニヤついている、胸糞悪いがここは抑えておこう。
「最近入ったやつですとこっちの少女ですかね、どこの村の出身なんだがわかりゃしやせんが見た目も中々綺麗で、それでいてまだ手はついておりやせん」
身長は低く、髪は腰まであり漆黒のような黒、その髪に反して肌は異様なほど白い。
確かに綺麗だったが少女の纏う雰囲気が何やら他の奴隷とは違う、何かただならぬ雰囲気を感じる。
「商人、こいつはいくらだ?」
「た、隊長!!」
「口を出すなコニー、で、いくらだ?」
「へへっ、こいつは最近では結構な上物だったんでね、金貨180枚ってところでしょうかね?」
こういう商人は基本的に値段を上乗せしているものだ、なら交渉して値段を下げればいい。
「少し高いなぁ」
「そう言われましても、こっちでもこの金額が精一杯でして」
「ふぅん」
そう言いながら奴隷の少女に近づきステータスを確認する
ナイアルラト・ホテップ
邪神
Lv.1
スキル
邪なる神 眷属召喚 因果逆転 魔石生成 闇生成 魔法開発 物理無効 魔法攻撃耐性 空間魔法 次元操作 核撃魔法
おい奴隷商人とんでもないもん混ざってんぞ、こんなの居てもいいのかよ・・・
『ナイアルラトホテップ』なんて恐ろしい邪神の一角だぞ、人の人生を狂わせ、時代ごとに人々に厄災を招く黒い使者だぞ。しかもなんか字面からやばそうな魔法があるんだが・・・
核撃魔法
大規模破壊魔法の総称、都市一つを壊滅させる程の魔法やそれに類するもの
こりゃまじでやべぇ・・・・
ステータスをのぞき見てドン引きしていると突然少女から平手打ちが飛んできた。
パシン!!、と大きな音がするがその威力は少女の見た目に相応しいものだった。
「このやろうが!、大事な客に向かってなにしやがんだ!!」
そう言うと商人は少女を殴りつける、だが殴られた少女は商人には見えないように、それでいて俺に見えるように笑っていた。
「失礼しやした、こんなクズだとは思いませんで」
「いやいい、それよりこんなことになってただで済むと思っているんじゃないだろうな?」
「滅相もありません!、今回は大変申し訳ありませんでした!、他の奴隷を」
「いやこいつでいい、だが値段はそのままとはいかねえぞ?」
「わかっております!、迷惑料として値段を下げまして金貨120枚でどうでしょうか?」
「その程度か?、全く誠意を感じねぇぞ?、しかもお前さっきこいつを殴ってキズモノにしたよなぁ?」
「で、では金貨90枚で」
「70枚だ」
「そ、それはあんまりでさぁ!!、80枚!!これ以上は勘弁してくだせぇ!」
「・・・いいだろう、金貨80枚で買おう」
「ありがとうございます・・・、それでは奴隷契約をさせていだだきます、右手をお出し下さい。」
「わかった」
随分値切れたものだ、少女が笑ったのはこれを予想してだったのだろうか?
俺は大変なものに手を出してしまったんじゃないだろうか・・・
そう考えてる間にも奴隷商人が手に何かしている、どうやら話に聞いた『主人に逆らえないようにする』手順のようだ。
差し出した俺の右手に一瞬魔法陣のようなものが浮かび、直ぐに消えた。
少女、もとい邪神の右手にも魔法陣が浮かび上がり消える。
「これで契約は完了です、これ以降奴隷は主人の意に逆らうような行動は制限されます」
「具体的にはどう制限されるんだ?」
「主人への反逆をしようとすりゃ奴隷はそのまま死にやす、それ以外ですと一定距離勝手に離れた場合は毒状態のように徐々に衰弱、それ以外ですと主人の権限で殺すこともできやす」
「成る程な、ではこれで帰らせてもらう」
「ありがとうございました・・・」
そのまま少女とコニーを連れて裏通りから出たところでコニーから質問責めにあった。
「何故奴隷など買ったのですか!?、それにあんな大金まで!」
「こいつを買ったのは俺の気まぐれだ、だがその理由はそのうちわかる」
「何を根拠にそんなことを!」
「なら明日、訓練場で披露だな」
そう言いながら少女の方へと向き直り自己紹介をする。
「俺は義仲 昴ってんだ、よろしくな、えっと」
「名前はなんでもいい、好きに呼んで」
「わかった、じゃあ『ナイア』でいいか?」
「なんだ、私のことわかってるんじゃない、それなのに私を買ったの?」
「まぁな、でも頼むから俺の人生を狂わせないでくれよ?」
「一応私の主人なんだからそんなことしないわよそれに貴方、この世界の人間じゃないのね」
「やっぱり分かるのか、まぁ邪神だもんな」
「まぁ私はまだこの世界に生まれたばかりだから大した力なんてないわよ」
大した力ねぇ・・・、現状でも国一つ潰せるんじゃないか?
「それでも一応奴隷だからな、そういうふうに振舞ってくれよ」
「わかったわ、マスター?」
「おう、これからよろしくな」
なんかこれから大変な日々が始まりそうだなと考える俺と隣では頭を抱えるコニー、そしてこれからの相棒となる少女(邪神)を連れて城へと戻った。
訓練場の兵士は皆息を荒げて地面に座り込んでいる、どうやら50周終わったようだ。
「兵士達お疲れ、今日はもう休んでいいぞ」
「ハ、ハイ・・・」
「明日は55周だからな?」
「「「レ、レンジャー・・・」」」
強くなるためには努力は大切なんだよ兵士諸君?
ついでに奴隷を買ったことを王に報告した、俺の『物』だから俺と同程度に扱うようにとも釘を刺した。
街は回って見たので明日から本格的に鍛えて国を出る準備を進めることにしよう。
まずはお金だ、また貯めないと身動きが取れなくなってしまった。
ナイアを買ったのは失敗だっただろうか・・・
とにかく明日考えることにして布団にもぐった。